2009年07月04日

日本人を動かす原理 日本的革命の哲学 山本七平

日本には大きな政治体制の転換が3度あった。

1度目は鎌倉幕府成立〜承久の乱(政治の実権が天皇・朝廷から幕府へ)
2度目は大政奉還と明治維新(幕府消滅、天皇が国家元首に)
3度目は第2次大戦終結後(天皇の人間宣言→政府へ)

本書では、1度目の体制転換となった「承久の乱(1221年)」で幕府軍を率いた北条泰時が、乱の後に制定した幕府の新しい基本法典である「御成敗式目」(貞永式目)51箇条の研究を基に、日本人の社会意識・秩序意識がどのように出来上がってきたのかを見ていく・・というアプローチを取っています。以下メモ。

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・当時、公家には「律令」法があったが、日本的自然秩序を無視して中国から輸入した為に機能しなくなっていた。

・「御成敗式目(ごせいばいしきもく)」は、律令や明治憲法、現在の日本国憲法のような継受法(外国からの輸入、モノマネ)ではなく、日本人が自前で制定した初の国内法であり、鎌倉幕府滅亡後においても、江戸幕府が武家諸法度を制定するまで武士の基本法として機能し続けた。

・元禄時代には挿絵入りの本が出版されたり寺子屋で習字の手本となるなど教養書として一般にも浸透し、一部では明治に入ってからも素読のテキストに使われたらしい。

・明治5年以降、徐々に消えていくまで実に六百数十年の間、日本人の「秩序意識」の基本を形作ってきたといえる。
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■御成敗式目の要諦
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・自然的秩序(ナチュラルオーダー)絶対
今すでにある秩序をそのまま認める。人々がごく自然に当然と感じるあり方、行き方を肯定する。法が先にあって人間の自然な感覚を拘束するような用い方をしない。

・実効権利優先
土地の所有は、由緒よりも実効的にその場所を支配している者の権利を認める。

・能力主義
財産の相続は均等割りでなく能力や責任に応じて任意に配分してよい。

・女性の権利を認めている
妻にも相続権があり、未亡人が養子を貰って相続させても良い。これは、中国や韓国、アラブ諸国では考えられないことらしい。イスラム圏、儒教圏では一夫多妻が原則であった為か?近代化に成功した国は一夫一婦制を基本とする。

・宗教にはノータッチ
それは個人に属する事柄。式目は世俗法であり、人の行為は規制するが内心には関与しない。他国に見られるような「宗教=法」では全く無い。

・残虐な刑罰がない
棒で打ったり、身体の一部を切断したり、手枷や足枷で拘束するといった残酷な刑罰を廃止している。死刑も実質的には廃止。ただし、賭博を非常に厳格に禁じており、これに違反した者は指を切られる。ヤクザの指詰めはここから来たものらしい。

・物証主義
拷問によって自白を強要し、沙汰が決まった・・等というような事はなく、裁判はひとえに証拠主義。

・仇討ち禁止
昔は仇討ちが公認されていたような印象だが、禁止されている。罪は法で裁いてそこまで。
また、罪を犯した者の縁座(親類縁者が責任を取らされる事)も原則禁止している。

・人身売買禁止
日本には奴隷制度があったのか?もちろん、非合法の人身売買は近代になっても存在したが、政府公認の公開奴隷市場や制度というものはなかったらしい。
ただし、飢饉によって止むを得ず売られ「奴隷的身分」になる事はあり、この場合は「食えずに死ぬよりは生存権のほうが優先」と黙認された。その場合でも、売った人間は買い戻す事ができるし、買ったほうも転売してはならず、奴隷的身分になった人間の子孫が「奴隷階級」になる事はなかった。
ちなみに、ロシアの農奴解放宣言1861年/米国の奴隷解放宣言1863年、つまりそれまでは奴隷が居た。「式目」と同時代(14世紀頃)のヨーロッパでは奴隷は重要な貿易商品だった。
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「御成敗式目」は武家の法である。

「武家」とは元々は、法や警察が整備されていない時代に地主と小作人が自らの生存を守る為に作った地域の自警団。それが発展して階級となり実質的な政治の中心となった。

したがって日本社会の隅々に武家法・軍法的な「集団的組織的行動」が根付いており、軍隊的(軍国的ではない)秩序、例えば「タテ社会」のような日本的秩序・生き方に現れている。

「軍隊的秩序」とは「功績が地位に転化する」世界であり、功績を上げれば地位が向上する、というダイナミックさを持っている。

しかし日本社会の制度自体は、伝統的文化的権威(天皇)を中心としてスタティック(固定的)に保持されている。(戦国末期に日本を訪れたキリシタン宣教師は、分国大名を独立国の王と見たが、大名自らは独立国たる意識はなく、あくまで日本統合の象徴たるは天皇と見てこれを尊崇していた)

つまり日本社会は、天皇制を中心とした「安定した制度」と、その制度の中では「努力次第で出世可能」なダイナミックさを備えていた。
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・・・と、まことに面白い「日本人論」「日本社会の成り立ち」を見せてくれます。

鎌倉時代の日本が、現代にも通じる能力主義や人権尊重の考え方を既に「自前の法」として持っていた事に驚きますし、反対に人身売買を禁止しながらも非常の際には度を越さない範囲で「大目に見る」という「法絶対ではなく人間優先」のセンスも感覚として判ります。

現代日本は、戦前までの歴史と関わりなく戦後にイチから新しくできた・・のではない。「象徴天皇制」という仕組みも13世紀以降の伝統だった訳です。

近年では「天皇制を中心とした安定した社会制度」も少々揺らいでいるようです。
日本の皇室は、世界に現存する28の王室の中で最も長い歴史を誇ります(2位はデンマーク王室)。一部週刊誌やワイドショーに見られるような芸能人扱いは厳に慎むべきでしょうし、国民も皇室の価値を正しく認識すべきと思います。

また、「功績をあげれば出世するダイナミックさ」も、少々翳ってきたようで気になります。格差が固定化し「頑張っても無駄」という気分が蔓延するような社会を作ってはなりません。少なくとも、格差が原因で十分な教育の機会を与えられないような子供を作っては、絶対になりません。

「温故知新」・・古きを訪ねて新しきを知る為にも、時にはこのような本を読む価値があるでしょう。





posted by 武道JAPAN at 19:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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