2018年11月12日

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?〜経営における「アート」と「サイエンス」〜 山口 周

著者は、電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成とのこと。

本書は、冒頭で英国の名門美術大学院が、グローバル企業のエグゼクティブ向けに美術の講座を提供し始めたという意外な事実を示し、なぜいま経営の分野にアートや美意識が必要かを、以下3つのポイントから説きます。
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1)論理的・分析的情報処理手法の限界
MBAやコンサルティングファームに代表される分析的思考法が普及した結果、ビジネス上の課題解決は誰がやっても(論理的に)同じ結論に至るようになった。そこでは計測不能な要素は捨象され、他社との差別化は難しくなり、ついに全ての市場はレッドオーシャン化してしまった。企業はスピードアップやコスト競争に走り疲弊し、ついに偽装や粉飾に手を染める事態すら起こっている。
美しいか?楽しいか?など、別の価値軸を建てないと限界である。

2)巨大な自己実現欲求市場の出現
有名な、マズローの欲求5段階説によると、生理・安全・社会的欲求のような基礎的なニーズが満たされると、能力向上や創造活動などの「自己実現欲求」が現れる。
豊かになった世界で人々は、生活必需品よりも「スタバでMacBookを開いて仕事する自分」のような、自己表現につながる消費を求め、全てのビジネスはファッション化する。論理や分析では、こういった消費者に応える製品・サービスは生み出せない。

3)社会の変化にルール制定が追いつかない
キュレーションメディアでの無責任な情報発信や、製造メーカーでの長年に亘るデータ偽装など、モラルを疑う不祥事が頻発している。これは、技術や社会の進化・変化に、法やルールの整備が追いつかない状況の中で、拠るべき規範(美意識)を持たない人々が、内輪の論理に則って社会全体の利益に反する行動をした結果である。
テクノロジーや社会の変化は今後も加速し、法整備が後手に回る状況は続く。規範としての美意識を持つことは企業防衛の観点からも必須である。

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●企業経営には「アート」「クラフト」「サイエンス」がバランスよく必要

科学的分析の「サイエンス」は基本であり、感性を重視するとしても非論理的であってはダメ。また、経験値の蓄積である「クラフト」も重要な資産である。ただし、科学的・論理的思考だけでは他社と同じ結論しか出せず、経験に従うだけでは変化の激しい世界で道を探せない。これらの上に「アート」、すなわち直感や感性、何を是とするかの美意識など、数値化出来ない哲学的、芸術的観点が必要である。
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●「悪とは、システムを無批判に受け入れること」

オウム真理教では「美がなく、極端にシステマティックで、点数を取れば段階を登ってゆける解り易いシステム」にエリートが嵌まった。ナチスでホロコーストに尽力したアイヒマンは役人のように「命令に従っただけ」と弁明した。
偏差値は高いが善悪を判別する心の基準がなく、システムを無批判に受け入れるような人間は危険。企業内で不祥事が長年繰り返されるのも根っこは同じ。
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と、非常に切れ味のある論を展開しています。

興味深かったのは、我々が物事を判断する際に情動が大きな役割を果たしている事実を脳科学の知見から解説した部分です。判断においては、できるだけ感情を排し理性的にすべきと考えがちですが、実は我々は、無数の選択肢からまず感性を使って「あり得ないオプション」を排除し、残った可能性から論理や計算に基づいて最終候補を選んでいるとの事。

デザインを学んで社会に出た自分が、なぜ輸入商社の経営という畑違いの仕事をしながら、ほとんど迷うことなく秒速で何でも決断できるのか(あるいは、他の人がなぜそんなに迷うのか?)と疑問に思っていましたが、答えは「デザインを学んだにも関わらず」ではなく「デザインを学んだから」なのかもしれません。

Appleや無印良品、MAZDAなど、成功し、魅力的である企業には、アートと、感性と、筋の通った哲学の存在を感じます。人しても、企業としても、そのような姿を目指したいものだと思いました。




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2012年11月04日

中国は東アジアをどう変えるか ~ 21世紀の新地域システム ハウ・カロライン/白石 隆

京都大学東南アジア研究センターの元教授と准教授の二人による著作。

台頭する中国は周辺国にどのような影響をもたらすか・・という、誰にとっても無関係ではなく、多くの場合、一縷の不安を伴って頭をよぎるこの問いに、きちんとした研究を基に答えた良書です。以下メモ。

・・・
第二次大戦終結後、唯一の有力な大国であったアメリカはアジアとヨーロッパで課題に直面した。

・ヨーロッパにおいては荒廃した各国の復興を進めると共にドイツが二度と軍事的に台頭しないこと。
・アジアにおいては共産国の台頭を抑えつつ、日本が二度と軍事大国化してアメリカに再びチャレンジしないこと。

これらの課題には別種の処方箋が与えられた。
ヨーロッパにおいては「ヨーロッパ人」という新しいアイデンティティの下、のちのEUにつながる独仏を中心とした共同体の構築が図られた。
しかしアジアにおいては「アジア人」という概念が意味を持たず、また中国は包括されるべき対象ではなく共産国として封じ込められるべき相手であったため、アメリカとの軍事同盟とともに日本の復興が求められ、やがて日本を先頭とした雁行型の経済発展を導き、「(中国を除く)アジア」「日本」「米国」の三角貿易体制が確立した。

1980年代に、中国は世界経済に参画することを望み、日米は中国をアジア太平洋経済の枠組みに導き入れることに決めた。
やがて日本・韓国・中国沿岸部・台湾・シンガポールなどが経済共同体の中に組み込まれ、政治や文化の統一とは別に、まず経済的な共同体が構築された。中国の経済大国化とともに、「中国」「日本を含むアジア」「米国」の三角貿易が確立した。

