2010年11月13日

さらば厚労省 それでもあなたは役人に生命を預けますか? 村重直子

前回のエントリーで霞が関改革の舞台裏を読みましたが、本書では厚生労働省の堕落ぶりが告発されています。

著者は、東大医学部を卒業後、横須賀米軍病院に勤務し、NYベス・イスラエル・メディカルセンター〜国立がんセンターで臨床医を務めたのちに厚労省医系技官となりました。

やがて舛添要一大臣(当時)の「大臣政策室」政策官から内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)付・・つまり現場の医師 → 医師を監督する官僚 → 官僚機構を改革する側・・と、わが国の医療を全方位から経験して本書を著しました。

その経歴と経験から発せられる言葉には、「国民のため」という使命を忘れて省益追求に走る官僚への、強い怒りが込められています。以下メモ。

・・・

厚労省には、一般の法令官僚の他に「医系技官」がいる。医師免許を保有するが、現場での臨床経験を持たないペーパードクターである。

医系技官が作成する各種省令は、現場の実状を無視し医療を混乱させている。

例えば、2009年の新型インフルエンザ流行時には、防護服を着た医師が空港を走りまわった。しかし水際で感染防止ができないのは世界的な常識。事実、国内初の発症者は渡航歴のない高校生だった。

この発症者を見つけたのも厚労省の対策ではなく現場の医師の機転。
厚労省通達では、新型インフルエンザの判別は「渡航歴と37度以上の発熱」とされていたが、該当しなかった。しかし診断した医師が怪しんで保健所に再検査を要請した結果、感染が見つかった。保健所は最初「通達に反する」として検査を渋った。

そもそも、インフルエンザの場合できるだけ異動を禁じ、症状が出た場合は自宅で静養すべき。「少しでも疑わしい場合はすぐ医療機関に行け」とした厚労省通達は完全な間違い。他の病気で弱っている入院患者を深刻な危険にさらすし、医療従事者が倒れれば本当に治療が必要な人々に対応できない。

また、海外で実績あるワクチンが認可されず、規定量の1250倍ものワクチンを投与したあげく「モルモットが死亡」と、まるで海外製が危険であるかのようなデータを出して国産ワクチン以外認めようとしない。(管理人:国内メーカーとの癒着があるのか?)

インフルエンザ流行時にはワクチンが不足するため、各国は競争して確保に努める。調達の安全性を考えれば、海外を含めた複数メーカーと契約しておくべきだが、国産メーカーにこだわった挙句、流行のピーク時に人口の5%程度しか保有していなかった。

2009年に日本政府が用意したワクチンの人口比
10月 0.9% 11月 3.9% (計4.8%)
同年、カナダ政府が用意したワクチンの人口比
10月 17% 11月 37% (計54%!)


ワクチンは全ての人に効くわけではない。副作用も完全に排除できない。副作用の起訴リスクをおそれて、厚労省は「法定接種」にしない。「法定接種」にすれば、保健所などの行政機関でも接種できるが、それをしないため医療機関だけに接種希望者が殺到する。
追加の事務処理や起訴リスク、大流行時の戦場のような人手不足など、すべてを医療機関に押しつけ、官僚は責任を逃れている

さらに厚労省は、インフルエンザ対策と称して症例の全数報告義務を課した。これには罰則規定もついており、違反すれば医師免許の剥奪や補助金削減などが行われる。(こういった省令は、国会を通すことなく厚労省が自由に発することができる)
このようにして、役人は医療機関の生殺与奪権を握っている。

・・・

さらに、厚労省は診療報酬制度を通じて「カネ」の流れを押さえている。

病院は、点数に応じて支払われる「ホスピタルフィー」から経営に必要なすべての経費を捻出するが、長年の医療費抑制によって経営環境は厳しくなる一方であり、しわ寄せは現場スタッフの過酷な勤務体系に現れている。

医学部を出ても医者のポストがなく、経験を積むため仕方なくタダ働きしたり、アルバイトをしながら日給で働く貧乏な勤務医が増えている。

コメディカル(看護師や臨床検査技師など)も不足しており、激務のあまり離職するケースも多い。看護師の1年目での離職率は9.3%。100床あたり各国の看護師数は以下の通り。

