未来の大戦により英国から疎開する少年たちの乗った飛行機が墜落し、大人のいない世界での無人島生活が始まる。といっても「十五少年漂流記」のような勇気と希望に満ちた物語ではない。
最初のうちこそ、少年たちには秩序や目的があったものの、幼年から10代前半の幼い集団は次第に統率が取れなくなり、比較的年長のグループも遊んでばかりいて役に立たない年少者の面倒を見るのに倦み疲れ、対立する。
やがて集団は、正体の見えない獣(の幻)におびえ、狂気と怠惰に支配され、得体の知れない情動のまま暴力に駆り立てられ仲間を殺害してしまう。最後には対立の激化から「人間狩り」が始まる。
人間存在の、きれいごとで語りきれない側面をじっくり描き、徐々に狂気に滑り落ちていくストーリーには無理がなく、説得力がある。
ちなみに「蝿の王」は悪魔ベルゼブブの事であるが、作中では少年たちの一団が狩った野生の豚の、無数の蝿がたかった生首の事。
文明という環境から切り離され、既存の秩序や目的という「外から与えられる枠組み」を取り外してしまった人間は、ぐずぐずと崩れて「人ならぬもの」に変貌してしまうのか?では「人」とは何か?
・・・そんなテーマを、蝿で覆われた豚の首が象徴的に表しているようで戦慄させる。読み応え十分の一冊。