2012年03月01日

略奪大国〜あなたの貯金が盗まれている! ジェームス・スキナー

友人が「読み終わったから」と渡してくれたので一読。
著者は米国出身の経営コンサルタント・起業家・「7つの習慣」の日本での発行人でもある。

ざーっと飛ばし読みしたので、あまり内容について責任のある発言はできませんが、経済の事が良くわからないまま大人になってしまった人が読めば、衝撃を受けるのではないでしょうか?でもキレイゴト抜きのこういう真実を最初から掴んでしまうのも良いかもしれません。

ただし著者なりのバイアスも掛かっています(小さな政府、競争原理肯定の新自由主義的思想のようです。それから当然ですが米国の国益を代弁している部分が多々あります)から、素直に何もかも鵜呑みにしてはいけません。
例えば、日本を破綻から救うには、アメリカと合併して「アメリポン」になるのが良いとか楽しいページもあります。TPPもそうですが、勢力の衰えてきたアメリカがこれまで貢がせてきた日本を更に抱き込もうというハナシでしょうか笑えます。

ただ、総じて日本の現状については正しいことを言っており(それもかなりズバスバと)、多くの提言には耳を傾ける価値があります。

銀行はデリバティブなどで金融市場をカジノ化してはならず産業分野に必要な資本を供給するという本来の業務に戻れ、という主張などはフランスの思想家ジャック・アタリなども言っていますが大賛成です。
公務員給与のGDP連動も大いに実現したいアイデアです。国民が豊かになれば公務員も給与を上げ、GDPが下がった(国家の運営がうまくいっていない)なら下げる・・民間なら当然の措置でしょう? 以下メモ。

・・・

●創造していない価値を消費することはできない

自分が創り出した価値に見合ったものを他と交換して消費するのが経済の正しい姿。何も生み出していなけれ消費できないはず。

●政府にはお金はない

政府自体は何も生み出していないので、本来は消費できない。なのに公務員に給与を支払い、道路や橋を作る。他人(あなた)のお金でやっている。

政府はあなたから税金を徴収して必要な施策をとる。集めた税金をうまく使えばさらに多くの税金が集まる(例えば港や空港を整備し、それで産業が活発になれば国民は豊かになり税収も増える)。しかし、その場限りの公共事業で必要もない道路を作ったり、人気取りのバラマキなど、投資効果がないことに浪費すれば国は貧しくなり税収は減る。(←イマココ)

●赤字国債の発行自体が間違い

政府は税収の範囲で必要な施策を行わなくてはならない。それができないと赤字国債を発行してお金を調達する。あなたが銀行に預けた預金で、知らないうちに国債が買われている。
そもそも政府は何も価値を創造していないのだから、国債につける利息も結局はすべて国民の負担になる。赤字国債は発行してはならない。

●日本は民主主義でも資本主義でもない

一票の格差を放置したままで、正しく民主主義が機能していない。農協や漁協が都市住民から、老人が若者から略奪している。数の大きい集団が自分たちの利益を代弁する政治家を使って弱い集団にたかっている。

国民が儲けたお金が新しい産業の資本とならずに、社会主義的な施策に浪費されている。あなたの預金で国債が買われ、それが社会保障や意味のない公共事業にバラまかれている。資本主義が機能していない。

●社会保障費の削減が必要

現行水準の社会保障費はまかなえない。40%程度は削減が必要。

●政府はそこをどいて自由にさせてくれ!(政府を小さくし、規制を緩和せよ)

資本主義は正しく運用されれば最高のシステム。これまで社会が飛躍的に発展した時代は、政府や官僚の力が弱く、産業が伸びた時(例:戦後日本の高度成長)。うまくいかないのは資本主義に問題があるからではなく、政府や中央銀行がまずい政策をする時。

●政府、中央銀行は次の3つを必須項目として実施すべき

・通貨の価値を一定に保つこと
・赤字国債の発行は禁止すること
・銀行を本業に戻すこと

・・・

戦争に負けて政府と軍部が力を失い、産業界がその締め付けから解き放たれたとき日本はめざましい発展を経験しました。

しかし、好調な経済と、官僚のお膳立てに乗っていれば何もかもうまくいく時代が続いて政治家は馬鹿になり、いまでは実質的にこの国を支配しているのは官僚のほうで、政治家がリーダーシップを発揮しようとしても官僚にコントロールされてしまう仕組みです。
役所の予算は年々と肥大化し、税収が足りないというのに今年の国家予算は昨年より大きくなってまた赤字国債を発行しています。高齢化による社会保障費の増大だけが原因ではありません。企業や家計ならありえない話ですが、自らの権益拡大を優先する官僚にとっては天下国家のことはどうでも良いのでしょう。

国民はこの状況をきちんと認識して正しい政策を選ぶ、選ばれた政治家がリーダーシップをとって実行する、官僚はそれをサポートする、という

「本来あるべきかたち」

を実現しなくてはなりません。

読むべし!





