本書は、明治〜昭和にかけての変化を、政治や軍事でなく食文化から見てみようという試みです。
といっても堅苦しい内容ではなく、当時の文献(というか主婦向け雑誌?)などを参考にして、著者自ら作ってみた料理や保存食のレシピと感想を、面白おかしく紹介してくれます。
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●食生活維新は昭和に入ってから
明治に社会体制を一変させた日本だが庶民の食事は江戸時代と変わらず、ご飯に汁と漬物、煮物、干し魚だった。
日清日露の戦争を経て、海外旅行などに一生縁のなかったはずの農家の次男坊三男坊が兵隊として中国・朝鮮・台湾に派遣された結果、中華料理や(進出してきていた列強の)西洋料理に出合った。植民地にした朝鮮の白菜や、満州の大豆が入ってきた。
関東大震災や第二次大戦からの復興過程でガスが整備され、各家庭での煮炊きが非常に効率化され(それまでは薪や炭)、主婦が新しい料理を試みるようになった。和食をベースにして、様々な国の料理を独自なアレンジで取り込んでいった。
●賞味期限は自己責任だった
ガスが整備されても冷蔵庫は普及していなかったため、乾燥・塩蔵・酢や味噌を駆使して保存食を手作りし、賞味期限は自分の五感で判断した。
加工食品は少なく、梅干、納豆、ラードやスープストック、ソーセージや果物ジュースなど、自ら様々なものを作った。(ジュースは発酵してワインになったりするので、主婦向け料理テキストが密造酒製造の手引きになっていたりする)食品の保存→加工→調理の知恵が詰まった、安上がりで健康的な生活術があった。
冷蔵庫が普及して、これらのノウハウが廃れた。賞味期限を判断できず、食品メーカーの責任にするようになった。
●昭和のレシピは食料自給率を助ける
肉の摂取量が極端に少なく、塩分の高い副食物が多かった。梅干など、最近流行の減塩ものでは弁当に入れても殺菌の効果がない。塩分が高いと血圧への悪影響をを心配するが、塩辛いものは量を食べられないため少量のオカズで山盛りご飯・・となる。食料自給率向上に良い。
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などなど・・当時の資料を豊富に掲載しつつ、「昭和のレシピ」と、それを支える知恵と工夫を紹介してくれます。
あまり細かなレシピが掲載されているわけではないので、レシピ本というより読み物ですが、日本人は外来文化を何でも柔軟に自分たちに都合の良いようにアレンジして取り込むのだなあ・・とか、戦争や社会体制の激動の中でも、庶民は日々何かを食べながら生きていたのだなあ・・とか面白く読めます。
グルメ追求ばかりが道ではありません。自分で魚や大根を干してみるのも楽しそうです。
料理が好きな人、わが国の食料自給率向上に台所から一助を見出したい人、健康増進と家計のリストラを同時に手に入れたい人など・・読むべし!