2012年04月25日

プーチン最後の聖戦 北野幸伯

著者の北野さんはモスクワ在住。
卒業生の半数は外交官に、残りはKGBに行くと言われたモスクワ国際関係大学(MGIMO)を日本人として初めて卒業。驚くべき洞察力で国際情勢を鋭く、しかも判りやすく分析してみせる殿堂入りメルマガ「ロシア政経ジャーナル」の発行人でもある。

彼の著作(本書で4冊目+電子書籍1冊)はすべて読んでいますが、ややこしい世界情勢を実にスッキリと判りやすく、キレイゴト抜きで的確に描き出してくれます。

本書のタイトルには「プーチン」が掲げられていますが、彼を中心にしたロシア(およびかつてのソビエト圏)の政治状況はむろんの事、世界全体の国際情勢が見事に俯瞰されています。これまでに起こった事が証拠つきで明示され、今後の世界で何が起こるかもハッキリと書かれています。
経営や投資に携わる人はもちろん、ひとりでも多くの日本人に読んで欲しい一冊です。なぜなら、次のような地殻変動には、すべての人が巻き込まれるからです。

●いままで

・日本はアメリカの天領
・世界では国家間の絶え間ない闘争
・しかし天領ニッポンはアメリカの庇護の下で何も知らず平和ボケ

●今後10年程度のうちに

・米中二国の覇権争いが進む
・じょじょにアメリカは没落し、世界の覇権国から地域の一大国へ
・日本はアメリカの庇護を失い、強大化した中国と自ら対峙!?

日本を取り巻く環境がなぜ上記のように変化するかは本書を読めばわかります。本当にそうなるのかは、読んだ後で自分でも考えてみてください。ただ断言できるのは、このような変化が「来るか、来ないか」の議論は無効で、「来た場合」を考えて備える必要があるという事です。それが安全保障というものであって、「想定外でした」ではすみません。
個人的には、アメリカが21世紀の成長センターであるアジア地域への関与を手放して南北アメリカ大陸経済圏に隠遁する・・という状況は近未来にはありえないだろうと思いますが、日本に軍事的な庇護を与え続け(られ)るかはまた別の話です。

ほとんどの日本人は、自分たちの乗っているタイタニック号がどこを目指しているのか、どういう理屈で時々航路を変えているのか、外では何が起こっているのか、進んでいく先に何が待ち構えているのか・・を、よく知らない3等船客のように見えます。アメリカが「自由と民主主義のため」と言えば、素直に「そうだよね〜」と信じてイラク戦争を支持してしまう。そんなキレイゴトに騙されるのは日本人だけで、美辞麗句の裏で自国の国益のみを追求するアメリカを、世界の国々はなんとか引きずりおろそうと画策してきました。その経緯も、本書に詳しく書かれています。知らない人には驚天動地の事実でしょう。
日本人がこういった事情に疎いのは、けして知性がないからではなく、上記のように日本がアメリカの天領であり、英米は支配下においた国の面倒見はわりといいほうなので、難しい国際情勢をアメリカ任せにして経済だけやっていればよかった・・というシアワセな時代が長く続いたからです。以前のエントリーにも書きましたが、どこかの国の家来でいるなら、まあアメリカが一番マシで、しかしもう、その時代が終わりつつあるという事です。

これからもアメリカは世界の最強国のひとつでありつづけるでしょうし、日本にとって最も重要な国のひとつでしょう。また、アメリカ後の世界は中国の天下になるのか・・といえば、これはそう単純ではありません。そのあたりも、本書から読み取って頂きたいところです。ただいずれにしろ、私たち日本人には過去数十年とはレベルの違う国際情勢に対するシャープな感覚と、多極化した世界を生き抜いてゆく知恵が求められます。

目覚めよ!既に我々は変化の中にある。


読むべし!!





posted by 武道JAPAN at 16:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月22日

銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 ジャレド・ダイアモンド

壮大な規模で人類史の謎を解いてゆく書。

なぜ世界には持てる国と持たざる国があるのか? なぜヨーロッパ人がアメリカ大陸(のインカ帝国など)を滅ぼし、その逆は起こらなかったのか? といった、非常に根源的な人類史の問いに答を出してゆきます。
根源的な回答を先にバラしてしまうと、ヨーロッパ(を含むユーラシア大陸)が東西に長かったから、です。なんのことでしょう??

