2010年12月14日

上海 - 多国籍都市の百年 榎本泰子

アヘン戦争後、南京条約によって開港した上海は、外国人居留地である「租界」を中心に、世界各国から多様な人々を集めて繁栄した。
イギリス人によって基礎が築かれ、アメリカ人によってジャズやダンスホールが持ち込まれ、ロシアやユダヤの難民を受け入れた国際都市、上海。

本書では、当時の日本で「魔都」と呼ばれ、アジア随一の自由都市として栄えた上海の黄金時代を、1843年の開港から1949年共産党軍による「開放」までの約100年間にわたり活写します。

上海で活躍した人々を、一章ごと国別に描くことで、彼らの意図や情熱、成功と敗退を描き出します。丹念な資料収集から組み立てられたものと思いますが、けして堅苦しい文献ではなく、興味深いストーリーとして読むことができます。
当時の様子を記した何枚もの地図や年表、写真が臨場感を添え、特に、上海のバンド(ウォーターフロント)を、ほぼ同じ確度から違う年代に撮影した4枚の写真などは、発展の段階がリアルに見て取れ、一見の価値ありです。

著者は、東大大学院総合文化研究科博士課程修了(比較文学・比較文化専攻)。中央大学文学部教授。著書「楽人の都・上海―近代中国における西洋音楽の受容」でサントリー学芸賞、日本比較文学会賞を受賞。以下メモ。

・・・

・租界の基礎は、イギリス人が作った。
彼らの主要な興味は貿易にあり、中国固有の文化には関心を持たなかった。イギリスの生活スタイルをそのまま持ち込み、自治行政の基本的な仕組みを立ち上げ、競馬場や社交クラブを設立した。

・やや遅れてやってきたアメリカ人は、ホテルやデパートなど斬新なデザインの摩天楼を建設し、ダンスホール、ジャズ音楽など、自由で快活なアメリカ文化を持ち込んだ。
イギリス人と違い、あからさまな人種差別の姿勢を見せず開放的な態度は中国人にも好かれた。戦争の進行で日本軍が進出してくるに従い、駐屯軍を引き揚げた。

・1917年のロシア革命で、国外へ脱出した白系(帝政派)ロシア人たちが艦隊でやってきた。帰る場所のない彼らは難民として租界に流入し、白人であったが支配階級ではなく、中国人と同じ労働者として上海に定着した。

・ナチスの迫害を逃れ難民として入ってきたユダヤ人のうち、財産を持ち出すことに成功したものは米国などに移っていったが、多くは現地で商売を始め、商才を発揮した。

・こうしたロシア人やユダヤ人の中には、才能ある音楽家が多くいたため、次第にオーケストラやバレエなど、文化的な側面から上海に影響を与えた。

・後発の新興国である日本は、蘇州河の北側、紅口地区に日本人街を作って住み、イギリスやアメリカ、フランスの租界が広がる蘇州河以南を「川向こう」と呼んで滅多に足を踏み入れなかった。
・当時、長崎から上海までは船で25〜27時間。「一旗揚げる」気概の日本人が多く移り住んだ。日中戦争〜第2次大戦の進展と共に軍も移民も増え、最盛期には上海に居住する外国人の中で最大派閥になった。

・上海疎開の歴史
1845 - 1860前半 (太平天国の乱終結まで)草創期
1860後半 - 1890前半 (日清戦争まで)発展期
1890後半 - 1918 (第一次大戦終結まで)変動期
1919 - 1937 (日中戦争開始まで)繁栄期
1937 - 1941 (太平洋戦争開始まで)「孤島」期
1941 - 1945 (終戦まで)日本軍占領期

・・・

2010年現在、万博を終え、名実ともに世界有数の大都市となった上海は発展する中国の象徴のように見えますが、その基礎は租界時代に作られたとも言えます。

ジャック・アタリは、富や資本は、人間よりずっと寿命の長い「都市」に蓄積され、世界の覇権は商人や芸術家(クリエイター階級)を集める「中心都市」を軸に回る、と説きますが(→「21世紀の歴史」)、歴史上にも稀有な成り立ちを見せた当時の上海は、まさにひとつの中心都市だったことでしょう。

中国政府の治政を受けずに各国各民族が入り乱れて暮らした100年前の国際自由都市の魅力を読み物として十分に楽しみながら、同時に近現代の歴史が映し出される良書です。

読むべし!




posted by 武道JAPAN at 19:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白そうです。
いつも興味深い本の紹介を楽しみにしています。
Posted by じゃが〜 at 2010年12月15日 00:01
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