この段階にきて、「東アジア共同体」構想が浮上し始めたが、同時に「冷戦の勝者はドイツと日本だ。アメリカは日本が第二の大東亜共栄圏を構築するのに手を貸しただけだ」という批判が米国で盛んになり、日本は東アジア←→アジア太平洋のバランスを鑑みた結果、アジア太平洋の経済同盟をより重視して、APEC(アジア太平洋経済協力)を選択した。

・・・
多くの識者が予想するように、今後は米国の一極支配が衰退し、世界は多極化する。しかし、世界はすでに経済的にも政治的にも分かちがたく一体化しており、米国・中国・欧州・インドなどを「盟主」として、各国が地域連合を作って対立するという構図は考えがたい。

米国のヘゲモニーによって作られたWTOやIMF、世界銀行などの機関は、いまや世界各国がその枠組みを支持し利用する「公共財」となっており、台頭する新興国がこれに代わる新たな枠組みを作り出そうとしても容易にいかない。そういった意味で、現在ある世界システムはそれなりに強固であり、あらたなシステムを誰かが勝手に作ることは難しい。

アジアに限っても、中国の台頭に際して各国が中国の作る秩序に組み入れられたり、一方的に「なびく」といった現象は見られず、インドネシアやヴェトナムのようにむしろ警戒感を強めて他国との連携を深めようとする動きさえ起こっている。これらアジア各国の対応の違いは、地政学的な位置と、どのくらい世界経済に深く組み入れられているかの差によるが、いずれにせよ米国が鮮明にしている東アジア回帰の戦略のもとでアジアの同盟国が正しいパートナーシップを維持すれば、中国がこの地域で圧倒的なヘゲモンを握るという可能性は極めて低い。

東アジア各国において(一部中国大陸においても)、政治・経済・文化をリードするチャイニーズは、米国・英国・オーストラリア等で教育を受け、アングロサクソンの考え方や行動様式を身につけた「アングロ・チャイニーズ」であり、彼らはタイ語、インドネシア語、韓国語などの母国語の次に英語を、さらにその次に中国語を学んで話すバイリンガル、トリリンガルであり、アイデンティティとして「チャイニーズ」であっても、その意識は中華人民共和国が権威的に押しつける「中国」とは必ずしも一致しない。また、大陸から広く拡散した華僑やその子孫にとって、「中国」「チャイニーズ」という概念はけして統一されていない。

現在、中国のトップはケ小平・江沢民時代に比して国内諸勢力を掌握しきれなくなっており、南シナ海での強硬な領土拡大姿勢に出るなど、これまで善隣外交で培ってきた良好な関係を台無しにして東アジア諸国を米国との同盟構築に走らせている。

・・・
と、冷静な分析をしています。

経済発展する中国が、近い将来に米国の次の覇権国になる・・などという単純な未来がやってくるわけではありません。かの国も今までは伸び盛りでしたが、倍々ゲームで伸びてゆく期間は終わっています。これからが正念場でしょう。
ただし我々も、米国との同盟を危うくするような国内政治を続けていてはなりません。安定した政治状況を作り、中国以外のアジア各国との積極的な連携にも力を注ぐべきと思います。

新書ですがデータの裏付けは膨大で、長いスパンでの歴史も見据えて、現在と未来を見渡す視線を提供してくれます。

読むべし!



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2012年08月05日

人間の叡智 佐藤優

なぜあなたの仕事はつらく給料は上がらないのか?
TPP問題の本質とはなにか?
中国はいまどういう位置にいるのか?
橋本徹はファシストか?

元外交官・佐藤優の著作はいつも刺激的です。
→日本国家の神髄
→テロリズムの罠<右巻>忍び寄るファシズムの魅力
→テロリズムの罠<左巻>新自由主義社会の行方
彼のけた外れの教養と、長年国際的なインテリジェンス(諜報)のフィールドで活動してきた蓄積が、世界を見る洞察力になっているのでしょう。

本書は、書下ろしならぬ「語り下ろし」で、平易で読みやすい文体になっています。が、内容は深いです。以下メモ。

・・・

世界は「新・帝国主義」の時代に入った。
この時代においては、国家は自国のエゴを剥き出しにして戦い、相手が怯んで国際社会も沈黙すると好きなだけ権益を拡大する。相手が必死で抵抗し、国際社会からも「やりすぎじゃないか」と非難が出れば協調に転じるが、心を入れ替えたわけではなく、顰蹙を買って結果的に自国の損になる事態を避けたいだけである。
新・帝国主義のルールは「喰うか、喰われるか」であり、他国から喰われず生きのびる術を模索しなくてはならない。

これから世界は、国際社会のルール整備に関与できる側と、受動的にそれを受け入れるしかない国に分かれる。日本はまだルール作りに関与する力が十分ある。

TPP問題は日本がどこのブロックに所属し、どこを「外部」としてファイアーウォールを作るのかの選択。中国・韓国と東アジア共同体ブロックを作るのか、米国を含む環太平洋ブロックに所属して中国と対峙するのか。

TPPに参加し、環太平洋ブロックを「内側」、中国を「外側」とした場合、内側からの移民はそれほど心配しなくてすむ。文字と言葉の壁が高く、南米やオーストラリアから大量の移民が来ることはない。
新・帝国主義時代のルールがまだ判っていない混沌の大国・中国と組めば日本はカオスに巻き込まれる。今以上の移民がきて、日本人労働者の賃金は中国と均衡するまで下がり続ける。米国と組むべき。

資本主義とは、資本家・労働者・地主・官僚によって構成される。

資本主義が行き過ぎると、労働者への搾取が極端に進み、労働者階級が再生産される(家庭を持って子供を教育し、次世代の労働者を生む)事ができなくなる。
その場合、資本は労働力のある国へ移動すればよいが、徴税が不可能になって国家は滅ぶ。共産主義国と言う対抗軸を失った世界で、資本の暴走を止めるためには国家の力を強化しなくてはならない。
現在はまだ資本の力が強く、先進国では賃金が下がり続け、雇用は減り、就職浪人が増え続けている。この中から国家の力を強化する、という揺り戻しが出てくる。

