2010年11月03日

官僚のレトリック ― 霞が関改革はなぜ迷走するのか 原 英史

うう〜む。これは貴重な記録です。

著者は、東大法学部を出て通産省に入り、2007年から安倍・福田内閣で渡辺行政改革担当大臣の補佐官を務めました。つまり行改のインサイダーとして、霞ヶ関との戦いを内部から見てきた人物。
安倍・福田・麻生内閣を経て民主党に政権が移り鳩山内閣に至るまでの霞が関改革が、どのように推移したかがまとめられています。

結論から言えば、「脱官僚」は、納得できる状態まで進んだとは言えません。むしろ、その後の官内閣でおおいに後退し、巻き返されているのが実情です。

しかし、21世紀に日本が繁栄を失わないために、公務員制度改革はどうしても必要です。
→「日本の問題のひとつは官僚周辺の利益を過剰に保護してきたこと」〜21世紀の歴史 ジャック・アタリ

今後、政治状況がどうなるにせよ、霞ヶ関という強固な要塞を攻略するのに、先人達の歴史が得がたい教訓になるのは間違いない。そういう意味で、たいへん貴重な資料といえるでしょう。本書は、言うなれば「霞ヶ関攻防戦」の戦記であり、霞が関修辞学という官僚の手口をあばく告発の書です。以下メモ。

・・・

●霞が関改革の概観

絶大な人気を誇った小泉総理さえ、郵政や道路公団をいじっただけで、霞ヶ関本丸には手を付けられなかった。
公務員制度改革に本気で着手した安倍政権は、公務員の再就職を一元管理する「官民人材交流センター」の創設などで、天下り規制という急所を攻めた。
安倍政権の掲げる「戦後レジュームからの脱却」は、長く維持された統制経済体制からの変革も目指していた。

この戦略は正しかったが、官僚の抵抗は熾烈となり、ついには社会保険庁の自爆テロともいえる「消えた年金問題」で国民の怒りに火がついた。長期安定を期待された安倍政権は短命に倒れてしまった。

しかし、改革の方向性がセットされたことで、次の福田内閣では思わぬ進展が見られ「国家公務員制度改革基本法」が平成20年に成立した。

だが、続く麻生内閣では、総理自ら改革に逆走するような動きを見せた。
せっかく官僚の人事権をおさえる内閣人事局が新設されたのに、麻生首相の裁断で局長ポストが官僚に奪われてしまった。「官僚は使いこなすもの」と言いながら官僚の手に乗せられていた。

民主党政権になってからは、改革は完全に逆行している。
改革の司令塔になるはずだった国家戦略室はまったく機能せず、元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を日本郵政社長に据えるなど、民主党自らが「渡り・天下り」の典型のような人事を発動している。

●官僚のレトリック

大臣の演説や答弁は官僚が作る。その中に罠を仕込む。その後、独特な「霞が関修辞学」によって意味が読みかえられる。

限定:「Aをやります」→「A以外はやらない」
延引:「Aだけでは手落ちだ。まずBを、それからCもしなければ」→結局何もできない

などなど・・

天下りの斡旋禁止に「押しつけ的斡旋の」禁止、と付け加える。すると「押しつけ的な斡旋でなければ良い」「これまで押しつけ的な斡旋はなかった」「斡旋を禁止しなくて良い」となる。

●なぜ「脱官僚」は必要か

本来、政策の立案=政治家/それを手足として実行=官僚 という役割であるはず。
ところが、この役割が逆転している。官僚が政策を作り、政治家が利害調整し実行している。

官僚は、政治家が勝手にクビにできないよう身分保障で守られている。これは政治の独走を抑えるために必要な制度であるが、反対に官僚が暴走した場合に抑止力がない。

政治家は選挙という審判を受ける。政策がまずければ次の選挙で国民に拒否される。しかし官僚には、国民も政治家も審判を下せない。なのに政策を立案し、日本を実質的に動かしている。これは倒錯であり、政策立案を政治の手に戻すか、官僚に責任を取らせるシステムに変えないといけない。

もともと官僚組織には、政治家でなく天皇に仕えるという意識が強い。戦後、天皇が政治から退いたのちの官僚機構は、明確な忠誠の対象を失ったまま存続している。組織が組織として生き延びる事が目的になってはいないか?

●どのように「脱官僚」を成し遂げるか

現行の官僚組織は年功序列で一律に昇進する。しかし最終的にトップ(次官)に登りつめるのは一人だけであるため、他は天下りポストが必要になる。この構造を改める。

例えば、年功一律でなく仕事の成果を見て昇進し、上にいけない場合は民間を含めた他に転出するアップ・オア・アウト方式の導入が望まれる。米国はこの方式が普及しており、転出するといっても左遷ではなく、行った先で専門家として成功している。反対に、民から官へ登用する仕組みも、もっと充実させる。

高度経済成長が終わり、外国のマネや後追いではやっていけない時代が来た。日本を繁栄させ続けるためには、既得権益に固執する集団を排し、優秀な頭脳の官〜民流通を容易にして適所で活躍させなくてはならない。

1)使いこなす前にまず人選
新しく赴任した大臣は、人事を掌握し信頼できるチームを見極め再配置すべし。改革に前向きな官僚もたくさん居る。

2)閣議を討議の場にする
大臣が、いつのまにか担当省庁の利害代弁者になってしまう。「内閣の一員」として国家目標に沿った議論をすべし。

3)人事院と身分保障の廃止
官僚は特別な存在であるという意識を排する事。労働基本権も与え、聖域を設けない公務員制度改革が必要。

4)過去の成功・失敗に学べ
改革の全体像をおおまかに示した上で、急所となるポイントに集中せよ。
インターネットなど活用して政策プロセスを公開せよ。国民の目があるところでは官僚も勝手はできない。

5)脱官僚に足る政治家を
官僚頼みになってしまうのは、政治家の質が悪いから。官民だけでなく、政民も人材の交代がおこる仕組みが必要。

・・・

と、具体的な提言がならびます。

これから改革に取り組む挑戦者にとっては、貴重な資料と言えるでしょう。現在の民主党には、まったく期待が持てない状況ですが・・

著者自信も元官僚であり、「高い志を持ち、努力と研鑽を怠らない優秀な官僚もたくさん居る」と書いていますが、それは本当だろうと思います。

問題は、日本の行方を本気で考えて政策を実行できる政治家を国民が待望する事と、その政治家が誰か、を国民が正しく見定めて応援する事でしょう。

官僚組織は自己保身のためなら自爆テロも辞さない。冷静に考えれば「消えた年金」問題は安倍政権の責任ではないのに、本気で制度改革に取り組んだ政治家が、官僚+官僚と結託したマスコミによって倒されてしまったのではないでしょうか?
→「記者は情報を警察や霞が関から得る・・当然、官庁とは”仲良くやる”事になる」〜官僚とメディア 魚住 昭

その文脈で言えば、今後は「みんなの党」あたりに様々なテロが仕掛けられるかもしれません。我々はマスゴミの流言に惑わされないメディアリテラシーを磨きましょう。

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 15:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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