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2012年02月12日

政治家の殺し方 中田 宏

著者は、元横浜市長。
週刊誌の暴露(いや捏造)記事で「ハレンチ市長」と叩かれ、「愛人」なる人物が横浜市役所で記者会見したりして騒動になった。

自分はその時期に横浜市民だったのですが、週刊誌など年に3冊くらいしか読まないし、TVのワイドショーも見ないので、実際のところ上記の騒動についてほとんど知りません。むしろ横浜競技場のネーミングライツ(命名権)を日産に売ったり、「G30」キャンペーンでゴミ削減に取り組んだりと、新しい施策をいろいろ実行していた市長・・という記憶が強いです。まあ結果として、暴露記事も愛人問題もひとつ残らず捏造だったようです。

本書では、なぜそういう根拠のないスキャンダルが現れてくるのか、その温床となっている利権や既得権益集団の仕組みと、政治家が改革を志向した場合に出てくる抵抗の実例を紹介しています。「バカ」「死ね」というメールが市役所職員から続々と届く(しかも部署名・実名を堂々とさらしたままで!)という実態に呆れ果てます。
辛口な点を申し上げれば、文章がやや稚拙な感は否めません。が、「体験者は語る」内容のおもしろさがそれを補うでしょう。

以下メモ。

・・・

政治家を殺すのに刃物はいらない。スキャンダルを捏造すればよい。事実無根のスキャンダルは、「ない」事を証明するのが難しいため解決に時間がかかる。その間に支援者の離反等で政治的パワーを削げば目的は達する。

政治家が改革を志すと、改革によって今現在手にしている利権を奪われる側は抵抗する。横浜市の場合、代表的な利権集団として、建設業界・公務員組織・風俗業界がらみの暴力団が挙げられる。

談合を禁ずれば建設業界から、定数削減や特殊手当の廃止を行えば公務員組織から憎まれる。風俗店の一掃に取り掛かれば暴力団が怒る。自分たちに理がない場合、スキャンダルをでっち上げてでも攻撃する。

マスコミのレベルは低劣。週刊誌の捏造記事をろくに調べもせず新聞がそのまま記事にしたりする。根拠薄弱な記事を1000行も載せておいて、訂正記事は10行ほど。報道されていることが真実だと無邪気に信じてはダメ。

行政の体質として、公表義務のある情報と、知らせたいことは発表するが、聞いてほしくない事は調査されて初めて最低限の情報をやっと出す。

公務員は法律で守られているため、明確な犯罪でも犯さない限りクビにならない。それを知っているため、市長に実名で「死ね」とメールを送ってくる者もいる。

ただし、大半の公務員は世の中が考えている以上に真面目に奉公しているし、横浜市政の改革に協力してくれた。”政治主導”という言葉は良いが、政治家一人では問題解決できない。政治家による「課題提起(イニシアチブ)」と「最終決定(ディシジョン)」、役人による「選択肢提供(オプション)」と「執行管理(オペレーション)」という役割分担と互いの責務の全うが大事。

政治家が現実を語らないことが日本の問題。増税でも将来展望でも、国民に本当のことを話し理解を求めるべき。

今後の日本では「不自然を改める」ことが大事。日本は破綻するとか、まだ大丈夫という議論があるが、税収より支出が多くて借金が膨れ上がり続けている状態は「不自然」であり改めるべき。

全国一律の規制を撤廃し、自由度を増して創意工夫の生まれる余地をつくるべきだし、自由と比例する責任を持たせるべき。つまりは、地方でも個人でも国自身も「自立」ということが大事。今の日本は依存社会。地方は国に、国はアメリカに依存している。よく言われる「平和ボケ」とはアメリカによる「保護ボケ」ではないか。

・・・

と、後半は中田氏の政治信条が語られていて、個人的にはスキャンダルの顛末よりこちらの方が共感できました。

大阪の橋本知事が市長選に立候補した際の異常なスキャンダル報道を見ても、現在ある既得権益構造を大きく改革しようとする政治家には、利権集団・役人・マスコミがグルになって攻撃を仕掛けます。

国民は、真実を見きわめる目と知性を養いましょう。本当は、それが民主主義を実現する基礎要件のはずです。

読むべし!



