2010年08月08日

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 浅川 芳裕

「わが国の農業は衰退しており、日本は世界最大の食糧輸入国。若い後継者がなく農村は高齢化し破綻は時間の問題。いったん荒廃した田畑は簡単に戻らない。食料自給率を高めなければ、万一の時に国民が飢える。よって、我々は農業を保護しなければならない。」

本書によれば、これらは全て「大嘘」だそうです。

著者は月刊誌「農業経営者」副編集長。
本書は、その連載記事を単行本化したものですが、国益より省益を優先する農水省の陰謀を糾弾し、集票目当ての民主党の戸別補償政策を愚策として切り捨て、日本の農業は世界に飛躍できる可能性を持った強い産業であるとして、優秀な農業経営者が自由にビジネス展開できるよう支援すべきと説きます。

特に農水省については、90年代に米が不足して緊急輸入した時、あえて長粒米を輸入して外国産米のイメージを悪化させたり、バターの輸入を独立行政法人に独占させ、利益を天下り法人の人件費に充てている実体などが暴露され、不要(あるいは有害)な利権団体として手厳しく告発しています。

全体として目からウロコの良書ですが、一部注意して読まないといけない部分もあります。以下メモ。

・・・

●カロリーベース食料自給率の無意味さ

世界中どこにもカロリーベースで自給率を計測している国はない。「先進国中最低」と言われる根拠は、日本の農水省が世界各国のデータを手間隙かけて「カロリーベース」に計算しなおして作ったもの。

スーパーに行けば国産の野菜や肉が豊富に並んでいるが、カロリーの低い野菜は「カロリーベース」では小さく見積もられ、肉も外国産飼料を使っていると除外されてしまう。これは日本の自給率をことさら低く見せ、対策予算を獲得するための農水省の情報操作。
農水省の仕事は減っており、窮乏する農家、飢える国民・・のイメージを作り出さないと、存続自体が危うい。今や国民の食を守るという使命を忘れ、天下り先の利益を確保するためだけに働いている。

食料安全保障を考えるなら、不作や自然災害、病気の蔓延や国際紛争など、多様なリスク管理の視点で扱うべき。例えば石油が入ってこなくなったら農機は動かず、生産地から都市まで作物は流通しない。自給率向上ばかりでなく、緊急時に輸入できる仕組みを確保しておく事も重要。

●民主党個別所得保障政策の愚

日本の農家には、本業として取り組んでいるプロと、「週末だけ農家」のような似非農業者(数だけで言えばこちらが圧倒的多数)がいる。

民主党が推進する戸別補償のようなバラマキ政策は、圧倒的多数の似非農家から票を獲得するための選挙対策。似非農家が「どうせ赤字は税金で補填されるから」と作物を安売りすれば、腰をすえて取り組んでいるプロ農家の収入を圧迫し、日本農業を衰退させる。

●農業は成長産業

農業人口は減っているが、どこの先進国も同じ。農業人口の減少を補ってあまるほど生産効率は上がっている。
現在も生き残っている本業農家は、知恵を絞って生産性を高め、付加価値の高い産品を生み出せるようになったプロであり、税金を投入して保護しなくてはならない「弱者」ではない。地域ごとの農協ではなく、生産物ごとの全国組織(例:全米ポテト協会)を作ってマーケティングのプロを雇い、海外進出も視野に入れよ。

・・・と、常識がくつがえる情報が満載です。ただし、次のような納得できない点も見受けられます。

●著者は、カロリーではなく生産額ベースで自給率を見るべきであるとし、生産額では日本は世界5位の農業大国であると主張する。しかし、本当の自給率を見るためには、この数値もおかしいと思う。

著者自身が主張するように、日本の農産物は大半が国内で消費されている。関税障壁を高くした豊かな経済大国向けに消費されれば生産「額」が大きくなるのは当然だろう。
物価調整済みの購買力平価とかで比較すればもっと正確に判断できると思うが、なぜかそういったデータは掲載されていない。

●また、フランスやドイツが日本よりも多く輸入しているデータを示し、「日本は世界最大の輸入国ではない」と主張するが、それらの国は輸出額も巨大である。翻って日本は、ほとんど輸出をしていない。
この「輸出入の差し引き」を見ないと、「外から入って来なくなった場合」の危険度は見えないのではないか?

●さらに、世界の食料供給量が人口増加ペースより高い水準で増えている点を挙げて「食糧危機はまず起こらないだろう」としているが、これは無責任に聞こえる。今後の人口増加ペースを鑑みれば、将来にわたって危機が起こらない保証にはならない。
極端な気候変動が起こって自国民の食料さえ危うくなった場合に、安い価格で他国に輸出してくれる国はない。食料に関しては、他の製品と同等にビジネスの観念だけで取り扱ってはならないはずである。(これを書いている途中で、干ばつによる不作を理由にロシアが小麦の輸出を禁止する、というニュースも入ってきた)

●日本農業は強い・・と主張されているが、関税を撤廃し、補助金を取り去っても本当に強いのか疑問。EUでは、自国の農業を保護する為に莫大な予算を割いていると聞く。
さらに、研修生という名目で低賃金の外国人を雇ってようやく成り立っている農業法人の実態はどうなのだろう?

・・・

どうも、農水省解体の大筋合意がどこかであるらしく、本書はそのための世論形成に一役買う役回りらしい。鵜呑みにしないで読む態度が必要でしょう。

とはいえ、一方的な農水省の「食料自給率向上キャンペーン」から抜けだして、新しい議論の視点を提示した役割は大きい。一読の価値はあります。

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 19:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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