エリート(国家のトップ層だけでなく社会のそれぞれの階層にいる専門家。現場のリーダー)の力を強化するしかない。
311でも露わになったが、国家エリートの劣化がひどい。民衆が政治を信じられなくなって、専門領域に一般人が踏み込んでくる状態はまずい。ほんらい、政治は選ばれたもの(専門家)がしっかり遂行し、一般の人々は日々の生産活動に精を出さなければ社会は成り立たない。

日本や英国は、目に見えないものの方が実体であるという「実念論」が近代まで残った稀有な国。アメリカは、目に見えるものを実体とする「唯名論」の典型。

中国はネーション・ビルディング(民族形成)の途上。チベットやウイグルを含んだ「中国人」という国民を形成するには、それらを包含できる大きな物語が必要だが成功していない。この過程においては、多くの国がそうであるように「敵」の存在を必要とする。日本がその役割を受けてしまっている。

天皇がなくなれば日本もなくなる。首相公選制や天皇の国家元首化には注意が必要。天皇はタブーとし、神秘的な存在に置くのが正解。タブーのない社会は良い社会ではない。

戦前の日本は西洋発の「近代」を超克しようとしたが負けた=敗戦によって「近代」に敗れたと捉えた。そこで出てきたのが精神論に代わる合理主義、お国のために命をささげるような行為を否定する生命至上主義。そして全体主義に対立する個人主義。この3つが絡まりあって戦後の日本が形作られたが、ここには「力」が入っていない。しかし国家は絶対的に「力」によって成り立つので、この空白を日米安保が埋めた。日米同盟が国体の一部になってしまったため、米国との関係悪化を必要以上に怖れる政治家や官僚が多い。
しかし、力の要素をアメリカに丸投げして金儲けと個人主義でやっていけばよいという枠組みでは、日本という国家が生き残れないとわかってきた。311の天皇陛下のビデオメッセージは重要な意味がある。

今後2〜3年の国際政治の焦点はイラン。相当に現実性の高い核戦争の危機がある。なのに日本では情報が少ない。イランが核を持った場合、合理的な予測からまったく外れた行動が出てもおかしくない。指導者層が分裂・対立しているうえ、ハルマゲドンを本気で信じているグループもある。
イランの核開発にからんで東西対立が復活した。この場合の東側は中東。日本は西側の一員として、かなり積極的に動いている。そんな中で鳩山元首相がイランを訪問したのは大変な間違い。
イランが核武装すれば他国の核保有が連鎖的に進む。日本さえ、核武装の是非を論じる段階をあっさり通り越して保有することになる。

もうゼロ成長でよいから成熟を目指そうという議論があるが、江戸時代のように身分を固定した封建制を復活でもさせない限り、安定した社会を保持するのは無理。高度な教育を受けた者に見合った職業がないような状態が続けば社会は不安定化する。

これまで日本は後進国型の教育をとってきた。先進国に追いつくため、記憶力の良い若者に知識を詰め込み、事の本質を理解していなくてもよいので、とにかく学んだ事を再現できる者を官僚にした。
しかし、これからは物事の是非や理の判る人物、異なる事象をつなげて物語を構築できるリーダーが要る。そのためには時代を超えて読み継がれている古典を読んで万象に通じる理(ことわり)を学び自らの軸とし、小説を読んで人々が共感できる物語を紡ぎだす能力が必要。

・・・

佐藤氏は自身を「国家主義者」と呼びます。
現実の世界で個人の生命財産安全を守るものは国家しかなく、国家が弱れば他の国家や組織から収奪される。また、資本の力が膨張しすぎれば、やがて個人は富を絞り出す原材料として使われる世界が来る。だから国家(と、それを支える社会)の力を強化すべし、という主張です。自分の立場もこれにほぼ同じです。

メモを取っているときりがないほど充満した内容です。

読むべし!


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2012年04月25日

プーチン最後の聖戦 北野幸伯

著者の北野さんはモスクワ在住。
卒業生の半数は外交官に、残りはKGBに行くと言われたモスクワ国際関係大学(MGIMO)を日本人として初めて卒業。驚くべき洞察力で国際情勢を鋭く、しかも判りやすく分析してみせる殿堂入りメルマガ「ロシア政経ジャーナル」の発行人でもある。

彼の著作(本書で4冊目+電子書籍1冊)はすべて読んでいますが、ややこしい世界情勢を実にスッキリと判りやすく、キレイゴト抜きで的確に描き出してくれます。

本書のタイトルには「プーチン」が掲げられていますが、彼を中心にしたロシア(およびかつてのソビエト圏)の政治状況はむろんの事、世界全体の国際情勢が見事に俯瞰されています。これまでに起こった事が証拠つきで明示され、今後の世界で何が起こるかもハッキリと書かれています。
経営や投資に携わる人はもちろん、ひとりでも多くの日本人に読んで欲しい一冊です。なぜなら、次のような地殻変動には、すべての人が巻き込まれるからです。

●いままで

・日本はアメリカの天領
・世界では国家間の絶え間ない闘争
・しかし天領ニッポンはアメリカの庇護の下で何も知らず平和ボケ

●今後10年程度のうちに

・米中二国の覇権争いが進む
・じょじょにアメリカは没落し、世界の覇権国から地域の一大国へ
・日本はアメリカの庇護を失い、強大化した中国と自ら対峙!?

