2017年08月31日

閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 水野和夫

長い時間軸の視点を与えてくれる本。
著者は、経済学博士、法政大学教授。仙谷由人の経済ブレーンとして、民主党政権下で内閣官房審議官などを務めたとのこと。経済・金融を歴史的な視野から論じています。

この本では、800年前から始まった資本主義と、500年前から始まり国民国家のベースとなった近代システムが歴史的終焉を迎えていると説きます。
英国のEU離脱やトランプ大統領誕生など、グローバリゼーションに対する「No」の声は、資本主義の末期症状の発露であり歴史的な大変化の現れであるが、国民国家を再強化し回帰する方法ではこの変化に対処できず21世紀の新しい社会システムを模索すべきと論じます。以下メモ。

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●資本主義の始まりと終焉

資本主義は、コペルニクスらによる世界観の転換を決起として始まった。
それまでの中世的な宇宙(コスモス)において、地球は特別な(不動の)場所であり、神の掌る世界として有限に閉じられていた。科学的な発見により、地球は惑星の一つに過ぎず、宇宙は無限に開かれた空間であることが認識されると人々の宇宙観、世界観が変化した。

閉じられた宇宙での定常状態から、広がる世界の開拓へと意識が変化し、これが無限の拡大を求める資本主義と結びついて近代が始まった。近代主権国家・国民国家システムは、一部支配者の満足ではなく広く国民のニーズを満たす必要がある。以前なら王侯貴族にしかできなかった豊かな生活が国民に行き渡ってゆく近代の資本主義と国民国家システムはうまく結婚し、足並みをそろえて機能した。

しかし、資本は永遠の拡大と冨の蒐集を欲し、中心に対する周辺(利潤を齎してくれるフロンティア)を必要とする。大航海時代の植民地からサイバー空間まで、あらゆるフロンティアを開拓し尽くし、さらに冨の蒐集を求める資本は、いまや国家を従えて国民と離婚した。かつて先進国が後進国(の資源)を搾取していた構造は、国・地域に関わらず資本側vs搾取される一般国民という構図に変化した。大企業や支配層のみが潤って一般市民に分配がなされず、上位1%に冨が集中する現象は、資本主義の末期状態である。

このままでは民主主義も崩壊し、国民の生命・財産・安全を守るべき社会の基盤が維持できない。

●21世紀に残るのは閉じた帝国

低成長、ゼロ金利は資本の拡大が限界に達したシグナルである。限界まで拡大した世界は、収縮するしかない。ポスト近代のモデルは「新中世」というべき閉じた帝国が有効ではないか?

ヨーロッパでは独主導でポスト近代モデルとしてのEUという実験が行われている。
露も、ユーラシア同盟を構想し、中国は一帯一路やAIIBで新シルクロードを囲い込もうとしている。20世紀は大航海時代に象徴される「海の帝国」が覇権を握った(蘭→英→米)が、21世紀には、これら「陸の帝国」の巻き返しが起こる。歴史は常に海と陸との攻防の連続である。

対して米は、金融資本帝国を築き、イノベーション、フロンティアの拡張による近代システムの延命を図っている。日本はそれに追従し、捨て駒に使われそうになっている。

歴史的な大変化にあたって、最もしてはならないのは現状の維持・強化である。

●日本の取るべき進路

21世紀には、閉じた地域帝国が生き残る。定常状態・成長しない経済を目指し、近代システムとゆっくり決別し、新しい社会モデルを構想するべき。

どこの国と帝国を創るかは重要な課題。国民国家を強化し、単独で閉じこもってはダメだが、まだ近代化を始めたばかりの中国ではポスト近代を模索するパートナーにはならない。今後起きてくる、あらゆる可能性に対処できるよう態勢を整え、試み続けるしかない。

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と、非常に大きな視点で世界の趨勢を描き出しています。なかなかここまで大きな視座に出会うことは少なく、目の開かれる思いでした。

世界的なテロの蔓延や、グローバリズムに対する抗議行動、ゼロ金利やマイナス金利などの異常事態(の常態化)など、一個人の肌感覚としても「おかしい」と思える現象は、これほど超長期の歴史的転換点のうねりが表出したものだった・・と考えればすべて整合するように思われます。そもそも永遠に拡大し続けることを宿命付けられた資本主義というシステム自体、自然の法則を無視した胡散臭さを感じます。

果たして我々は新しい21世紀の社会モデルを構想できるでしょうか?
世界観を基にしたコンセプトメーキングの下手くそな日本人には荷が重い気がしますが、太平のゼロ成長・循環型社会であった江戸時代というモデルがヒントになるのかもしれません。

読むべし!



posted by 武道JAPAN at 17:10 | Comment(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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