本書では、巷に多い「日本破綻論」を否定し、日本の問題は財政破綻などではなくデフレである、と説きます。以下メモ。
・・・
●日本は破綻しない
ギリシャでは労働人口の4人にひとりが公務員。民間の1.5倍の給与を貰い58歳で年金支給。商店は当然のように消費税を誤魔化し、ユーロ加盟のため国家が粉飾決算をした。日本にギリシャの真似はできない。
アルゼンチンの破綻は固定相場制が主因。紙幣乱発によるインフレに懲りてドルと固定した後で米国ITバブルの余波を食った。固定相場制で外貨建て債務を持つ国が破綻を防ごうと頑張ってしまうと倒れる。(ただし破綻後は変動相場制に移行しインフレターゲットも導入したため、大幅に通貨安となって景気回復した)
日本は債務のほとんどが自国通貨建てであり、いざとなれば増税や通貨増刷という奥の手があるため簡単にデフォルトしない。
●国家財政は複式簿記で見るべし
国の借金も、複式簿記とBS(バランスシート)で見ること。日本は借金も多いが資産も大きく、対外債権は世界最大。借金の額だけを示して不安を煽るのはおかしい。
そうやって日本破綻をあおる人々には利があるからやっている。税収を都合良く利用できる一部の高級官僚などは天下り先確保のためにも増税したい。年金不安や、国家破産によるハイパーインフレなどの話で不安にさせ、「増税やむなし」に世論を操作する。その周辺で利権に群がる連中もたくさんいる。
IMFの発表ですら注意が必要。財務省からの出向者がいて、時に「お手盛り」レポートを出す。
税収の落ち込み原因は、景気が回復せずGDPが伸びないため。国に借金ができたのは無駄なお金を使ってきたから。この因を退治しないまま、足りなくなったから増税では筋が通らない。
すべき事は、無駄の削減(まっ先に特殊法人改革!)と、デフレ脱却!
例)宝くじ関連の特殊法人では、役員の平均年収1941万円
例)農水省は、バターの輸入を独立行政法人に独占させ、その利益を天下り法人の人件費に充てている(→「日本は世界5位の農業大国」)
●政府と日銀の経済運営は失敗の連続
90年にバブル退治と称して日銀の三重野総裁は金利を6%まで一気に上げた。
バブルがはじけ、行きすぎに気づいて下げ始めたが下げ幅が小さく小出しだったため景気が戻らないまま遂にゼロ金利までいってしまい、そこでようやく景気回復の兆しが見え始めた。
ところが97年に橋本内閣が消費税を増税し、やっと戻り始めた景気の火を消す。
99年から00年にかけてのITバブルで少し上向くと、今度は速水総裁がゼロ金利解除に出て、またもや景気はつまづき、01年の「量的緩和」という新しい手法と、04年の財務省+米国による大規模協調介入で持ち直す。(05年からの景気回復を小泉構造改革の成果と見る向きがあるが間違い。協調介入の効果が現れたもの)
08年のリーマンショック後、各国中銀は通貨供給量を大幅に増やしたが日銀だけ増やしていない。それで当然、円の独歩高になる。政府と日銀は協調して通貨供給量を増やし円安に誘導すべき。
通貨が増えればモノとカネのアンバランス(供給能力過剰)が改善されてデフレ脱却し、日本は再び成長する
●紙幣を増刷してもすぐハイパーインフレにはならない
インフレとは需要に供給が追いつかない事態。現在の供給能力過剰(需要不足)は40兆円ほど。この能力を使いきって、それでも需要に対応できなくなって、初めてインフレに向かう。戦争などで生産流通設備が破壊されたり、働き手が激減しないと起こらない。
・・・
と、いたずらな悲観論を戒め、デフレを止めて成長を取り戻せと主張します。
具体的には、通貨供給量を増やすこと。デフレを脱却するまで増税を封印すること。日銀法を改正する意思のある議員を当選させること・・などの提言が並びます。個人資産を守るためのノウハウも書かれています。
大筋でうなずける内容ですが、以下のような疑問点もあります。
-----
●日本国債の安定消化は永遠には続かない
世界一低い金利で売れている日本国債は最強、簡単に見放されない・・としていますが、現在は国内の潤沢な預貯金を原資に買われているのが実情で、やがて国債の発行額と貯蓄が均衡したら、その後は他の買い手が必要になります。
国内投資家は為替リスクを嫌ってカントリーバイアスがかかるため、現在のようにデフレと円高が続く見込みなら国債を買うのがほぼ唯一の選択肢でしょうが、海外投資家は今のような低金利では買わないでしょう。
つまり、現在のように低い金利で国債が売れる状態には、期限があるはずです。(日銀が買うという手もありますが、これにも限度があるでしょう。無限に買えるなら最初からそうすればよいはずです)
-----
●政府日銀の無策だけでなく、産業界の革新のなさもある
デフレが日本経済最大の問題であるのはその通りですが、その原因を政府と日銀の無策だけに求めているのは疑問です。たしかに政府と日銀はまずい経済運営をしてきましたが、同時に産業界も新しいビジネスモデルやコンセプトを作り出して来なかった。つまり、新産業の育成を怠り、脱工業化をしないまま新興国との価格競争に挑むような浪費をしてきたのではないでしょうか?
ものづくりを捨て金融に走ったかに見える米国が、GoogleやAmazonといった新企業や、iPOD・インターネットTVという新機軸を作り出しています。日本人の職人的センスを生かすためにも「ものづくり」は捨てるべきでないと思いますが、産業界にも新戦略が必要です。
-----
●「日本は借金も多いが資産も大きい」ですが、イザとなったら資産を換金できるのか?道路や橋や自衛隊の基地を売るわけには行かないでしょうし、米国財務省証券(米国債)など売らせてもらえないでしょう。
-----
●本書のタイトル通り、「日本国」は簡単に破綻しないでしょうが、過度なインフレや重税に庶民の生活が破綻する可能性は無視できないのでは?
-----
●冒頭でいきなり辛坊治郎・正記兄弟の「日本経済の真実」を名指しで否定していますが、「目先の人気取りに国債で調達した金をばらまく無策な政治をやめ、成長に資する投資をせよ」とする、こちらの書にも読むべき内容が多々あります。
-----
とはいえ、たしかに本書の主張通り、破綻をあおって儲けようとする連中の手口に転がされてはいけません。特に消費税は(現行の社会保障を続けようとするならば)どこかで上げざるを得ないでしょうが、デフレ下の増税は経済の自殺行為です。
また、若年層から税を搾り取って高齢者を養う「若肉老食」国家には絶対反対です。選挙をすれば人口比で勝る高齢者の主張が通るでしょうが、この世代には若者を応援して貰いたいものです。
無駄削減(特に特殊法人)と規制緩和 → 成長戦略 → デフレ脱却 → 税と社会保障改革 → 必要なら増税 が進むべき航路でしょう。
もしデフレのまま増税すれば失われた20年がさらに続き、新たな成長は望み薄となり、「貧しくなりながらの重税」や「社会保障の削減」が待っています。
無用に未来を悲観して右往左往せず、腹と腰をすえてデフレ脱却を目指すべし。そのために正しい方向性を示す政治家を支持し、新しいアイデアで新産業を興す起業家を応援し、未来を信じて自分の仕事に精進すべし。
読むべし!