本の雑誌ノンジャンルベストテン2007年第一位
第一次世界大戦(&ロシア革命頃)のウクライナ地方で裕福な農園主の息子だった少年が、やがて始まる戦争と革命の渦に巻き込まれて生きてゆく世界を描く。
・・と書けば何となく判った気になるけど、実際に本を開くとそうはいかない。
物語は主人公目線の一人称で始まり、客観的・説明的な視点は一切与えられない。よって、読者も主人公も、先が見通せずコントロールもできずに変貌してゆく時代を、地面の上を右往左往しながら、目の前に出現する世界をとにかく必死に生き延びて行くしかない・・という展開に放り込まれる。
第一次大戦&ロシア革命時のウクライナ地方は、ドイツ軍&オーストリア軍&赤軍&白軍に加えて地域の小勢力が入り乱れ、誰が勝つのか正しいのか、なーんにも判らない情勢。正義も、道義も、いわんや民主主義も人権もクソもない世界で、主人公ヴァーシャは暴力で女を犯し、悪びれもなく人を殺し、奪い、盗み、裏切る。現代の我々が常識と考えているような秩序は無い。呪いによって人と牛の間に生まれ、迷宮に閉じ込められた凶暴な怪物「ミノタウロス」というタイトルは、この世界を生きるニンゲン達をうまく表現している。
ニンゲンってなんなんだろうなこんな時代こんな状況に放り込まれたら「ただ生き延びる」ために単純になってふだん「らしく」身につけた気になっている文明なんぞすぐにハゲ落ちてしまうのだろうななどと頭の後ろのほうで考えつつ物語の終末まで突き進んで壁に激突したようにオシマイになる。
堂々と「文学作品」です。外国の古典の翻訳みたいだけど、現代の日本人作家が書いたのです。スゴイ!