著者の名前は知っていても著作を読んだ事がなかったのですが(何しろ代表作「ローマ人の物語」は全15巻ですから、取り組むのに覚悟が・・)、読んでみて文章の上手さに感心しました。
本書は、「文藝春秋」の巻頭エッセイを単行本化したもので、気軽に読める内容ながら折々の政治課題を取り上げて切れ味鋭い提言を綴っており、読み応えがあります。
2007年参院選における自民党の大敗時に「内外共に課題山積の現日本に首相をころころ変えて体力を浪費する余裕は無い」として安倍首相の続投を擁護し、歴史に鑑みれば武力によらない領土奪還がいかに難事かを説いて沖縄返還を勝ち取るために密約もやむをえなかったとする骨太な視点は、著者が女性である事を忘れさせるほど男性的で、惚れ惚れします。長く海外に暮らしているため、「外から見た日本」という視点があるのも魅力です。
時々、ローマでの出来事や、好きなお酒の話題が入って息抜きになります。以下メモ。
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・ローマの衰亡は500年 日本の衰弱は20年 ならば、どうする?
・危機を打開するには、何をどうやるかよりも、何をどう一貫してやり続けるか、のほうが重要です
・亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起こるのではなく、人材はいてもそれを使いこなすメカニズムが機能しなくなるから起こる
・もしも外国人の誰かがこの日本の歴史を書くとしたら、個々の分野では才能ある人に恵まれながらそれらを全体として活かすことを知らなかった民族、と書くのではないだろうか
・改革とは所詮、腹を決めてルビコンを渡ることであり、しかもその後も、首相が代わったぐらいでは引き返せないところまで一気に突っ走ってはじめて、ヤッタ、と言えることではないか
・サミットは機能不全に陥っている。原因のひとつはロシアを入れたこと。サミットはもともと欧米的な国の集まりだった。ロシアは欧米的でない。日本も、欧米ではないけれど欧米的な国と思われている。欧米的とは、共生するために必要な国際ルール、つまり”法”を遵守するという意味。
・今になって移民を受け入れようとは馬鹿なこと。英独仏が現在どれほど苦労しているか見よ。移民が、移住先の国の法を遵守するのが当然と思われていた時代とは違う。いまや移住先の国に治外法権域を作ろうとする。日本はこれまで通り、静かに目立たないように移民の受け入れを拒絶すべき。
【独国営放送】ドイツ人だという理由でいじめられるドイツの子供
先進国でさえ、城壁のような塀をめぐらせガードマンを雇わないと安心して暮らせない状況になりつつある。労働力不足には女性や非正規労働者の活用で応え、世界一治安の良い環境をさらに磨いて世界から3K移民ではなく知識労働者を招聘せよ。
・憲法改正は必要。自分自身を守ろうとしない者を守る他人はいない。イラクで、数千人の犠牲でもう腰が引けた米国が、石油も無く民主化する必要もない日本のために自国の若者を犠牲にすると考えるのはどうかしている。
・歴史は結果次第で書きかわる。もし日本が戦争に勝って、大東亜共栄圏を樹立し100年うまくやれば侵略戦争とは言われなかっただろう。侵略であったかどうか議論しても無意味。明確なのは「負けた」事であり、負けたから侵略戦争になった。考えるべき事は、いかにして二度と負けないか。
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などなど、ひとつひとつは短いエッセイの集合ですが、含蓄のある内容が上に書ききれないほどシッカリ詰まっています。
国益を優先して自民との大連立を当時民主党代表だった小沢一郎に訴えかける「拝啓 小沢一郎様」では、民主党の衆院選勝利と、その後に起こる連立内閣の行く末を見事に言い当てており、歴史と人間を深く学んだ著者の慧眼に感心させられます。
今日も書店で平積みになっているのを見ましたが、売れているのではないでしょうか。ものすごく面白いです。
読むべし!
ローマ人の物語は年1冊ぐらいのペースじゃないと財布が持たないですが。あれ?
コンスタンティノープルの陥落、ロードス島戦記、レパントの海戦なんかは、一応連作ですが、単独でも楽しめますよ。