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2012年02月05日

決断できない日本 ケビン・メア

著者は元・米国務省日本部長。
日本に19年間在住し日本人の妻を持つ国務省きっての日本通だったのだが、基地問題に絡み「沖縄はゆすりの名人」と発言したとの報道により更迭され職を辞した。

本書は、その問題発言の真相や、東日本大震災でのトモダチ作戦の舞台裏〜日本政府が機能不全に陥っていた実態、また日米同盟や日本の政権に対する米国側の見方など、「元外交官」のホンネが満載された楽しい一冊です。

「ゆすり発言」にもメア氏本人にも、さして興味はなかったので本書が売れているのは知っていても読んでみようとも思わず、古書店で100円だったのを何の気なしに買ったというのが本当のところです。その割には、よく言われる事でもあり判っている事でもあるが実際まあ確かにその通りだよね〜、と頷ける部分が多々あり、意外に楽しく読みました。

ちなみに、「ゆすり発言」問題自体は、共同通信の記者と、その背後にいる基地反対派の左翼弁護士による捏造記事・・というのが概ねの真相らしいですが、そんな事より更迭の真因は「憲法9条を改正すると米軍が日本の土地を自由に使えなくなるし、日本から召し上げている膨大なお金も手に入らなくなるので、改憲は米国の国益にならない」(要するに米国は日本を軍事的に自立できない状態に押さえ込んでおくことで延々と自国の国益=基地の保有と金=を吸い上げている)というホンネを漏らしたために国務省が慌てて事態の収拾を図ろうとした・・という事のようです。まあメア本人はこの本ではもっとキレイゴトを書いてますが。

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社会的コンセンサス(合意)を重視する「和をもって尊しとなす」は、本来は熟議の末に果敢に決断するものであるはずだが、最近の日本の政治家はコンセンサスが得られないことを理由に決断を先延ばしする悪しき習慣がある。

米国では失敗しても再チャレンジすればよいと考えるが、日本では一度でも失敗してはならないという風潮があり、失敗して責任を取らされることを恐れるあまり決断せず物事が進まない。

例えば、東日本大震災のとき、米国は提供できる支援物資のリストを日本政府に送ったが、長々とした質問が返ってきただけで、何を送ればよいのかいつまでも決まらなかった。

日本の官僚機構のお役所仕事は最低。付き合っていて本当に嫌になる。

震災後、東電は米軍に対し真水を運べる方法がないか打診してきた。日本政府自身は原発の状況について、ほとんど重要な情報を把握していなかったようだ。(このとき、日本という国家は機能していなかったと言えます・・)

沖縄には補助金づけという問題がある。基地が移転してしまえば補助金がもらえなくなる・・という事実が、基地の移転を阻害している。これは補助金システムという構造の問題であって、沖縄の人々の品行性情の問題ではない。

民主党の「政治主導」は理念としては立派だし、そうあるべきであるが、官僚機構を敵に回したのは失敗。どの国も、官僚組織の助けなしに国家の運営は出来ない。

・・・

日米同盟、世界の軍事バランス、中国の台頭・・などについて、プラグマティック(現実的、実利的)なアメリカ人の、良い意味での単純明快さが出ていて読みやすいです。瑣末な雑音を排して、物事の肝心な部分を見ればこんな感じ、というところでしょうか。

もちろん、米国は様々な影響力を行使して日本を陰に日向に操っていますが、そういう「ウラ」の部分をさて置いて、わかりやすく「オモテ」の議論をすればこんなところでしょう。陰謀論の好きな人にはもっと別の意見があるでしょうが、モノゴトの「ウラ」の部分が「オモテ」に比して、それほど膨大であるとは思えません。

さてこの機会に自分の見方を整理しておくとこうなりましょうか。

・今後も当分の間、日本にとって最も重要な国は米国である。また、米国は今後も、世界で最も有力な国のひとつであり続ける。

・中国は異文化国家だという事をよく認識し、適度な距離を保ちつつ関係を良くして行くべきであって「米国も落ち目だから中国につこう」などと妄動してはならない。

・ただし、米国も自国の国益を最優先に考えて動くので、日本から吸い取れるものは吸い取ろうとする。「トモダチ」も日本人が純真に考える個人間の友情とは訳が違うのだから、それを「ずるい」とか「汚い」とか「陰謀」とか言うのはナイーブ過ぎる。双方が利のある部分を出来るだけうまく取り合うのが大人の付き合い(外交)。

