2009年04月25日

「三つの帝国」の時代―アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか パラグ・カンナ

訳者のあとがきに「国際政治版80日間世界一周」とあって、これが本書をうまく説明している。
著者のパラグ・カンナ氏は、米国のシンクタンク「新アメリカ財団」の上級研究員であり、外交官の祖父とビジネスマンの父を持ち、UAE、米国、ドイツで育ったインド人という特殊な経歴の持ち主だ。その経歴のせいか、あるいは100ヶ国近くを実地に訪れ、本書執筆のために再び2年をかけて世界各地を見て歩いた成果か、世界の主要地域で「いま何がおきているのか」の情報を、新聞やTVからでは知りえないレベルでレポートしてくれる。

GDPも軍事力も世界最強の超大国アメリカが徐々に覇権を失い、世界が多極化を始めたのは衆目の一致するところであろうが、カンナ氏は今後の世界で「三つの地域帝国−アメリカ・EU・中国」が拮抗すると予言する。

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アメリカは「裏庭」である中南米諸国との関係を、これまでのような支配−服従から転換し、ラテンアメリカ諸国のプライドを満たしつつ対等のパートナーへと改善すれば、食料・エネルギー・資源の南北アメリカ自給自足貿易圏を構築できるであろう。南米には、ベネズエラのような産油国もあれば、ブラジルのような食料大国もある。
(最近のニュースによると、オバマ大統領は、ブッシュを「悪魔」とまで呼んだベネズエラのチャベス大統領に好意的に受け入れられているようである)

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EUは、東方への拡大を粘り強く推進し、統一ヨーロッパ帝国を作るであろう。無論、多くの困難が予測され、拡大の意思は、あるいは挫折するかもしれないが、現在のところ、これまで歴史上に現れたどんな帝国よりもEUはうまくやっており、加盟を望む国も多く、新参の加盟国に近隣の国々が「クラスメート」のように振舞い方を指導するという好ましい動きも見られる。
また、南米が米国の裏庭であるように、地中海沿岸の北アフリカ諸国は「EUの南海岸」と化しており、石油やガスが地中海を縦断するパイプラインによって運ばれている。

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中国は、中央アジアを含む全アジアにネットワークを張り巡らし、中東やアフリカ・南米にまで資源を求めて手を伸ばしている。日本・インド・オーストラリアの三角形に入る地域で中国の侵食に持ちこたえられる国はないであろう。ミャンマーなどは、すでに中国の一地方と化し、一部の中国人から「南雲南省」と呼ばれている。

経済は開放的だが政治はベールに隠されており、2050年まで民主化はない。この方式は民主主義を至上のものとは考えないアジアでは概ね受け入れられている。

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日本と中国は、しばしば永遠の敵対関係と見られがちだが実際にはアジアの政治経済にとって車の両輪である。二国の間には、次第に新しい力学が頭をもたげ始めている。

日本は、ハイテクを駆使した海軍とミサイル防衛計画を持ち、国家予算に占める防衛費が非常に小さいにも関わらず、大国の中でもっともへりくだったこの国の安全保障を十分に満たしている。(もっとも、民族主義者の中には、米国や中国との軍事力不均衡を心配する声が出ている)

日本は、世界を視野に入れた明確な国家戦略を持たないため超大国には分類されない。中国に一歩譲ったポジションで満足しなくてはならないだろう。

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BRICSのうち、ロシア・インドに関しては厳しい見方である。

ロシアは、豊かな資源を元に外貨準備を積み上げたものの、資源以外の産業は育たず経済規模は小さい。腐敗の横行や、広大な領土と減り続ける人口のアンバランスは、かつてチャーチルが「謎に包まれた謎で、中身も謎だ」と呼んだ頃と同じく難問のままである。

インドは、一部の成功者を除けば未だに10億人以上が貧困の中にある第3世界で、大きな国だが重要な国ではない。経済の発展も増え続ける人口で帳消しにされてしまい、今後数十年は貧しい大国のままであろう。中国は民主主義ではないが統一されており、インドは民主主義であっても国内は混乱し、貧困のため何も自由にならない。台頭するとしても中国の仕切るルールに乗って、という事になる。

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その他にも、中東や東欧、ラテンアメリカなど、我々にとって遠くて情報の少ない地域についても詳細に解説されており、現時点の政治経済世界地図をざっと頭に入れるのに大変有意義な一冊。新たな認識に目を開かせられる部分もたくさんある。例えば、

・我々日本人はアフリカ大陸を地図で見ると、そこがアフリカという「ひとまとまり」の地域に見えるが、実際にはアラブ人が住むサハラ砂漠以北の「北アフリカ」は、地中海を取り巻くヨーロッパの裏庭であり、中・南部アフリカとは別物・・とか

・イスラム文化圏はアラブ世界を包含して、西アフリカからアジアまで広がっているが、マレーシアやインドネシアなど「アジアのイスラム」は、中東の「アラブのイスラム」とは性格が大きく違う・・などなど。。

400ページを超え、内容ぎっしりの本にしては、訳も上手で歯切れよく読みやすい良書。読むべし!




posted by 武道JAPAN at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Weblog: 本読みの記録
Tracked: 2009-08-09 21:29
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