2012年08月05日

人間の叡智 佐藤優

なぜあなたの仕事はつらく給料は上がらないのか?
TPP問題の本質とはなにか?
中国はいまどういう位置にいるのか?
橋本徹はファシストか?

元外交官・佐藤優の著作はいつも刺激的です。
→日本国家の神髄
→テロリズムの罠<右巻>忍び寄るファシズムの魅力
→テロリズムの罠<左巻>新自由主義社会の行方
彼のけた外れの教養と、長年国際的なインテリジェンス(諜報)のフィールドで活動してきた蓄積が、世界を見る洞察力になっているのでしょう。

本書は、書下ろしならぬ「語り下ろし」で、平易で読みやすい文体になっています。が、内容は深いです。以下メモ。

・・・

世界は「新・帝国主義」の時代に入った。
この時代においては、国家は自国のエゴを剥き出しにして戦い、相手が怯んで国際社会も沈黙すると好きなだけ権益を拡大する。相手が必死で抵抗し、国際社会からも「やりすぎじゃないか」と非難が出れば協調に転じるが、心を入れ替えたわけではなく、顰蹙を買って結果的に自国の損になる事態を避けたいだけである。
新・帝国主義のルールは「喰うか、喰われるか」であり、他国から喰われず生きのびる術を模索しなくてはならない。

これから世界は、国際社会のルール整備に関与できる側と、受動的にそれを受け入れるしかない国に分かれる。日本はまだルール作りに関与する力が十分ある。

TPP問題は日本がどこのブロックに所属し、どこを「外部」としてファイアーウォールを作るのかの選択。中国・韓国と東アジア共同体ブロックを作るのか、米国を含む環太平洋ブロックに所属して中国と対峙するのか。

TPPに参加し、環太平洋ブロックを「内側」、中国を「外側」とした場合、内側からの移民はそれほど心配しなくてすむ。文字と言葉の壁が高く、南米やオーストラリアから大量の移民が来ることはない。
新・帝国主義時代のルールがまだ判っていない混沌の大国・中国と組めば日本はカオスに巻き込まれる。今以上の移民がきて、日本人労働者の賃金は中国と均衡するまで下がり続ける。米国と組むべき。

資本主義とは、資本家・労働者・地主・官僚によって構成される。

資本主義が行き過ぎると、労働者への搾取が極端に進み、労働者階級が再生産される(家庭を持って子供を教育し、次世代の労働者を生む)事ができなくなる。
その場合、資本は労働力のある国へ移動すればよいが、徴税が不可能になって国家は滅ぶ。共産主義国と言う対抗軸を失った世界で、資本の暴走を止めるためには国家の力を強化しなくてはならない。
現在はまだ資本の力が強く、先進国では賃金が下がり続け、雇用は減り、就職浪人が増え続けている。この中から国家の力を強化する、という揺り戻しが出てくる。

エリート(国家のトップ層だけでなく社会のそれぞれの階層にいる専門家。現場のリーダー)の力を強化するしかない。
311でも露わになったが、国家エリートの劣化がひどい。民衆が政治を信じられなくなって、専門領域に一般人が踏み込んでくる状態はまずい。ほんらい、政治は選ばれたもの(専門家)がしっかり遂行し、一般の人々は日々の生産活動に精を出さなければ社会は成り立たない。

日本や英国は、目に見えないものの方が実体であるという「実念論」が近代まで残った稀有な国。アメリカは、目に見えるものを実体とする「唯名論」の典型。

中国はネーション・ビルディング(民族形成)の途上。チベットやウイグルを含んだ「中国人」という国民を形成するには、それらを包含できる大きな物語が必要だが成功していない。この過程においては、多くの国がそうであるように「敵」の存在を必要とする。日本がその役割を受けてしまっている。

天皇がなくなれば日本もなくなる。首相公選制や天皇の国家元首化には注意が必要。天皇はタブーとし、神秘的な存在に置くのが正解。タブーのない社会は良い社会ではない。

戦前の日本は西洋発の「近代」を超克しようとしたが負けた=敗戦によって「近代」に敗れたと捉えた。そこで出てきたのが精神論に代わる合理主義、お国のために命をささげるような行為を否定する生命至上主義。そして全体主義に対立する個人主義。この3つが絡まりあって戦後の日本が形作られたが、ここには「力」が入っていない。しかし国家は絶対的に「力」によって成り立つので、この空白を日米安保が埋めた。日米同盟が国体の一部になってしまったため、米国との関係悪化を必要以上に怖れる政治家や官僚が多い。
しかし、力の要素をアメリカに丸投げして金儲けと個人主義でやっていけばよいという枠組みでは、日本という国家が生き残れないとわかってきた。311の天皇陛下のビデオメッセージは重要な意味がある。

今後2〜3年の国際政治の焦点はイラン。相当に現実性の高い核戦争の危機がある。なのに日本では情報が少ない。イランが核を持った場合、合理的な予測からまったく外れた行動が出てもおかしくない。指導者層が分裂・対立しているうえ、ハルマゲドンを本気で信じているグループもある。
イランの核開発にからんで東西対立が復活した。この場合の東側は中東。日本は西側の一員として、かなり積極的に動いている。そんな中で鳩山元首相がイランを訪問したのは大変な間違い。
イランが核武装すれば他国の核保有が連鎖的に進む。日本さえ、核武装の是非を論じる段階をあっさり通り越して保有することになる。

もうゼロ成長でよいから成熟を目指そうという議論があるが、江戸時代のように身分を固定した封建制を復活でもさせない限り、安定した社会を保持するのは無理。高度な教育を受けた者に見合った職業がないような状態が続けば社会は不安定化する。

これまで日本は後進国型の教育をとってきた。先進国に追いつくため、記憶力の良い若者に知識を詰め込み、事の本質を理解していなくてもよいので、とにかく学んだ事を再現できる者を官僚にした。
しかし、これからは物事の是非や理の判る人物、異なる事象をつなげて物語を構築できるリーダーが要る。そのためには時代を超えて読み継がれている古典を読んで万象に通じる理(ことわり)を学び自らの軸とし、小説を読んで人々が共感できる物語を紡ぎだす能力が必要。

・・・

佐藤氏は自身を「国家主義者」と呼びます。
現実の世界で個人の生命財産安全を守るものは国家しかなく、国家が弱れば他の国家や組織から収奪される。また、資本の力が膨張しすぎれば、やがて個人は富を絞り出す原材料として使われる世界が来る。だから国家(と、それを支える社会)の力を強化すべし、という主張です。自分の立場もこれにほぼ同じです。

メモを取っているときりがないほど充満した内容です。

読むべし!




posted by 武道JAPAN at 12:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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