日本を取り巻く環境がなぜ上記のように変化するかは本書を読めばわかります。本当にそうなるのかは、読んだ後で自分でも考えてみてください。ただ断言できるのは、このような変化が「来るか、来ないか」の議論は無効で、「来た場合」を考えて備える必要があるという事です。それが安全保障というものであって、「想定外でした」ではすみません。
個人的には、アメリカが21世紀の成長センターであるアジア地域への関与を手放して南北アメリカ大陸経済圏に隠遁する・・という状況は近未来にはありえないだろうと思いますが、日本に軍事的な庇護を与え続け(られ)るかはまた別の話です。

ほとんどの日本人は、自分たちの乗っているタイタニック号がどこを目指しているのか、どういう理屈で時々航路を変えているのか、外では何が起こっているのか、進んでいく先に何が待ち構えているのか・・を、よく知らない3等船客のように見えます。アメリカが「自由と民主主義のため」と言えば、素直に「そうだよね〜」と信じてイラク戦争を支持してしまう。そんなキレイゴトに騙されるのは日本人だけで、美辞麗句の裏で自国の国益のみを追求するアメリカを、世界の国々はなんとか引きずりおろそうと画策してきました。その経緯も、本書に詳しく書かれています。知らない人には驚天動地の事実でしょう。
日本人がこういった事情に疎いのは、けして知性がないからではなく、上記のように日本がアメリカの天領であり、英米は支配下においた国の面倒見はわりといいほうなので、難しい国際情勢をアメリカ任せにして経済だけやっていればよかった・・というシアワセな時代が長く続いたからです。以前のエントリーにも書きましたが、どこかの国の家来でいるなら、まあアメリカが一番マシで、しかしもう、その時代が終わりつつあるという事です。

これからもアメリカは世界の最強国のひとつでありつづけるでしょうし、日本にとって最も重要な国のひとつでしょう。また、アメリカ後の世界は中国の天下になるのか・・といえば、これはそう単純ではありません。そのあたりも、本書から読み取って頂きたいところです。ただいずれにしろ、私たち日本人には過去数十年とはレベルの違う国際情勢に対するシャープな感覚と、多極化した世界を生き抜いてゆく知恵が求められます。

目覚めよ!既に我々は変化の中にある。


読むべし!!



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2012年03月01日

略奪大国〜あなたの貯金が盗まれている! ジェームス・スキナー

友人が「読み終わったから」と渡してくれたので一読。
著者は米国出身の経営コンサルタント・起業家・「7つの習慣」の日本での発行人でもある。

ざーっと飛ばし読みしたので、あまり内容について責任のある発言はできませんが、経済の事が良くわからないまま大人になってしまった人が読めば、衝撃を受けるのではないでしょうか?でもキレイゴト抜きのこういう真実を最初から掴んでしまうのも良いかもしれません。

ただし著者なりのバイアスも掛かっています(小さな政府、競争原理肯定の新自由主義的思想のようです。それから当然ですが米国の国益を代弁している部分が多々あります)から、素直に何もかも鵜呑みにしてはいけません。
例えば、日本を破綻から救うには、アメリカと合併して「アメリポン」になるのが良いとか楽しいページもあります。TPPもそうですが、勢力の衰えてきたアメリカがこれまで貢がせてきた日本を更に抱き込もうというハナシでしょうか笑えます。

ただ、総じて日本の現状については正しいことを言っており(それもかなりズバスバと)、多くの提言には耳を傾ける価値があります。

銀行はデリバティブなどで金融市場をカジノ化してはならず産業分野に必要な資本を供給するという本来の業務に戻れ、という主張などはフランスの思想家ジャック・アタリなども言っていますが大賛成です。
公務員給与のGDP連動も大いに実現したいアイデアです。国民が豊かになれば公務員も給与を上げ、GDPが下がった(国家の運営がうまくいっていない)なら下げる・・民間なら当然の措置でしょう? 以下メモ。

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●創造していない価値を消費することはできない

自分が創り出した価値に見合ったものを他と交換して消費するのが経済の正しい姿。何も生み出していなけれ消費できないはず。

●政府にはお金はない

政府自体は何も生み出していないので、本来は消費できない。なのに公務員に給与を支払い、道路や橋を作る。他人(あなた)のお金でやっている。

政府はあなたから税金を徴収して必要な施策をとる。集めた税金をうまく使えばさらに多くの税金が集まる(例えば港や空港を整備し、それで産業が活発になれば国民は豊かになり税収も増える)。しかし、その場限りの公共事業で必要もない道路を作ったり、人気取りのバラマキなど、投資効果がないことに浪費すれば国は貧しくなり税収は減る。(←イマココ)

●赤字国債の発行自体が間違い

政府は税収の範囲で必要な施策を行わなくてはならない。それができないと赤字国債を発行してお金を調達する。あなたが銀行に預けた預金で、知らないうちに国債が買われている。
そもそも政府は何も価値を創造していないのだから、国債につける利息も結局はすべて国民の負担になる。赤字国債は発行してはならない。

●日本は民主主義でも資本主義でもない

一票の格差を放置したままで、正しく民主主義が機能していない。農協や漁協が都市住民から、老人が若者から略奪している。数の大きい集団が自分たちの利益を代弁する政治家を使って弱い集団にたかっている。

国民が儲けたお金が新しい産業の資本とならずに、社会主義的な施策に浪費されている。あなたの預金で国債が買われ、それが社会保障や意味のない公共事業にバラまかれている。資本主義が機能していない。

●社会保障費の削減が必要

現行水準の社会保障費はまかなえない。40%程度は削減が必要。

●政府はそこをどいて自由にさせてくれ!(政府を小さくし、規制を緩和せよ)

資本主義は正しく運用されれば最高のシステム。これまで社会が飛躍的に発展した時代は、政府や官僚の力が弱く、産業が伸びた時(例:戦後日本の高度成長)。うまくいかないのは資本主義に問題があるからではなく、政府や中央銀行がまずい政策をする時。

●政府、中央銀行は次の3つを必須項目として実施すべき

・通貨の価値を一定に保つこと
・赤字国債の発行は禁止すること
・銀行を本業に戻すこと

・・・

戦争に負けて政府と軍部が力を失い、産業界がその締め付けから解き放たれたとき日本はめざましい発展を経験しました。

しかし、好調な経済と、官僚のお膳立てに乗っていれば何もかもうまくいく時代が続いて政治家は馬鹿になり、いまでは実質的にこの国を支配しているのは官僚のほうで、政治家がリーダーシップを発揮しようとしても官僚にコントロールされてしまう仕組みです。
役所の予算は年々と肥大化し、税収が足りないというのに今年の国家予算は昨年より大きくなってまた赤字国債を発行しています。高齢化による社会保障費の増大だけが原因ではありません。企業や家計ならありえない話ですが、自らの権益拡大を優先する官僚にとっては天下国家のことはどうでも良いのでしょう。

国民はこの状況をきちんと認識して正しい政策を選ぶ、選ばれた政治家がリーダーシップをとって実行する、官僚はそれをサポートする、という

「本来あるべきかたち」

を実現しなくてはなりません。

読むべし!



