2012年11月04日

中国は東アジアをどう変えるか ~ 21世紀の新地域システム ハウ・カロライン/白石 隆

京都大学東南アジア研究センターの元教授と准教授の二人による著作。

台頭する中国は周辺国にどのような影響をもたらすか・・という、誰にとっても無関係ではなく、多くの場合、一縷の不安を伴って頭をよぎるこの問いに、きちんとした研究を基に答えた良書です。以下メモ。

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第二次大戦終結後、唯一の有力な大国であったアメリカはアジアとヨーロッパで課題に直面した。

・ヨーロッパにおいては荒廃した各国の復興を進めると共にドイツが二度と軍事的に台頭しないこと。
・アジアにおいては共産国の台頭を抑えつつ、日本が二度と軍事大国化してアメリカに再びチャレンジしないこと。

これらの課題には別種の処方箋が与えられた。
ヨーロッパにおいては「ヨーロッパ人」という新しいアイデンティティの下、のちのEUにつながる独仏を中心とした共同体の構築が図られた。
しかしアジアにおいては「アジア人」という概念が意味を持たず、また中国は包括されるべき対象ではなく共産国として封じ込められるべき相手であったため、アメリカとの軍事同盟とともに日本の復興が求められ、やがて日本を先頭とした雁行型の経済発展を導き、「(中国を除く)アジア」「日本」「米国」の三角貿易体制が確立した。

1980年代に、中国は世界経済に参画することを望み、日米は中国をアジア太平洋経済の枠組みに導き入れることに決めた。
やがて日本・韓国・中国沿岸部・台湾・シンガポールなどが経済共同体の中に組み込まれ、政治や文化の統一とは別に、まず経済的な共同体が構築された。中国の経済大国化とともに、「中国」「日本を含むアジア」「米国」の三角貿易が確立した。

この段階にきて、「東アジア共同体」構想が浮上し始めたが、同時に「冷戦の勝者はドイツと日本だ。アメリカは日本が第二の大東亜共栄圏を構築するのに手を貸しただけだ」という批判が米国で盛んになり、日本は東アジア←→アジア太平洋のバランスを鑑みた結果、アジア太平洋の経済同盟をより重視して、APEC(アジア太平洋経済協力)を選択した。

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多くの識者が予想するように、今後は米国の一極支配が衰退し、世界は多極化する。しかし、世界はすでに経済的にも政治的にも分かちがたく一体化しており、米国・中国・欧州・インドなどを「盟主」として、各国が地域連合を作って対立するという構図は考えがたい。

米国のヘゲモニーによって作られたWTOやIMF、世界銀行などの機関は、いまや世界各国がその枠組みを支持し利用する「公共財」となっており、台頭する新興国がこれに代わる新たな枠組みを作り出そうとしても容易にいかない。そういった意味で、現在ある世界システムはそれなりに強固であり、あらたなシステムを誰かが勝手に作ることは難しい。

アジアに限っても、中国の台頭に際して各国が中国の作る秩序に組み入れられたり、一方的に「なびく」といった現象は見られず、インドネシアやヴェトナムのようにむしろ警戒感を強めて他国との連携を深めようとする動きさえ起こっている。これらアジア各国の対応の違いは、地政学的な位置と、どのくらい世界経済に深く組み入れられているかの差によるが、いずれにせよ米国が鮮明にしている東アジア回帰の戦略のもとでアジアの同盟国が正しいパートナーシップを維持すれば、中国がこの地域で圧倒的なヘゲモンを握るという可能性は極めて低い。

東アジア各国において(一部中国大陸においても)、政治・経済・文化をリードするチャイニーズは、米国・英国・オーストラリア等で教育を受け、アングロサクソンの考え方や行動様式を身につけた「アングロ・チャイニーズ」であり、彼らはタイ語、インドネシア語、韓国語などの母国語の次に英語を、さらにその次に中国語を学んで話すバイリンガル、トリリンガルであり、アイデンティティとして「チャイニーズ」であっても、その意識は中華人民共和国が権威的に押しつける「中国」とは必ずしも一致しない。また、大陸から広く拡散した華僑やその子孫にとって、「中国」「チャイニーズ」という概念はけして統一されていない。

現在、中国のトップはケ小平・江沢民時代に比して国内諸勢力を掌握しきれなくなっており、南シナ海での強硬な領土拡大姿勢に出るなど、これまで善隣外交で培ってきた良好な関係を台無しにして東アジア諸国を米国との同盟構築に走らせている。

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と、冷静な分析をしています。

経済発展する中国が、近い将来に米国の次の覇権国になる・・などという単純な未来がやってくるわけではありません。かの国も今までは伸び盛りでしたが、倍々ゲームで伸びてゆく期間は終わっています。これからが正念場でしょう。
ただし我々も、米国との同盟を危うくするような国内政治を続けていてはなりません。安定した政治状況を作り、中国以外のアジア各国との積極的な連携にも力を注ぐべきと思います。

新書ですがデータの裏付けは膨大で、長いスパンでの歴史も見据えて、現在と未来を見渡す視線を提供してくれます。

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 11:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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