むろん、直接的なヨーロッパ人の強さの秘密は、

・銃という圧倒的な火力
・鎧兜や剣といった鉄器
・馬を飼いならしたこと(白兵戦における騎馬は圧倒的な戦力差になる)
・海を越えて侵攻できる船と航海術
・それらを可能にする集権的な政治社会機構
・情報伝達を可能にした文字の発明

に求められるわけですが、本書では、それらを可能にした更なる根本原因を掘り下げてゆきます。
人類には優秀な民族とそうでないものが居る、という迷信を切り捨て、寒冷地における生存の困難さが各種の技術を発展させたという俗説も否定します。キーワードは、食糧生産を可能にする環境要因です。 以下少しだけメモ。

・・・

ポリネシアにおいて同じ民族が異なる環境の島に移り住んだ後に別種の社会を発展させ、最終的に一方が他方を征服し滅ぼしてしまった例がある。
一方は農耕に適した条件が整っていたため多くの人口を養うことができ、結果として食糧生産に携わらない余剰人員(工芸品を生み出す技術者や軍人)を持つことが可能となった。規模の大きくなった社会においては、集権的な政治機構も発達し統率のとれた征服行動も可能になった。しかし他方は、農耕不能な島に住んだため小集団での狩猟採取生活から抜け出せなかった。
集団がどのような社会を構成し、どのような発達段階を踏むかは環境による部分が大きい。

特に、栽培できる植物や飼育できる動物を入手できたかどうかが運命を分けた。
例えば現在世界中で栽培されている野菜の原種は主にユーラシア大陸に存在する。アフリカ大陸やアメリカ大陸には有望な原種が少ない。
動物も同様で、アフリカには多くの動物がいるが、家畜に適した種は少ない。例えばウマは飼いならせるがシマウマは人間に順応しない。アメリカ大陸で家畜化できたのはラマやアルパカくらい。牛・馬・豚・鶏・羊・ロバ・ラクダなど主要な家畜はほとんどすべてユーラシア産。

●食べられる作物の栽培が成功すると
狩猟採集に比して同一面積辺りの収穫量が増大し→食糧増産→食糧貯蔵→定住生活→子供が増える(遊牧民の移動生活では連れて歩ける乳児は一人だけ)→人口増加→複雑な政治機構を持つ社会の発達(狩猟採集民の社会は全員がほとんどの時間を食料採集にあてるため比較的平等で小規模な社会。高度な政治機構を持つに至らない)→余剰人員の確保(王族・官僚・職業軍人・宗教戦争に正当性を与える僧侶・武器を生み出す職人・情報を蓄積する書記など)
→文字の発達
独自に文字を発明した地域は数少ない。当初は、限られた人間(宮廷にいる書記など)だけが使った。そのような「直接に食料生産に携わらない人間」を養えるだけの社会規模があることが、文字を所有する条件。
文字を所有すれば情報が伝達できる。情報の差は社会集団の能力差につながる。

●家畜の保有が成功すると
→繊維や毛皮を得る→暖を取れる・綱や網を作れる・動物の骨や皮で道具ができる
→輸送能力が激増(馬・ロバ・ラクダ・犬ぞりなど)
また、馬は第一次大戦前まで長らく最強の軍事手段だった。
→継続的な乳や卵の採取ができ、家畜による耕作地の増大が可能となり、これも食糧増産につながる

→病原菌の保有(家畜がくれた病原菌という兵器)
多くの疫病は人間と動物の間を行き来することで変異し、強力な菌になる。家畜から人間にうつった病原菌は最初は甚大な被害をもたらすが、やがて免疫ができる。免疫のある集団がない集団と接触した場合、ひどい場合には後者の99%が死んでいる。
例えば、スペイン人がアメリカ大陸に持ち込んだ疫病がインカ帝国を滅ぼした。ユーラシア大陸には家畜化できる動物種が多く、アメリカ大陸にはほとんどなかった。この差が病原菌と免疫に対する差を生んだ。

●大陸が南北に長かったか東西に長かったか
南北に長い大陸(アメリカ・アフリカ大陸)では、北と南で気候条件が変わるため、作物や家畜化できる動物の伝播が制限される。(特に南北アメリカ大陸は中間地点で狭まっており急峻な山岳や密林地帯によって北米と南米大陸は隔てられている)
ユーラシア大陸だけが東西に長く、有望な作物が横に広がって行けた。これが、人類集団の運命を分けた最も根源的な要因。

数千年前に特定の条件が整って食料生産を始めることができ、その結果、多くの人口を養って複雑な社会機構を持つことができた民族(や、その子孫)が現代においても世界で支配的な地位を占めている。今後も、アフリカのサハラ以南や北米先住民の子孫がこのレースを逆転することはほぼ考えられない。
・・・

すう〜ごく 読みごたえがあって面白いです。
新しい技術を独自に開発できる社会は限られており、多くの社会はそれを参考にしてまねたり取り入れたりするが、それができない社会は他の社会に滅ぼされるか取って代わられてしまう・・という人類史の教訓は今も生きていると感じます。
ただ、上下巻750ページはちょっと長いかな?途中、概ね重複する部分もあるので、要約版があっても良いかと思います。しかし、読む価値という点では圧倒的に「あり!」です。世界と人類の成り立ちを俯瞰する、巨視的な目線を獲得できる一冊です。

読むべし!



posted by 武道JAPAN at 10:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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