2018年11月12日

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?〜経営における「アート」と「サイエンス」〜 山口 周

著者は、電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成とのこと。

本書は、冒頭で英国の名門美術大学院が、グローバル企業のエグゼクティブ向けに美術の講座を提供し始めたという意外な事実を示し、なぜいま経営の分野にアートや美意識が必要かを、以下3つのポイントから説きます。
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1)論理的・分析的情報処理手法の限界
MBAやコンサルティングファームに代表される分析的思考法が普及した結果、ビジネス上の課題解決は誰がやっても(論理的に)同じ結論に至るようになった。そこでは計測不能な要素は捨象され、他社との差別化は難しくなり、ついに全ての市場はレッドオーシャン化してしまった。企業はスピードアップやコスト競争に走り疲弊し、ついに偽装や粉飾に手を染める事態すら起こっている。
美しいか?楽しいか?など、別の価値軸を建てないと限界である。

2)巨大な自己実現欲求市場の出現
有名な、マズローの欲求5段階説によると、生理・安全・社会的欲求のような基礎的なニーズが満たされると、能力向上や創造活動などの「自己実現欲求」が現れる。
豊かになった世界で人々は、生活必需品よりも「スタバでMacBookを開いて仕事する自分」のような、自己表現につながる消費を求め、全てのビジネスはファッション化する。論理や分析では、こういった消費者に応える製品・サービスは生み出せない。

3)社会の変化にルール制定が追いつかない
キュレーションメディアでの無責任な情報発信や、製造メーカーでの長年に亘るデータ偽装など、モラルを疑う不祥事が頻発している。これは、技術や社会の進化・変化に、法やルールの整備が追いつかない状況の中で、拠るべき規範(美意識)を持たない人々が、内輪の論理に則って社会全体の利益に反する行動をした結果である。
テクノロジーや社会の変化は今後も加速し、法整備が後手に回る状況は続く。規範としての美意識を持つことは企業防衛の観点からも必須である。

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●企業経営には「アート」「クラフト」「サイエンス」がバランスよく必要

科学的分析の「サイエンス」は基本であり、感性を重視するとしても非論理的であってはダメ。また、経験値の蓄積である「クラフト」も重要な資産である。ただし、科学的・論理的思考だけでは他社と同じ結論しか出せず、経験に従うだけでは変化の激しい世界で道を探せない。これらの上に「アート」、すなわち直感や感性、何を是とするかの美意識など、数値化出来ない哲学的、芸術的観点が必要である。
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●「悪とは、システムを無批判に受け入れること」

オウム真理教では「美がなく、極端にシステマティックで、点数を取れば段階を登ってゆける解り易いシステム」にエリートが嵌まった。ナチスでホロコーストに尽力したアイヒマンは役人のように「命令に従っただけ」と弁明した。
偏差値は高いが善悪を判別する心の基準がなく、システムを無批判に受け入れるような人間は危険。企業内で不祥事が長年繰り返されるのも根っこは同じ。
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と、非常に切れ味のある論を展開しています。

興味深かったのは、我々が物事を判断する際に情動が大きな役割を果たしている事実を脳科学の知見から解説した部分です。判断においては、できるだけ感情を排し理性的にすべきと考えがちですが、実は我々は、無数の選択肢からまず感性を使って「あり得ないオプション」を排除し、残った可能性から論理や計算に基づいて最終候補を選んでいるとの事。

デザインを学んで社会に出た自分が、なぜ輸入商社の経営という畑違いの仕事をしながら、ほとんど迷うことなく秒速で何でも決断できるのか(あるいは、他の人がなぜそんなに迷うのか?)と疑問に思っていましたが、答えは「デザインを学んだにも関わらず」ではなく「デザインを学んだから」なのかもしれません。

Appleや無印良品、MAZDAなど、成功し、魅力的である企業には、アートと、感性と、筋の通った哲学の存在を感じます。人しても、企業としても、そのような姿を目指したいものだと思いました。




posted by 武道JAPAN at 15:47 | Comment(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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