2010年10月11日

数字が明かす日本人の潜在力 林知己夫 櫻庭雅文

自分の読書メモとして始めたこのブログも、武術の専門書やマンガを除いて、ついに100冊目になりました。千冊まであと900冊です!(いや、嘘です。別に千冊を目指しているわけではありません)

さて100冊目となる本書は、図書館で偶然見つけたものですが、とても内容が良かった。。たいへん勉強になりました。

著者の林知己夫さんは統計学者。正四位勲二等理学博士。統計数理研究所第7代所長。
データによって現象を理解する「データの科学」を提唱し、実践。日本人の国民性に関する調査を50年にわたって続けたそうです。残念ながら2002年に他界されています・・もっとこのような有益な研究を続けていただきたかった。。

本書は、そのデータから導き出された日本人の特性を、礼賛するでも卑下するでもなく、実に素直に「こういう風です」と紹介しています。統計に基づく予断のない中立な記述は、きわめて真摯で信頼に足るものと感じました。以下メモ。

・・・

●諸外国について

・科学文明への信頼度や、金銭感覚、人間に対する信頼感や距離感などで統計を取ると、日本だけが何もかも特殊だったり、アジア人同士なら近いといった事実はない。

・先祖、家族、宗教に関する考え方では、オランダや英国は日本人に近く、独・仏・伊は遠いが、人間関係重視の傾向では、ドイツが日本人に近く、英・米・伊は遠い。

・インドネシア、タイ、シンガポール、マレーシアでも、「残業して人の仕事を手伝うか」「お金があっても働くか」などに対して各国各様である。現地に進出する日本企業は、よく理解が必要。(管理人:詳細データは実際に本を見てください)

○アメリカ文明の強さ

・米国の強さの秘密はプロテスタンティズム。欧州はほとんどカトリックで、いまや宗教は生活の表面に現れず、基底をながれている。米国では道徳と結びついて規範となり、生活の表面に顕在している。これが若さのある社会を作っている。

・スタンダード(基準)化がうまい。そもそも50の州と移民をたばねて作った国。ひとつの判りやすいスタンダードを作り普及する(管理人:そういえばパソコンのOSやマクドナルドも?)。

・アメリカ文化は、歴史の土台がなく、「あうん」の呼吸が通じない社会でうまれたため、合理的で論理的なタテマエを押し通す。強力で、ハマると抜け出すのが難しく、極端まで行きつきやすい。「民主主義・自由・平等」を強硬に押しつけるグローバルスタンダードの弊害のもと。(管理人:文明の中のサイボーグかな?強いけど、「ほどほど」や「まあここはひとつナカを取って」が通じない。。)

○日本人と中国人

・同窓会や学会などで、ごく自然に幹事を選び事務局を作って組織運営ができる・・というのは日本人とユダヤ人だけ。非常に特殊な能力。

・中国は英雄主義。始皇帝から毛沢東まで、トップに強大な権力が集中し末端まで指示する。中間組織を活用しない。知識も独り占めする。トップが替わると継承しない。(管理人:日本では反対に、官僚組織が分厚く、政治家が変わっても変化しないですが、良し悪しですな。。)

・日本と中国では、もとめるリーダー像から社会の仕組みまで、まるで違う。


●日本人と政治

・日本では一個人への権力集中を避ける。大統領制はなじまない。

・白黒ハッキリより和や中庸を好む。対立を好まず、根回しして妥協する。二大政党制が根付かない。

・政治が仕事をすれば、良いことばかりでなく負の面も出る。すると、自虐的でネガティブ面に注目する国民性が出て、内閣支持率が下がる。統計的に、支持率が下がらなかった内閣は、何もしなかった内閣である。(例:細川・海部など)

・日本では、国民が食えない時代には革新(社会主義)に支持が集まるが、生活が落ち着くとけっきょく保守に戻る。思想と生活は別のはずなのに分化していない。つまり「思想としての」保守・革新ではない。国民の政治への要求も、経済が多い。

・日本人には「保守思想」も、情緒を排して科学と理性で社会を律しようと考える「革新的イデオロギー」も、共になじまない。安定した保守が、少数意見も取り入れながら運営する・・というのが、統計からみた国民性に合っている。


●仕事と社会

・日本の組織では、トップは精神訓話/現場が創意工夫する。これは勝っている時は強いが負け始めるとまずい。小出しの対策を順繰りに出して被害を大きくしたりする。米国では上層部が下層部の仕事を細かく決める。

・談合は、共存共栄のシステムであり利点もある。受注が見込めれば企業は効率的に先行投資ができる。完全な競争にすれば値下げ合戦となり、最後は強者の寡占で終わる。

・本音とタテマエは悪い事ではない。杓子定規を好まない、臨機応変の知恵である。海外にもフロントステージ/バックステージがある。本音だけで成り立つ社会はない。
人間行動は、深層心理が知性による理論付けや、教養による肉付けなど様々な衣装を着て表層化したものである。本音を、どのようなタテマエ(表層)に表現するかは文化の違いである。


●人間関係

・義理人情の感覚は若い世代でも意外に薄れていない。景気が悪いと人情も薄くなるが、経済が盛り返すと人情も戻る。

・人間関係を重視する長所は、ストレスの少ない住みよい社会。他国に見られぬ、やわらかで優美な社会を形づくっている。
短所は、「断りきれず」「世話になっているから」で公私の境を超えてしまうこと。汚職などにつながる。
これを防ぐには、恥や誇り・けじめの感覚をしっかり持つ必要がある。外交などで、必要以上に人間関係を重んじては国益に反する。

・戦後、田畑や家屋敷といった財産がなくなった。(日本には中流は多いが中産階級が少ない)「継がせる」必要がなくなるとともに、日本人の「家」意識も薄れている。

●新人類?

・明治以来の西洋礼賛が終わり、日本が世界のトップに立って以降に生まれた世代は「古いもの=ダメ。新しいもの=素晴らしい」とは思っていない。これは復古や保守化ではなく、「古い/新しい」という対立軸で考えなくなったため。日本の伝統的文化にも自然に接する。

・フランス人などは、健康に満足していても家庭には不満だったりするが、日本人はひとつの事に満足なら他も全てヨシとしてしまう。心が分化していない。一次集団(家庭)の論理を二次集団(会社など)に敷衍してしまう。この日本型家族的社会の仕組みを外国に持っていくと通用しないので注意が肝要。

・日本人は宗教心が薄いのではなく、自然体で宗教に接している。特定の宗教に傾倒しなくても、宗教的な心は大切だと考える人間の割合は圧倒的に高い。

・日本人の表面的な思考の底流には、情緒的感情が流れており、伝統的な人間関係重視や、素朴な宗教心に親和している。この傾向は、50年間変わっていない。フレキシビリティや、特定イデオロギーに染まらない現実適応力、バランス感覚、勉強好きも変わっていない。

・・・

「21世紀を輝かしいものにするためには国際相互理解が必須である。諸外国への配慮ばかりや、アメリカさまさまの態度ではいけない。」
「日本語は中間的で曖昧な言語であるが、フレキシブルで平衡感覚に優れた日本人の特徴でもある。幼児からの英語教育は日本人らしさを失わせ文化を毀損する。」

など、現在ますます重要な論点に、きわめてまっとうなご意見を述べられており、頭が下がります。

2002年8月に出版された本ですが、林さんの没年が同8月6日ですから、亡くなる直前まで執筆されていたという事でしょうか・・

素晴らしい内容でした。

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 21:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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