2011年06月19日

日本中枢の崩壊 古賀 茂明

先日、ベトナムから一時帰国した友人と会った。資源開発に携わり、これまで何ヵ国にも赴任している国際派だ。帰国すると本を買うらしいが、「今日は3時間くらい書店にいて、この2冊に絞った」と見せてくれたうちの一冊が本書だった。「日本の裏支配者が誰か教えよう」というオビが刺激的。

著者は、経産省の現役キャリア官僚。
本ブログでも取り上げた「官僚のレトリック」の著者、原英史氏(元通産省官僚)を、安倍・福田内閣時代の渡辺喜美行政改革担当大臣(現:みんなの党代表)の補佐官に推薦したのも古賀氏で、いわゆる「改革派」官僚の一人である。
公務員制度改革について、2010年秋の参議院予算委員会で参考人として発言し、当時の仙谷由人官房長官から「恫喝」を受けたことで有名になった。

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日本最大の課題は公務員制度改革である。
3.11の震災でさらに露呈したが、この国の中枢は制度疲労を起こしメルトダウンしている。国家の中枢に巣食う官僚と、その官僚と癒着した政治家が、国家国民のためでなく自分たちの保身と利益のために働いている。被災者にはいつまでたっても支援が届かず、それどころか震災復興をネタに増税をたくらんでいる。

官僚は、元来は優秀な人材が国家に尽くしたいと思って入省してくる。最初から将来は天下りしようなどと考えていない。
しかし霞が関は若者の「志」を摘み取る仕組みに満ちている。役所は縦割で、身分保障があるため、一度入省すると生涯そこから出ない。もともと官僚の仕事は成果を測りにくく、深夜まで長時間(無為に)働き、組織に忠誠心を示すぐらいしか方法がない。先輩のやった事を否定するのはご法度のため、おかしいと思うことも変更できない。
年次を経るごとに優秀だった者も組織の論理に染められて人材の墓場と化し、ついに国民の利益より省益を優先するようになる。
官僚が、省益でなく国家国民のために働くシステムに変えなくてはならない。

公務員制度改革は安倍政権時にスタートしたが、官僚は猛反発し社会保険庁の自爆テロともいえる「消えた年金問題」で安倍内閣は倒れてしまった。続く福田・麻生内閣は改革に興味なく、与党と官僚が改革を潰しにかかるなか、当時の渡辺喜美行政改革担当大臣の熱意により、どうにか国家公務員法の改正が行われた。
しかし、政権交代した民主党は、はじめこそ前向きだったものの、官僚の抵抗に会うとあっさり迎合し、改革は逆流し始めた。
現在では、「政管癒着」と言われた自民党時代にさえ行われなかった、あからさまな役人の横暴がまかり通っている。民主党政権は、完全に官僚になめられている。

国家公務員法改正の要諦は以下の通りで、全体として政治(特に総理)の力を強め、本来あるべき「国民の負託を受けた政治家が決定し、官僚が手足として働く」仕組みを目指している。
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●国家戦略スタッフの創設 総理が任命する直属のスタッフを置き、国家戦略にかかわる意思決定を行う。この制度があれば、総理候補者は自らのスタッフをあらかじめ考え、準備することになる。

*小泉政権の成功は、経済財政諮問会議に竹中平蔵、マスコミ対策に飯島秘書官という有力なスタッフがいた事が大きい。安倍内閣では、総理が政権発足後に「スタッフを公募する」とやった。これでは遅い。
*民主党は「国家戦略室」を作ったが、活用されず放置された。

●内閣人事局の創設 官僚の人事権を内閣の下におく。現在の、一度入省したら最後まで・・ではなく、省庁横断に人事を行う。十年後はどこの省にいるか分からないとなれば、省益ばかりを考えても仕方がなくなる。

●キャリア制度の廃止●官民の人材交流●年功序列や身分保障の廃止 実績に応じた降格もありうる仕組みにする など
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民主党は、「政治主導」を看板にしていたが、政治主導の意味が分かっておらず、また、実際に行うだけの実力がなかった。
*そもそも民主党は何をやりたいのか?マニフェストを熟読しても、目指す国家の姿が見えない。仮に公務員制度改革が進んでも、官僚を使いこなす政治家がいなければ無意味。
*かといって自民党に戻してもダメ。自民党には、利権を分かち合う構造的な官僚との強い癒着がある。長老〜中堅には官僚と結託した守旧派が多い。

民主党が政権につくと、予算を通すため早々に妥協し、省庁の中の省庁・財務省と手を組んだ。特に仙石氏は財務省と結ぶことで絶大な権力をふるった。

財務省は見返りに、悲願である「消費税増税」を求めた。徴収した税の配分を差配できることが財務省の支配力の源泉。その税収が足りなければ財務省の権力は削がれる。(増税すればますます不況となり国民は苦しむが、財務省にとっては省益が大事)

