2010年05月16日

驕れる白人と闘うための日本近代史 松原久子

このタイトルで、表紙には鎧兜の写真。過激に見えますが、むしろ淡々とキレイゴト抜きで歴史を語っており、多くの人に読んでもらいたい一冊です。

著者は、京都に生まれ、長くドイツで活動し現在は米国在住の学者・評論家。本書は、ドイツで1989年に発表され、日本語に翻訳して2005年に出版されたとのこと。

大多数の日本人は、西欧で生まれた「進んだ」文明が、「遅れた」アジア・日本に伝播し、日本が「文明」開花したと考えているでしょう。それは一面においては真実ですが、では「文明」とは何でしょうか?

西郷隆盛は「文明とは道の普く行はるるを賞賛せる言にして、宮室の荘厳、衣服の美麗、外観の浮華を言ふには非ず(文明とは広く道義の行われることであり物質的な華美ではない)」と述べ、「西洋は野蛮」と切って捨てました。

鎖国時代の300年近く、国内を平和に治め、教育と安定した生活が全土に行き渡り、省エネルギーでエコロジカルな循環社会を築いて、芸術芸能を発展させていた日本文明のなにが「遅れて」いたと言えるのでしょうか?

本書では、近代史を自分達に都合の良いお伽話に仕立て、心の底に「我々こそが近代文明のリーダーであり、世界に福音をもたらしてやった」との傲慢さを隠し持っている白人の幻想を真っ向から否定する挑戦の書です。以下メモ。

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●豊かで平和だった日本

・多くの国が開発援助を受けながら思うように自立できない。日本は明治維新後、ODAも世界銀行も国連もなく、あるのは弱肉強食の植民地主義列強だけという時代に、自国の費用で外国人技術者を招聘し、留学生を派遣して学んだ。

・日本の成功には江戸期以来の・教育の普及・手工業の伝統・市場や交通インフラの整備・資本の蓄積・贅沢をせず事業に投資する資本家、という背景があった。当時、日本ほど国民の識字率が高く、工芸が発達し、全国にあまねく安全な陸路や航路が普及していた国は見当たらない。成功する為の下地があった。

・工業の発達には公平な冨の分配が必要。市民が貧しく買い手がいなければ工業も商業も発展しようがない。日本は古来より、激しい貧富の差が社会不安の元と理解しており、冨の極端な集中を排除してきた。サムライ達は裕福ではなかったし、現在も社長と社員の給与格差は小さい。
冨が公平に分配されてきた為、日本では暴動や革命が少なく社会は安定していた。革命がなかった事を指して「日本人にはダイナミズムが足りない」とする批判があるが大きな間違い。日本には、革命に訴えるべき圧制自体がなかった。

・日本の農民には(西欧の農奴と違い)村単位での自治があり、寄り合い(議会)があり、代表者が藩(徴税者)と年貢(納税額)について話し合って決めていた。「一揆」とは、話し合いが難航した際の団体交渉であり、例外を除いて暴力行為ではなかった。自主的に新田を開拓した場合には長期間の免税も認められた。

移住は禁じられたが、移動(旅行)は自由で、届け出をして通行手形を貰い、他藩の農業情勢視察などが盛んに行われた。天候が安定して豊作が確実な年などは、多数のお伊勢参りが見られた。このように、西欧のような圧政がなく高度な自治が許されていて村単位の結束が強かった。

戸籍管理や新田開発のための測量なども村で行い、そのために寺子屋を設けて読み書き算盤を教育した。全国で15000以上の寺子屋があり、識字率は70%以上。当時の欧州諸国は50%以下。
ちなみに日本で「大学」が設置されたのは奈良時代の701年。

・通信網も完備されており、全国どこへでも信頼して飛脚便が出せた。これを利用して通信教育の制度もあった。英国で郵便制度が確立したのは、明治維新直前の1860年。

・度量衡や輸送の梱包形態・畳や建具の規格も全国的に統一されていた。家屋の新築・補修時にどこから畳や戸板を持ってきてもすぐに使えた。

・銀行(両替商)も完備されており、1720年には既に大阪で米の先物相場があった。

・図書館(貸し本屋)があり、@娯楽作品Aハウツー物(起業の方法や健康法など)の人気が高かった。(現代と同じである)

・平和が保たれ、国民の勤労意欲が高く、市場が発達したため競争は激しかった。常時供給過剰気味でデフレギャップに晒されていた。(現代と同じである)
西欧のように売ってやる・買わせて頂くではなく、買ってやる・売らせて頂くであった。当然、品質とサービスは大いに磨かれた。(現代と同じである)

・政治も、商工業や寺社・農村に多大な自治を与えた。支配階級は権力の分散を図り、合議制を旨とした。権力と冨を独り占めにする西欧の支配階級とは正反対で「欧州では考えられない事だが、日本という国は数千万という国民からこよなく愛されている」

