2009年05月31日

世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む 小谷賢 編著

米、英、独、仏、露、イスラエル、そして日本のインテリジェンス・コミュニティ(情報機関)について詳細に論じた本。上記7ヶ国について、7人の専門家が共同で執筆している。

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●米国

CIAをはじめ16もの情報機関を持ち、職員数は10万人、総予算は400〜600億ドル(公開されていないため推定)。
これだけの規模を持ちながらも、本書では総じて米国の諜報能力は低く、英国やイスラエル、ロシアや中国にまで劣るとしている。その理由は以下の通り。

・社会的にインテリジェンスを汚いものと見て蔑視する傾向
・1941年に第2次大戦参戦のため急ごしらえで作ったという後発性
・その後の野放図な機関の設置と抜本的なデザインの刷新を怠ってきた事

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●英国

早くから情報機関が存在し、近代化に合わせて発達した。また、各情報機関同士や、政策サイドと情報サイド間に、信頼関係と協力体制があり、規模の割りに非常に高い成果を出してきた。その理由は以下。

・歴史的に、国難に対して一致協力してきた国民の記憶が共有されている
・情報は「紳士のホビー」と呼ばれ、社会的地位が高い
・「政権より王冠に忠実」と言われる中立的な官僚機構が、政変に関わらず長期的な国家戦略を維持している

もっとも、近年は政策決定が官邸主導型となり、情報の成果がうまく活用されていないようである。

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●日本

「日本版CIA」と称される内閣情報調査室は、内閣衛星情報センターの300名を加えても500名ほどの人員しか居ない。

敗戦で壊滅した情報機関は、共産主義への警戒を伴って復活した為、対外諜報(ヒューミント)よりも内諜機能に主が置かれた。

内閣情報室・外務省・防衛省・自衛隊・警察・公安などが個別にインテリジェンス活動を行っており、全体では相当量の情報を生み出しているが、各機関の情報共有体制や、情報を統合して国家の意思決定に役立たせる機能が不十分。

日本にインテリジェンス・コミュニティが確立されない理由は以下の通り。

・省庁の割拠性が強く、政府全体の中長期ビジョンを持った戦略が描けない
・長らく対外インテリジェンスの強い必要性がなかった
・インテリジェンスをタブー視する文化が根強い(戦前の特高警察や憲兵の乱用)

とはいえ、上海総領事館員自殺事件や、不安定化する東アジア情勢を背景に近年では国家の知性たるインテリジェンスの必要性が認識され始めている。

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●その他に

ロシア/ 優秀な対外情報機関であると同時に、政権を維持する為の「統治機構」である。

イスラエル/ 総人口700万に対し情報機関員は12000〜15000人。情報に国家存亡を賭けている。

など
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米国がインテリジェンス後進国であるという論は意外な気もしますが、本書ではそのように分析されています。ただ、近年有名になった「エシュロン」等についても簡単に触れているだけなので、この世界の事は専門家でも確定的な分析は困難なのでは?と思います。

いずれにしろ、国益の追求がぶつかり合う国際政治の舞台では「国家の知性」・・情報を収集し、分析し、国家の意思決定に重要な判断基準を与え、かつ機密情報を漏らさない仕組み・・が、明暗を分ける事は間違いありません。
国民も、世界有数の国力にふさわしい「国家の知性」を、政府に対して真剣に要望すべきでしょう。

中国や韓国など、我々の身近な国については「時期尚早」との事で項がないのが残念ですが、各国の情報機関が発達してきた背景や、図解で示した具体的な組織構造・人員・予算・意思決定組織などについて解説されている資料的価値の高い一冊です。






posted by 武道JAPAN at 15:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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