・米国にとっても日本は重要な国。米国のスーパーパワーの源泉のひとつは、世界の軍事費の半分近くを一国で消費する圧倒的な軍事力にあり、全地球に展開する米軍にとって、ちょうど地球の反対側で米国本土と同じくらいの武器弾薬を安心して置いておける同盟国など日本以外に見つからない。日本人はそのポジションをもっとよく認識したほうがよい。台頭する中国との対峙というテーマだけでも、日米同盟は重要性を増すばかりである。

・ありていに言えば日本は米国の属国か、よく言っても天領。でも、どこかの国の家来でいるなら米国が一番マシで、中国の支配下に置かれたら終わり(チベットとか、東トルキスタンとかを見れば明白)。
日本は独立自尊の国家に成熟すべきだが、あまりにも物を考えていなくて戦略性がないため、自立には程遠い。もっと国民が自分の頭で考えないとダメ。(参考:日本人はこうして奴隷になった 林秀彦

・日本にも無数の問題はあるが、日本の国柄と社会の安定度、人間の質は世界最高水準。(参考:私は日本のここが好き! ― 外国人54人が語る 加藤恭子
この点では、世界中が日本のようになればよい。ただ、繰り返すが国民がもっと世界の情報を知り、自分の頭で考え自立しないとダメ。

で、そのための一助となればいいな・・というのが、このブログの目的でもあるわけですね。

読むべし!


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2012年01月29日

ワイルド・ソウル 垣根 涼介

第六回大藪春彦賞・第二十五回吉川英治文学新人賞・第五十七回日本推理作家協会賞の三冠同時受賞作品。

小説のエントリーが続いて恐縮ではありますが、やはり面白い本は紹介しないと勿体ない。

信用できる人からの推薦があって購入。最近は人のオススメを素直に聞くという態度が出来てきて、おかげで良い本に会える機会が増えている。ニンゲン、素直が大事だね。

で、今度はこうしてブログで紹介するわけですが、予定のない連休の前、とかに読み始めるのをお奨めしたい。なぜか?想像がつくと思うけど、途中でやめられなくなるからです。

この国には昔から性根の腐った部分があります。国民の命を守らず、むしろゴミのように無駄遣いして捨てる。最たる例が「特攻」であり、最近では原発事故における政府・官僚の不作為でしょう。SPEEDIのデータを公開しなかったために、どれほどの市民が無用な被爆をしたのだろう。

元外交官の佐藤優氏が喝破するところによれば、こういうことです。
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明治憲法以来、官僚は政府ではなく天皇に忠誠を誓う組織であったが、敗戦後、天皇は権力中枢から降りてしまった。その後、官僚機構は漠然と「日本国」のために働き、彼らが集合意識的に志向する「正義」によって動いている。
官僚達にとっての「正義」とは、日本国&エリートとしての自分達であり、国民などは有象無象・・何も考えず手足として黙って働いて税を収め、国家の都合によっては簡単に打ち捨ててよい存在・・でしかない。(「小沢革命政権で日本を救え」より管理人が要約)
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本書は、日本政府・外務省が行った戦後最悪の「棄民政策」を追って始まる。

「ブラジルでは家付きの農地が支給され、努力次第で必ず成功できる。」政府の口車に騙され、親戚から借りたなけなしの金で船に乗った貧しい移民たち。だが彼らは移民ではなく、口減らしのための棄民だった。すべてが嘘だった。故郷に戻る術もない彼らが送り込まれたのは、農地どころか野生のままのジャングルだった。地獄のはじまりだった。

わかりますよね?もうこれ、途中で読むのをやめられないです。

彼らの運命、慟哭、怒り、哀しみ、蕩尽されてゆく命。
文明から隔絶された入植地。そこから徐々に消えてゆく家族。あるものは病に倒れ、あるものは獰猛な自然との格闘に絶望して逃亡する。しかし逃亡した先にも、異国で社会の最底辺を乞食同然に這いずり回る運命しかない・・

しかし、一人の男が細い蜘蛛の糸を辿るようにそこから這い上がり、すべての家族が死に絶えた入植地に戻ったとき、ある運命が待っていた。

後半は、彼ら移民たちが日本政府と「ケリをつける」話に盛り上がってゆきます。入念に準備された日本国、政府・官僚機構との対決・・ますます読むのをやめられないです。

前半の重苦しさを、後半の痛快さがうまく中和しています。主人公ケイの底の抜けた明るさが、物語全体のトーンを救っています。彼に絡んでくる脇役たちも、一人ひとり顔が見えるほど明確な個性があります。

ずばり男性向けです。過激なエロシーンもありますので、大人の方だけ読んで下さい。

読むべし!