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2012年02月12日

政治家の殺し方 中田 宏

著者は、元横浜市長。
週刊誌の暴露(いや捏造)記事で「ハレンチ市長」と叩かれ、「愛人」なる人物が横浜市役所で記者会見したりして騒動になった。

自分はその時期に横浜市民だったのですが、週刊誌など年に3冊くらいしか読まないし、TVのワイドショーも見ないので、実際のところ上記の騒動についてほとんど知りません。むしろ横浜競技場のネーミングライツ(命名権)を日産に売ったり、「G30」キャンペーンでゴミ削減に取り組んだりと、新しい施策をいろいろ実行していた市長・・という記憶が強いです。まあ結果として、暴露記事も愛人問題もひとつ残らず捏造だったようです。

本書では、なぜそういう根拠のないスキャンダルが現れてくるのか、その温床となっている利権や既得権益集団の仕組みと、政治家が改革を志向した場合に出てくる抵抗の実例を紹介しています。「バカ」「死ね」というメールが市役所職員から続々と届く(しかも部署名・実名を堂々とさらしたままで!)という実態に呆れ果てます。
辛口な点を申し上げれば、文章がやや稚拙な感は否めません。が、「体験者は語る」内容のおもしろさがそれを補うでしょう。

以下メモ。

・・・

政治家を殺すのに刃物はいらない。スキャンダルを捏造すればよい。事実無根のスキャンダルは、「ない」事を証明するのが難しいため解決に時間がかかる。その間に支援者の離反等で政治的パワーを削げば目的は達する。

政治家が改革を志すと、改革によって今現在手にしている利権を奪われる側は抵抗する。横浜市の場合、代表的な利権集団として、建設業界・公務員組織・風俗業界がらみの暴力団が挙げられる。

談合を禁ずれば建設業界から、定数削減や特殊手当の廃止を行えば公務員組織から憎まれる。風俗店の一掃に取り掛かれば暴力団が怒る。自分たちに理がない場合、スキャンダルをでっち上げてでも攻撃する。

マスコミのレベルは低劣。週刊誌の捏造記事をろくに調べもせず新聞がそのまま記事にしたりする。根拠薄弱な記事を1000行も載せておいて、訂正記事は10行ほど。報道されていることが真実だと無邪気に信じてはダメ。

行政の体質として、公表義務のある情報と、知らせたいことは発表するが、聞いてほしくない事は調査されて初めて最低限の情報をやっと出す。

公務員は法律で守られているため、明確な犯罪でも犯さない限りクビにならない。それを知っているため、市長に実名で「死ね」とメールを送ってくる者もいる。

ただし、大半の公務員は世の中が考えている以上に真面目に奉公しているし、横浜市政の改革に協力してくれた。”政治主導”という言葉は良いが、政治家一人では問題解決できない。政治家による「課題提起(イニシアチブ)」と「最終決定(ディシジョン)」、役人による「選択肢提供(オプション)」と「執行管理(オペレーション)」という役割分担と互いの責務の全うが大事。

政治家が現実を語らないことが日本の問題。増税でも将来展望でも、国民に本当のことを話し理解を求めるべき。

今後の日本では「不自然を改める」ことが大事。日本は破綻するとか、まだ大丈夫という議論があるが、税収より支出が多くて借金が膨れ上がり続けている状態は「不自然」であり改めるべき。

全国一律の規制を撤廃し、自由度を増して創意工夫の生まれる余地をつくるべきだし、自由と比例する責任を持たせるべき。つまりは、地方でも個人でも国自身も「自立」ということが大事。今の日本は依存社会。地方は国に、国はアメリカに依存している。よく言われる「平和ボケ」とはアメリカによる「保護ボケ」ではないか。

・・・

と、後半は中田氏の政治信条が語られていて、個人的にはスキャンダルの顛末よりこちらの方が共感できました。

大阪の橋本知事が市長選に立候補した際の異常なスキャンダル報道を見ても、現在ある既得権益構造を大きく改革しようとする政治家には、利権集団・役人・マスコミがグルになって攻撃を仕掛けます。

国民は、真実を見きわめる目と知性を養いましょう。本当は、それが民主主義を実現する基礎要件のはずです。

読むべし!



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2012年02月05日

決断できない日本 ケビン・メア

著者は元・米国務省日本部長。
日本に19年間在住し日本人の妻を持つ国務省きっての日本通だったのだが、基地問題に絡み「沖縄はゆすりの名人」と発言したとの報道により更迭され職を辞した。

本書は、その問題発言の真相や、東日本大震災でのトモダチ作戦の舞台裏〜日本政府が機能不全に陥っていた実態、また日米同盟や日本の政権に対する米国側の見方など、「元外交官」のホンネが満載された楽しい一冊です。

「ゆすり発言」にもメア氏本人にも、さして興味はなかったので本書が売れているのは知っていても読んでみようとも思わず、古書店で100円だったのを何の気なしに買ったというのが本当のところです。その割には、よく言われる事でもあり判っている事でもあるが実際まあ確かにその通りだよね〜、と頷ける部分が多々あり、意外に楽しく読みました。

