「セレブもOLも高齢者も、せっせと預金を海外口座に移している。その驚くべき方法とは?」
いまや富裕層に限らず、資産数億円程度の小金持ちや、一般のOLまでがお金を日本から脱出させている。それは、破綻の近づく日本経済への危機感や、国内に有利な投資先の見当たらない現実を背景とし、サービスの悪い日本の金融機関や金持ちに懲罰的な日本の税制への無言の抗議行動だ・・という趣旨で、資産の「さよならニッポン」現象をレポートしています。
ただし、著者はジャーナリストなので、経済の専門家が著した本のような深みはありません。後半で、日本のガラパゴス状況や金融機関のサービスの悪さを批判し、グローバル資本主義に適応できない愚民化教育を国家が意図的に行っている・・等と糾弾していますが、まあまあそうかもしれませんが、論拠に説得力が足りなかったり、解決策やアイデアが提示されているわけでもなく「これについて我々はもっと考える必要がある」で終わっていたりで、あまり括目すべき点がないのは残念です。
それから、具体的な海外投資の方法を解説した本でもないので、そういう情報が読みたい人は、橘玲さんの著作などのほうが良いでしょう。
やはり面白いのはジャーナリストらしく取材に基づいた部分です。
いきなり第一章「成田発香港便」で、旅行鞄に500万円づつを詰めて香港に現金を運ぶ資産家夫婦に同行します。
空港のセキュリティチェックは、金属や液体は感知するが、手荷物の中に札束が入っていても気にしない。もちろん、100万円以上の現金を持ち出すのは違法ですが、なんなくスルーした二人は、現地に着くと香港上海銀行に直行して現金を預け入れる・・
こうして、この夫婦は、将来の香港在住も視野に入れ、せっせと日本からお金を脱出させています。「日本が元気で心配ないなら、こんなことはしない。日本にいるほうが幸せに決まっているんだから」と。
古くから富豪・大資産家は、海外にも資産を分散することを当然のように行っています。最近ではそれがもっと下層まで一般化しつつある・・というのが本書のレポートです。実際にどの程度までひろがっているのか本書には明確な数値や統計がないため判断できませんが、まあそうだとしても不思議はありません。
ややジャーナリスティックに過ぎる印象はありますが、共感できる部分もありますので以下メモ。
・所得5000万円超の人は全体の0.6%だが納税額では27%。対して年収300万円以下の人たちの納税額は3.1%。富裕層を大切にしないと、国家の税収は立ち行かなくなる。
・単純化して考えれば、日本の借金は国が借り手で国民が貸し手。借りた側が、経費節約も人員(政治家や公務員)削減も、資産売却もせずに、貸し手に対して増税をするというのは筋違い。
・自民党だろうと民主党だろうと、けっきょく政策をつくっているのは財務省であり、増税路線は変わらない。
・政治が混乱し、官僚たちが作る政策で日本が動かされている。改革は骨抜きになり鎖国状態のガラパゴス化が進んでいる。これで良いわけがない。
・資産逃避は政府に対する抗議。日本を愛することと、政府を愛することは別。
・日本人のDNAは、ほんらい海外に飛び出してゆく冒険心を持っているのではないか?戦前も戦後も、世界にチャレンジしつづけてきた。昨今の「内向き」志向のほうが不思議。外からも見ないと健全な愛国心は育たない。
全体的に、少々日本に対する批判ばかりが目立ちますが、まあ何くれと批判するのがジャーナリストの仕事と考えている人も多いので、そのように読んでおけばよいと思います。
ただ、個人的には本書で言われていることの多くがそうかもしれないとしても、それでもまだ相当に、日本は恵まれて住みやすい国だと思います。
願わくば日本から脱出を考えるのではなく、立て直して成長軌道にのせる方策を生み出したい。時間はあまり多くありませんが、大阪での選挙結果や、あいかわらず頑張っている日本企業を見れば、絶望するのは早いと信じています。
読むべし!