作者のヤマザキさんは14歳のときドイツ・フランスを一人で旅し、17歳から11年間イタリアに住んでイタリア人男性と結婚。その後、中東やポルトガルを経て現在はシカゴ在住。
本書は、2010年マンガ大賞と手塚治虫文化賞を同時受賞。タイトルの「テルマエ・ロマエ」とは、ローマの風呂という意味だそうです。
物語の舞台はハドリアヌス帝時代の古代ローマ。主人公は浴場の設計技師ルシウス。生真面目で実直で、融通が利かないほどに誠実で、簡単に信念を曲げない、実によい男です。
そんなルシウスですが、古代ローマの浴場と現代日本の風呂(または温泉・銭湯など)をタイムスリップしつつ行き来するという奇妙な能力を身に付けてしまいます。
いや、本人の意思と無関係にそれは起こるので、能力とは言えません。風呂限定での時空間ワープが、彼の身にたびたび起こる・・そして、新しい浴場の設計に悩むルシウスは、現代日本の風呂文化に驚愕し、感銘を受け、新たな創作のヒントを学んでローマに帰る・・というのが物語の基本設定です。
大爆笑や大感動はないのですが、なんだか可笑しく楽しい。その面白さのポイントは、次の二点に絞られるように思います。
1)我々にとってはあまりに日常的な風景が、古代のローマ人という「外」の視点から描かれることで見えてくるおかしさ。「はあ〜そういうところに驚くかね。なるほど〜」みたいな。
これはおそらく、作者の海外在住暦の賜物でしょう。
2)偉大なるローマ文明に誇りを持つルシウスが、我らが日本文明・温泉文化に素直に感動し賞賛してくれる嬉しさ。
銭湯で飲んだフルーツ牛乳に「美味いッ!・・この世のものなのか!?」と驚き、露天風呂に入って「このような風光明媚な場所に浴場を設けるとは・・ギリシャ人にも劣らぬ美的感覚・・」と感心したり。。日本人としては「そ、そうかな?判ってくれるかな(嬉)」と、くすぐられる気分になります。
湯船にゆったり浸かる・・という習慣は、他国にあまり見かけないもので、そもそも水が豊富でなければ望むべくもない。日本のように豊かな森や水に恵まれた環境と、ケガレをきらい身辺をつねに清め払う神道的な感性がなければ育たなかった文化なのでしょう。
古代ローマと日本に、おもいがけない共通性があったわけですが、その後、ヨーロッパではキリスト教文明が席巻する事によって裸体を恥じるようになり、テルメ(温泉浴場)文化は失われていったようです。
ほのぼのと楽しめる物語です。
共に風呂文化を愛するルシウスを、あなたもきっと好きになりますよ。
読むべし!