ちなみに、「ゆすり発言」問題自体は、共同通信の記者と、その背後にいる基地反対派の左翼弁護士による捏造記事・・というのが概ねの真相らしいですが、そんな事より更迭の真因は「憲法9条を改正すると米軍が日本の土地を自由に使えなくなるし、日本から召し上げている膨大なお金も手に入らなくなるので、改憲は米国の国益にならない」(要するに米国は日本を軍事的に自立できない状態に押さえ込んでおくことで延々と自国の国益=基地の保有と金=を吸い上げている)というホンネを漏らしたために国務省が慌てて事態の収拾を図ろうとした・・という事のようです。まあメア本人はこの本ではもっとキレイゴトを書いてますが。

・・

社会的コンセンサス(合意)を重視する「和をもって尊しとなす」は、本来は熟議の末に果敢に決断するものであるはずだが、最近の日本の政治家はコンセンサスが得られないことを理由に決断を先延ばしする悪しき習慣がある。

米国では失敗しても再チャレンジすればよいと考えるが、日本では一度でも失敗してはならないという風潮があり、失敗して責任を取らされることを恐れるあまり決断せず物事が進まない。

例えば、東日本大震災のとき、米国は提供できる支援物資のリストを日本政府に送ったが、長々とした質問が返ってきただけで、何を送ればよいのかいつまでも決まらなかった。

日本の官僚機構のお役所仕事は最低。付き合っていて本当に嫌になる。

震災後、東電は米軍に対し真水を運べる方法がないか打診してきた。日本政府自身は原発の状況について、ほとんど重要な情報を把握していなかったようだ。(このとき、日本という国家は機能していなかったと言えます・・)

沖縄には補助金づけという問題がある。基地が移転してしまえば補助金がもらえなくなる・・という事実が、基地の移転を阻害している。これは補助金システムという構造の問題であって、沖縄の人々の品行性情の問題ではない。

民主党の「政治主導」は理念としては立派だし、そうあるべきであるが、官僚機構を敵に回したのは失敗。どの国も、官僚組織の助けなしに国家の運営は出来ない。

・・・

日米同盟、世界の軍事バランス、中国の台頭・・などについて、プラグマティック(現実的、実利的)なアメリカ人の、良い意味での単純明快さが出ていて読みやすいです。瑣末な雑音を排して、物事の肝心な部分を見ればこんな感じ、というところでしょうか。

もちろん、米国は様々な影響力を行使して日本を陰に日向に操っていますが、そういう「ウラ」の部分をさて置いて、わかりやすく「オモテ」の議論をすればこんなところでしょう。陰謀論の好きな人にはもっと別の意見があるでしょうが、モノゴトの「ウラ」の部分が「オモテ」に比して、それほど膨大であるとは思えません。

さてこの機会に自分の見方を整理しておくとこうなりましょうか。

・今後も当分の間、日本にとって最も重要な国は米国である。また、米国は今後も、世界で最も有力な国のひとつであり続ける。

・中国は異文化国家だという事をよく認識し、適度な距離を保ちつつ関係を良くして行くべきであって「米国も落ち目だから中国につこう」などと妄動してはならない。

・ただし、米国も自国の国益を最優先に考えて動くので、日本から吸い取れるものは吸い取ろうとする。「トモダチ」も日本人が純真に考える個人間の友情とは訳が違うのだから、それを「ずるい」とか「汚い」とか「陰謀」とか言うのはナイーブ過ぎる。双方が利のある部分を出来るだけうまく取り合うのが大人の付き合い(外交)。

・米国にとっても日本は重要な国。米国のスーパーパワーの源泉のひとつは、世界の軍事費の半分近くを一国で消費する圧倒的な軍事力にあり、全地球に展開する米軍にとって、ちょうど地球の反対側で米国本土と同じくらいの武器弾薬を安心して置いておける同盟国など日本以外に見つからない。日本人はそのポジションをもっとよく認識したほうがよい。台頭する中国との対峙というテーマだけでも、日米同盟は重要性を増すばかりである。

・ありていに言えば日本は米国の属国か、よく言っても天領。でも、どこかの国の家来でいるなら米国が一番マシで、中国の支配下に置かれたら終わり(チベットとか、東トルキスタンとかを見れば明白)。
日本は独立自尊の国家に成熟すべきだが、あまりにも物を考えていなくて戦略性がないため、自立には程遠い。もっと国民が自分の頭で考えないとダメ。(参考:日本人はこうして奴隷になった 林秀彦

・日本にも無数の問題はあるが、日本の国柄と社会の安定度、人間の質は世界最高水準。(参考:私は日本のここが好き! ― 外国人54人が語る 加藤恭子
この点では、世界中が日本のようになればよい。ただ、繰り返すが国民がもっと世界の情報を知り、自分の頭で考え自立しないとダメ。

で、そのための一助となればいいな・・というのが、このブログの目的でもあるわけですね。

読むべし!


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2012年01月08日

資産フライト 「増税日本」から脱出する方法 山田順

オビが煽った感じで興味をひきます。

「セレブもOLも高齢者も、せっせと預金を海外口座に移している。その驚くべき方法とは?」

いまや富裕層に限らず、資産数億円程度の小金持ちや、一般のOLまでがお金を日本から脱出させている。それは、破綻の近づく日本経済への危機感や、国内に有利な投資先の見当たらない現実を背景とし、サービスの悪い日本の金融機関や金持ちに懲罰的な日本の税制への無言の抗議行動だ・・という趣旨で、資産の「さよならニッポン」現象をレポートしています。

ただし、著者はジャーナリストなので、経済の専門家が著した本のような深みはありません。後半で、日本のガラパゴス状況や金融機関のサービスの悪さを批判し、グローバル資本主義に適応できない愚民化教育を国家が意図的に行っている・・等と糾弾していますが、まあまあそうかもしれませんが、論拠に説得力が足りなかったり、解決策やアイデアが提示されているわけでもなく「これについて我々はもっと考える必要がある」で終わっていたりで、あまり括目すべき点がないのは残念です。
それから、具体的な海外投資の方法を解説した本でもないので、そういう情報が読みたい人は、橘玲さんの著作などのほうが良いでしょう。