・戦後、占領軍によって「農地解放」が行われた際、「大地主による農地の独占は何百年も続いた日本の悪しき伝統」と言われたが、全くの間違い。日本の伝統では土地には所有権がなく、共有の財産として大切にされていた。西欧流の所有権概念が導入された途端に、公共財であった土地が投機の対象となってしまい寡占化が進んだ。

・西欧では産業革命、市民革命を成し遂げるのに多くの手枷足枷(キリスト教会の支配・支配者階級の圧制など)を振りほどく必要があった。日本には振りほどくべき抑圧がなく、商業・工業・教育・市場などのインフラが既にあったため、西欧が何百年もかけて成し遂げた成果を数十年で吸収できた。

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●貧しく野蛮な西洋

・当時、オリエントとの貿易はアラブ商人を通じて行っていたが、東洋からの香辛料・工芸品・絹などに対して、肥沃な土地が少なく産物に恵まれない西洋には交換すべき商品がなかった。それでもアジアの産物を求める西ヨーロッパ人は、スラブ人を捉えて商品として売った。これがスレイブ(奴隷)の語源になった。

・陸路のアラブ商人を中抜きし、直接アジアに進出するために西欧列強の大航海は始まった。探検や知識への情熱とか、文化の普及のためと言うのは全て美しいお伽話で、実態は欲得のため。
(中国人の鄭和も遠くアフリカまで大航海をしているが、豊かだった中国には交易も植民地も必要なく引き返している。探検や知識への情熱というなら彼の行動のほうがふさわしい。)

・アジアとの直接交易が始まっても、西洋に魅力的な商品はなく貿易は赤字。すると武力で制圧して相手国の産業を破壊し、本国への原料供給地に変えてしまう。挙句の果てに大英帝国は、インドで作ったアヘンを中国に密貿易して黒字化し(麻薬取引を国家ぐるみでやっているのである)中国がこれに抗議すると武力でねじふせた(アヘン戦争)。
この際には、マスコミを上手く使って世論を形成し、自分達に戦争の大義があるかのように操作していった。(現代と同じである)
この様子を最も注視していたのが江戸幕府であり、当然、開国には慎重であった。

・日本が開国したとき、金と銀の交換比率は国内1対5に対し、世界標準では1対15である事を幕府は知らなかった。これなら、日本に銀を持ち込めば通常の3倍の金が手に入り、それを持ち出して銀に換え、また日本に持ち込めばさらに3倍になる。
たちまち「ゴールドラッシュ」が起こり、世界中からロクデナシが殺到して日本中で殺傷沙汰を起こしたが、治外法権により幕府は取り締まることができなかった。日本の冨はあっというまに流出し、幕府は成す術もなく機能不全に陥り、庶民の暮らしは困窮に見舞われた。

・日本では労働力が過剰なため、多くの人が仕事を分け合い複雑で階層の多い流通機構ができた。関税権を持たない不平等条約の下で開国し外国製品が流れ込んでくると、関税をかけられない代わりに流通機構の中で調節して抵抗した。

・外国は居留地に駐屯軍を置き、盛んに演習をして軍事力を見せ付けた。大名行列を妨害した騎馬の英国人を薩摩藩士が切り捨てる生麦事件が起こると、幕府は英国に賠償金10万ポンドを払ったが、さらに英国は鹿児島湾に艦隊を派遣し薩英戦争を起こして鹿児島は焼け野原になった。

・西欧が日本に与えた教訓とは「強くなければならない」であった。ある民族を、長期間継続して辱めると国家主義に走って危険な存在になる。(現代でも同じである)
維新後、日本は富国強兵に邁進する。天皇は中世以来、武器を持たない象徴的存在であったのに、軍服を着て騎乗する勇ましい姿に祭り上げられてしまい、やがて昭和に突入してゆく。

・日本が太平洋戦争に敗れると、こともあろうに西欧から「野蛮な行いを恥じて今後は武器を捨てたまえ」と説教をされた。
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日本人は、世界の中で自分の考えを相手に判るように説明し、異なる意見と冷静に議論するのが今でも苦手です。あうんの呼吸で分かり合える国内と違い、時には強引な自己主張や自己弁護を用いて相手を言いくるめる国際社会では、いつも立ち遅れているように見えます。
しかし、不可避なグローバル化の中で、言論・思想・世論形成による戦いは、今後ますます際立って重要になるでしょう。

本書は、長く海外に暮らして日本の立場を言論によって防衛してきた著者の労作であると同時に、日本人に自信を持ってもらいたくて翻訳されたそうです。これからの時代を生きる日本人に、ぜひ一読をお願いしたい一冊です。

長い鎖国時代に作り出した、エコロジカルで譲り合いの精神が行き渡った日本社会は、これから人口100億にならんとする地球にとって貴重なモデルになるはずです。これからは、全ての国が、限られたスペースと資源の中で生きてゆかなくてはならないのですから。

強烈に推奨!読むべし!!




posted by 武道JAPAN at 18:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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