英国 200 米国 141 イタリア 136 ドイツ 75 日本 33.6

患者数に比較して必要な医師の割合は、米国の17分の1しか居ない。また、事務処理等にあたる周辺スタッフがおらず医師が書類作成まで担っている。

このような医療行政を医師に押しつける医系技官の発言:
どうせあいつら、医者以外の仕事はできないんだから無理難題を押しつけたって辞めやしないよ

・・・

夜勤明けのまま連続36時間勤務が常態化している。そんなコンディションで手術する医師もいる。支えているのは、現場スタッフの責任感と努力だけ。日本の医療は崩壊寸前である。

そのような状況であるため、医師には診療以外の活動(最新情報の入手や論文発表など)の時間がない。また、国内に様々なデータがあるのに厚労省が握ってしまい公開されない。

米国では医師が臨床にあたるのは勤務時間の2割程度で、他を研究にあてる。また、各種データベースが一般公開されており、様々な研究者が考察や研究に役立てる。畢竟、最新の研究成果やレポートは英語で発信される。

これらの論文を理解するには日常会話レベルの英語力ではダメで専門家でも数年の訓練を要するが厚労省の医系技官は読んでいない(読めない)。また、厚労省には2年で部門をローテーションするという奇妙な決まりがあるため海外の研究者とネットワークが築けない。

国際会議に参加すると、他国のメンバーは何年も前からの顔見知り同士でランチの合間などに様々なことを決めてしまう。最新の医学情報を読んでおらず、周囲は初対面の人ばかりの医系技官は、話についていけず日本人だけで固まっている。

・・・

医療事故を告発する「事故調査委員会」構想は厚労省の権益拡大策。
2000人規模のポスト創出が狙い。医療事故に医療知識のない警察捜査を持ち込む「犯人探し」。お産を初めとするリスクの高い医療行為をする医師がいなくなってしまう。

この構想に対してはインターネットメディアが動向を報じ、現場から声が上がって役人の暴走を食いとめた。情報が適切に流通し、国民が考える事が正しい行政の実現に必要。

・・・

しかし、日本の大手マスコミは官僚の発表をそのまま報道するだけで独自の取材能力を発揮しているとは言えない。米国の報道機関は、新型インフル発生時にメキシコに医師やリポーターを常駐させて現地から実態を報道し続けた。

・・・

と、まだまだ書ききれないほどの濃密な情報が詰まっています。

厚労省は「兵站」に注力し、非現実的で実行不能な「大本営発表」をやめよ、という村重さんの主張に頷きつつ、官僚が机上で立てた無謀な作戦で負けた先の戦争と似ている。。と考えてしまいました。

このような政策を続けていれば間違いなく医療は崩壊し国民にそのツケが回る。官僚だって無関係ではいられないだろうに、なぜ方針を改めようとしないのか?国民の健康が守られ皆が幸福になって、何か困ることでもあるのでしょうか?それとも官僚は、何があっても攻撃を受けない安全圏にいるつもりでしょうか?

本書では、批判だけではなく、診療報酬を病院単位で支給する現行の「ホスピタルフィー」に加え、医師個人にも仕向ける「ドクターフィー」制度の導入など、事態を打開する様々なアイデアも提言しています。

また、小児医療の崩壊を危惧したお母さん達が、救急車を呼ぶべきガイドラインを自主的に作成した、兵庫県の「小児科医を守る会」の活動などを紹介し、軽症なのにすぐ救急外来に飛びこむコンビニ診療を控える・普段から病院と診療所を上手く使い分ける・ワクチンを接種するリスクとしないリスクを区別する・・など、国民にも判断力を持って欲しいと訴えます。

そして、医療現場が置かれた危機的状況と厚労省の実態を知って、「お上におまかせ」で本当に良いのかを考えてほしい、と問いかけます。

あなたは役人に生命を預けますか?

読むべし!!!





posted by 武道JAPAN at 13:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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