やはり面白いのはジャーナリストらしく取材に基づいた部分です。

いきなり第一章「成田発香港便」で、旅行鞄に500万円づつを詰めて香港に現金を運ぶ資産家夫婦に同行します。
空港のセキュリティチェックは、金属や液体は感知するが、手荷物の中に札束が入っていても気にしない。もちろん、100万円以上の現金を持ち出すのは違法ですが、なんなくスルーした二人は、現地に着くと香港上海銀行に直行して現金を預け入れる・・
こうして、この夫婦は、将来の香港在住も視野に入れ、せっせと日本からお金を脱出させています。「日本が元気で心配ないなら、こんなことはしない。日本にいるほうが幸せに決まっているんだから」と。

古くから富豪・大資産家は、海外にも資産を分散することを当然のように行っています。最近ではそれがもっと下層まで一般化しつつある・・というのが本書のレポートです。実際にどの程度までひろがっているのか本書には明確な数値や統計がないため判断できませんが、まあそうだとしても不思議はありません。
ややジャーナリスティックに過ぎる印象はありますが、共感できる部分もありますので以下メモ。

・所得5000万円超の人は全体の0.6%だが納税額では27%。対して年収300万円以下の人たちの納税額は3.1%。富裕層を大切にしないと、国家の税収は立ち行かなくなる。

・単純化して考えれば、日本の借金は国が借り手で国民が貸し手。借りた側が、経費節約も人員(政治家や公務員)削減も、資産売却もせずに、貸し手に対して増税をするというのは筋違い。

・自民党だろうと民主党だろうと、けっきょく政策をつくっているのは財務省であり、増税路線は変わらない。

・政治が混乱し、官僚たちが作る政策で日本が動かされている。改革は骨抜きになり鎖国状態のガラパゴス化が進んでいる。これで良いわけがない。

・資産逃避は政府に対する抗議。日本を愛することと、政府を愛することは別。

・日本人のDNAは、ほんらい海外に飛び出してゆく冒険心を持っているのではないか?戦前も戦後も、世界にチャレンジしつづけてきた。昨今の「内向き」志向のほうが不思議。外からも見ないと健全な愛国心は育たない。

全体的に、少々日本に対する批判ばかりが目立ちますが、まあ何くれと批判するのがジャーナリストの仕事と考えている人も多いので、そのように読んでおけばよいと思います。

ただ、個人的には本書で言われていることの多くがそうかもしれないとしても、それでもまだ相当に、日本は恵まれて住みやすい国だと思います。
願わくば日本から脱出を考えるのではなく、立て直して成長軌道にのせる方策を生み出したい。時間はあまり多くありませんが、大阪での選挙結果や、あいかわらず頑張っている日本企業を見れば、絶望するのは早いと信じています。

読むべし!



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2011年12月18日

金融が乗っ取る世界経済 ロナルド・ドーア

著者は知日派として知られる英国の社会学者。
日独vs英米の、社会システム・資本主義の比較研究で有名。ロンドン大学名誉教授、同志社大学名誉文化博士。

本書では、経済の血液としての健全な働きから逸脱した金融業が、ギャンブルとしか言いようのない派生商品を生み出したり、貢献度合いに釣り合わない法外な儲けを強奪した結果、社会をゆがめている実態を批判します。

ほんらい構造が違っていたはずの日本やドイツの資本主義が、英米の「アングロサクソン型」資本主義に席巻されている危険性も指摘します。以下メモ。

・・・

●ステークホルダー論と株主主権論

日本やドイツなどと、英・米を中心とするアングロサクソン諸国の資本主義は同じものではなかった。日・独では企業を「社会の公器」と考え、事業の目的は利益の追求だけでなく社会への貢献をも含むとするいわゆる「ステークホルダー」型が中心だった。

それに対して、英米の「株主主権」型では、会社は株主のものであり、事業の目的は利益の最大化であるとする。米国でも、かつては「ステークホルダー」的な考え方が多かったが、いつしか株主主権論が主流となり、いまやその潮流は他国にも及び、日本も「アングロサクソン化」している。しかしこの考えには多くの欠陥があり社会を歪める。


●金融業の肥大化

現実の国際貿易に利用される為替取引の100倍にのぼる金額が為替市場で取引されている。

ある会社が債務不履行になるリスクをヘッジするための派生商品が、対象の会社となんの取引関係もない第3者に膨大に売られる(本来は保険であるが、第3者に売られれば単なるギャンブルである)。


●法外な報酬がもたらす弊害

金融業では、成果を挙げたディーラーなどに常識外の報酬を出す。
法外な報酬に釣られて優秀な人材が金融業に吸収されてしまう。その結果、法律・科学・行政・教育などにも配分されるべき人材が枯渇する。これは社会全体に歪みをもたらす。


●法外なボーナスは懐に 失敗のツケは庶民に

大きすぎる金融機関は、潰れると社会に与えるダメージが大きい。そのため金融危機が起きれば、国家が借金をしても救済するが、その借金は国民への増税や福祉のカットとなる。

つまり金融業者は、景気が良いときには法外なボーナスを手中にし、つまづいた場合のツケは一般市民にまわす。

これを是正するためには、金融業をある程度の大きさに規制する必要がある。
しかし、グローバル化する世界では自国の金融業を優位に導くため各国ともその規制を緩めがちである。
銀行業と証券業、投資銀行とリテールバンクは、かつて分離が命じられていたが、徐々に統合され巨大化している。そして巨大化すれば潰せなくなる。


●骨抜きにされる規制

2008年の金融危機後には、金融機関への規制や全世界的な監督組織についての議論が沸騰したが、2011年現在、それらの議論は下火であり、何も決定されず、決まった法律は骨抜きにされつつある。