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2012年01月22日

本格小説 水村美苗

2002年読売文学賞受賞。

最近はあまり小説を読まない・・と以前のエントリーに書きましたが、それは比率が減っているという意味であって、まったく読まないわけでも興味がないわけでもありません。それに、比率が減った割には「当たり」の確率は高くなっていると感じます。

本書も「当たり」の一冊。いや「大当たり」の一冊です。

著者は、以前UPした「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」(すごい本だった・・)の水村美苗氏。「日本語が・・」は評論だったわけですが、それ以前の著作はすべて小説で、「数年に一度、実に読み応えのある小説を発表する作家」との情報もあったので、試しに読んでみるか!と購入。

いや、試しに・・という気軽な調子には相応しくないかもしれません。なにしろ上下巻1000ページ。装丁も麗々しい。なによりタイトルが「本格小説」です。
このタイトルは冗談でつけるか、でなければ相当の内容が伴っていないとつけられないと思いますが、「日本語が亡びるとき」で知った著者の力量を考えれば、とても冗談とは思えない・・などと思いつつ読み始めたのですが、やはりその日は予定外の夜更かしをする羽目になり、翌日からは10分間だけ電車に乗る間も、昼飯を食う間も、待ち合わせの隙間も惜しんで読みふけりました。

本格的な小説でした。

どうせ読むならこういう本を読んだほうがよい。1000ページが全然長くない、どころか、残りページが少なくなるにつれ、終わるのが惜しくなってくる。著者の、日本語表現力の高さが読みやすさを後押ししています。

恋愛小説でした。

それも一途で、せつなくて、生涯を捧げた、大人の男が読んでも引き込まれる、大恋愛小説でした。

・・・

戦後、まだ日本に「階級」が厳然と残っていた社会で、裕福な家庭に生まれた娘・よう子と、中国から乞食同然に逃げ帰ってきた貧しい家の子・太郎が出会う。

階級があり、生まれつき持てるものと持たざるものの絶望的なまでの落差があり、だからこそ、その落差を攀じ登ろうとする飢餓感があった社会。

太郎はアメリカに渡り、実力で大富豪にのし上がり伝説の男となる。いっぽう、華やかだったよう子の一族は凋落の一途を辿ってゆく。

この二人の、運命や階級を乗り越えようとする大恋愛を核とし、彼らを取り巻く多彩な登場人物たち、その一族の物語を、多重構造の語り手たちが「軽井沢」という舞台を中心に紡いでゆく。

・・・

太郎の子供時代から青年期の運命にハラハラし、世代を経るに従って光と力を失って行くよう子の一族に、明治維新をピークとして小粒化して行くばかりの日本の近代を重ねてイメージし、最後に明かされる物語の主要な語り手である冨美子と太郎の関係にあっ!と驚き納得します。

「日本は軽薄、というより稀薄な国になってしまった」

太郎の言葉に、かつて階級・大家族というものが厳と存在していた重厚な社会が、なんだか拠り所のないフワフワした世界に変わってしまった虚無感を感じます。

自由と平等を無条件に「良きもの」として進んできた戦後日本ですが、フラットな水面が静かで美しくはあっても活力に欠けるように、落差がない社会には流れも勢いも生まれないでしょう。きれいごとを抜きにして言えば、階級というものは現実に存在しますし、悪平等で覆い隠すのではなく、むしろそれが目に見える必要があると思います。大事なのは、階級を固定させないこと、努力や才覚で格差にチャレンジできることであり、それこそが社会のダイナミズムを生む原動力となるはずです。特に、(偏差値エリートではなく)天下国家の行く末を我が事として考えられる、真の意味でのエリート階級が求められます。
見えにくい階級化がひそかに進み、若い世代に「チャンスがない。努力しても報われない」という無言の絶望感が広がるのは最もいけません。

日本に階級があったころを舞台にしてこそ描けた”本格小説”。

堪能してください。

読むべし!



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