唯一、野党時代からの姿勢を変えなかった「ミスター年金」長妻大臣には、官僚からのありとあらゆるサボタージュや無根拠な誹謗中傷が飛び出し、ついに左遷された。
特に長妻氏には、国税庁を財務省から切り離し、社保庁と併せて「歳入庁」を作る構想があった。これは合理的な改革であるが、財務省は絶対反対。国税庁は査察権を使って脱税容疑で誰でも逮捕できる。(脱税していなくても、徹底的に帳簿を調べられれば単純ミスくらいは必ずある)
この、警察や検察に匹敵する強力な武器が財務省のスーパーパワーのひとつ。決して手放さない。長妻氏は邪魔だった。

日本国は、企業でいえば会社更生法適用寸前の状態。長年にわたって赤字経営を続け、借金は膨らみ業績回復のめどは立たない。企業であれば経営陣を交代し、思い切ったリストラやボーナスカット、事業見直しをすべき。
なのに、ニッポン株式会社を経営してきたはずの官僚は責任を取らず、身分保障が与えられ、あいかわらず無駄な事業を垂れ流している。民間の苦境をよそに、お手盛りで定年の延長が議論されている。残念ながら官僚は、優秀でもなければ公正中立でもない

政府が破たんしてIMFの管理下に置かれれば、公務員リストラや無駄な補助金のカット、年金支給額の削減など断行されるかもしれないが、その前に自分たちで改革できなければ国民生活は悲劇にあう。

増税はいつか必要かもしれないが、まず全体像を定めることが大事。何にどう使い、どう未来を描くのかを示さず、「足りないので、当面10%ほど欲しい」では誰も納得しない。安易に「まず増税」ではダメ。増税に頼って現行の諸問題を解決しようとすれば30%は必要になる。デフレはますます進行し、脱出不可能な泥沼に沈み、最後は破たんする。解決は成長にしかない

人口が減少するなかでも一人あたりが豊かになる方法はある。シンガポールやルクセンブルグなど、人口規模とかかわらず一人当たりGDPは高い。ものすごい新技術の発明などなくても、例えば潰れるべき会社が潰れ、残った会社が元気になるだけで活力は変わる。補助金などで延命してはダメ。

これから中国をはじめアジア諸国は大きく成長する。地理的に近く、歴史的に長い付き合いのある日本には、提供できる資金や技術が豊富にあり、チャンスに満ちている
長時間汗水たらして働くのでは中国に勝てない。知恵を使ってアイデアを出し、効率を上げ、決断を早くすべし。

政府と官僚が主導するインフラ輸出など、はたして成功するか?最後は軍事支援という切り札もある米国政府に比べ、日本政府の情報力・交渉力など幼稚園並み。何年もかかるインフラ事業で失敗すれば、巨額の損失が国民負担に返ってくる。TPPを初めとする解放・規制緩和をすすめ、民間の活力を高めよ
農業は弱いといわれるが、ヨーロッパ諸国では農業人口1%以下の国も多いのに比して、日本では5.7%。しかも大半は兼業や老後の趣味でやっている。

復興財源に国債を発行し、償還の保障が必要というなら都内の一等地にある公務員宿舎を売り、独立行政法人の資産を原資に充てよ。

医療は産業化できる。韓国には6万人、タイには140万人の外国人が先進医療を受けるために訪れる。日本には300人。技術はあるが態勢がない。まず富裕層向けの医療サービスを開発せよ。

観光も産業化のポテンシャルが高い。重要な観光資源を守るために、建築物などもっと規制すべき。現行の規制は役人の責任逃れ=アリバイ作りに過ぎぬものが多く、本気で何か大切なものを守ろうとしていない。

社会保障の改革も必要。これからのリーダーは、国民に厳しいことも言わなくては務まらない。年金は働けない人のための保障くらいに考え、女性や高齢者が働ける環境づくりをいそげ。

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と、優秀な官僚らしく、最後は具体的な提言がずらずらと並んでいます。全部は書ききれません。力と希望が湧いてきますので、ぜひ一読をお奨めします。発表を妨害された、東電の処理策も掲載されています。

本書を読めば、日本という大樹の中心に大量のシロアリが巣食い、国力を蝕んでいるのが判ります。樹を倒してしまっては元も子もないはずですが、寄生虫が自ら態度を改めて、オイシイ餌の摂取を止めることはないでしょう。志を持った政治家がこの状況を変えるべきですし、その政治家を選ぶのは国民です。

民主党がダメとか自民党に戻せばという議論ではなく、日本最大の問題・公務員改革に本気で取り組んでくれる政治家は誰か?という目線でよく吟味しましょう。(たまたま昨日、海江田経産相の「原発再稼働」発言がニュースになりましたが、原発を推進したい経産省の代弁者になっているダラシナイ政治家の見本に見えます)
本書の57〜58Pに「まともな」政治家達の名前があります。

解散がなければ、次の衆議院選挙は2013年。著者は、ここが日本のタイムリミットと言っています。

読むべし!




posted by 武道JAPAN at 01:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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