●あるべき姿

「株式会社は、理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが、同時にそのような株式会社も、単独で営利追及活動ができるわけではなく、一個の社会的組織であり、対内的には従業員を抱え、対外的には取引先、消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であることは明らかであるから、従業員、取引先など多種多様な利害関係者(ステークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり、企業価値について、もっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界があり採用することはできない。」(ブルドックソース事件東京高裁判決)


●リスクが国家から個人へ移し替えられている

社会の金融化は、国家の社会保障能力の衰退とも関係している。
賦課方式による年金(現役世代が引退世代を支える)では、経済や人口の規模が拡大している場合は良くても、経済成長の停滞や少子化が進行すると行き詰まる。これを解決する方法は

・税(掛け金)を上げる
・足りない分を消費税などで埋める
・国家共同体での助け合いから個人の責任へと移行する

の3つで、日本ではこのところ3番目のいわゆる「自己責任論」が幅を利かせ、個人年金「日本版401K」などが普及している。すると年金基金、医療保険基金などが膨張し、これらが運用のため巨額な資金を投資するようになる。

・・・

「真に目指すべきは、競争力がある社会ではなく、よき社会」
筆者のこの言葉が胸に残ります。

近年、各地で巻き起こった「ウォール街を占拠せよ」運動も、一部はこういった「金融業だけが社会的に不公正な利益を独占する」あり方に対する抗議と見てよいでしょう。
しかし歯がゆいことに、たとえ市民がウォール街でデモをしても、それで事態が変わるとは思えません。金融業や銀行家の暴走を食い止めるには具体的な法的規制、すなわち政治的な決断が必要です。しかも、金融はいまや国家の枠を超えて広がり、国家よりもはるかに自在な活動をしています。ジャック・アタリなどが指摘するように、国際的な規制の枠組みが必要です。(→金融危機後の世界 ジャック・アタリ

しかし、本書でロナルド・ドーアが指摘している通り、リーマンショック後の危機で声高に叫ばれた様々な規制のアイデアは一向に実現する兆しを見せません。

それから、ドーアは「あとがき」に気になることを書いています。

「日本経済のアングロサクソン化は、米国が西太平洋における軍事的覇権国であり、日本と安全保障条約を結んでそこに基地を持ち、その基地を移設しようとする内閣(たとえば鳩山内閣)を倒すくらいの力がある、という事情と密接な関係がある」とし、しかし遠からず「西太平洋における覇権国家は中国になっているだろう」と予見します。

そして、きたるべき米中対決時代に「日本は依然として米国に密着しているのか。独立国家として、米中が何千万人を殺しかねない衝突に突き進まないよう、有効に立ち回れるのか」と結んでいます。

はたして人類は、金融の膨張に歯止めを掛けられるのか?それとも決定的な悲劇に遭遇しないと、自らの行動を改めることができないでしょうか?

読むべし!



posted by 武道JAPAN at 10:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月08日

「通貨」を知れば世界が読める 浜 矩子

著者は、同志社大学大学院ビジネス研究科長・教授。
一橋大経済学部卒業後、三菱総研を経て現職。政府の金融審議会、国税審議会、産業構造審議会の委員でもある。しばしばTVにも登場する。

軽く読める新書だし、大学教授が著した専門書というよりも、元・三菱総研のエコノミストが書いた解説書といった趣きで読みやすい。基軸通貨をめぐる攻防の歴史や、ドルの基軸通貨としての寿命はとっくに終わっていたのにもかかわらず、延命を願う力の働きが世界経済をここまでの事態に引きずってきてしまった状況が理解できます。

以下メモ

・特定域内で、「これを持っていけば必要な商品やサービスと交換できる」と認識されているものが貨幣。貨幣に足が生えて遠くまで通用するようになると通貨。(世界中で決済に使われる通貨が基軸通貨)

・基軸通貨には価値の保持と大量に幅広く流通されねばならないという矛盾する役割が求められる。

・現在の基軸通貨であるドルは、自らそのポジションを放棄し始めている。

・成熟し、世界最大の債権国となった日本が、いつまでも輸出産業だのみで円安を願うなど大人げない。

・円は「隠れ基軸通貨」である。日本の低金利が円キャリートレードを生み、アジアのバブルを引き起こした。日本のもつ巨額の資金は、強大な力を持っていることを自覚すべき。

・中国は次の基軸通貨を狙うかのような素振りを演出しているが、「とてもそんな余裕はない」のが実情。

・オバマの輸出倍増計画=ドル安志向により、今後はますます円高。1ドル50円時代の到来を想定して対策せよ。(管理人:そう考えるとアメリカ主導のTPPは「アメリカの輸出を伸ばすため」の戦略に見えます。自分は基本的に国を開き貿易を促進するのに賛成ですが、日本がお金を毟られないよう注意が必要。)

・ユーロは各国ごとの経済財政事情の違いを適正に調整する仕組みが欠けており、今後も難しい運営が続く。最悪の場合、崩壊もあり得る。

・ドル基軸通貨亡き後の世界に考えられるのは

1)金本位制の復活
2)世界共通通貨の創設

だが、どちらも望みは薄い。共通通貨+各国通貨をさらに下から地域通貨が支える構造が望ましいのではないか。

・・・と、ヤヤコシイ世界経済を大づかみに判りやすく整理してくれます。

通貨の近代史をざっと俯瞰できますし、ドルという基軸通貨が終幕を迎えている現時点の位相をあらためて確認できます。

ただ、1ドル50円時代が来るという予想の確からしさは、今一つ納得できなかったし、基軸通貨亡き後の世界予想も「う〜ん・・」といったところ。それでも、簡単にさあっと読み通せるわりに視野が展開する割合は大きく、読んでみる価値は感じました。店頭で見ると、なんだか売れているらしいです。

読むべし!




posted by 武道JAPAN at 15:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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