2012年01月29日

ワイルド・ソウル 垣根 涼介

第六回大藪春彦賞・第二十五回吉川英治文学新人賞・第五十七回日本推理作家協会賞の三冠同時受賞作品。

小説のエントリーが続いて恐縮ではありますが、やはり面白い本は紹介しないと勿体ない。

信用できる人からの推薦があって購入。最近は人のオススメを素直に聞くという態度が出来てきて、おかげで良い本に会える機会が増えている。ニンゲン、素直が大事だね。

で、今度はこうしてブログで紹介するわけですが、予定のない連休の前、とかに読み始めるのをお奨めしたい。なぜか?想像がつくと思うけど、途中でやめられなくなるからです。

この国には昔から性根の腐った部分があります。国民の命を守らず、むしろゴミのように無駄遣いして捨てる。最たる例が「特攻」であり、最近では原発事故における政府・官僚の不作為でしょう。SPEEDIのデータを公開しなかったために、どれほどの市民が無用な被爆をしたのだろう。

元外交官の佐藤優氏が喝破するところによれば、こういうことです。
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明治憲法以来、官僚は政府ではなく天皇に忠誠を誓う組織であったが、敗戦後、天皇は権力中枢から降りてしまった。その後、官僚機構は漠然と「日本国」のために働き、彼らが集合意識的に志向する「正義」によって動いている。
官僚達にとっての「正義」とは、日本国&エリートとしての自分達であり、国民などは有象無象・・何も考えず手足として黙って働いて税を収め、国家の都合によっては簡単に打ち捨ててよい存在・・でしかない。(「小沢革命政権で日本を救え」より管理人が要約)
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本書は、日本政府・外務省が行った戦後最悪の「棄民政策」を追って始まる。

「ブラジルでは家付きの農地が支給され、努力次第で必ず成功できる。」政府の口車に騙され、親戚から借りたなけなしの金で船に乗った貧しい移民たち。だが彼らは移民ではなく、口減らしのための棄民だった。すべてが嘘だった。故郷に戻る術もない彼らが送り込まれたのは、農地どころか野生のままのジャングルだった。地獄のはじまりだった。

わかりますよね?もうこれ、途中で読むのをやめられないです。

彼らの運命、慟哭、怒り、哀しみ、蕩尽されてゆく命。
文明から隔絶された入植地。そこから徐々に消えてゆく家族。あるものは病に倒れ、あるものは獰猛な自然との格闘に絶望して逃亡する。しかし逃亡した先にも、異国で社会の最底辺を乞食同然に這いずり回る運命しかない・・

しかし、一人の男が細い蜘蛛の糸を辿るようにそこから這い上がり、すべての家族が死に絶えた入植地に戻ったとき、ある運命が待っていた。

後半は、彼ら移民たちが日本政府と「ケリをつける」話に盛り上がってゆきます。入念に準備された日本国、政府・官僚機構との対決・・ますます読むのをやめられないです。

前半の重苦しさを、後半の痛快さがうまく中和しています。主人公ケイの底の抜けた明るさが、物語全体のトーンを救っています。彼に絡んでくる脇役たちも、一人ひとり顔が見えるほど明確な個性があります。

ずばり男性向けです。過激なエロシーンもありますので、大人の方だけ読んで下さい。

読むべし!






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2012年01月22日

本格小説 水村美苗

2002年読売文学賞受賞。

最近はあまり小説を読まない・・と以前のエントリーに書きましたが、それは比率が減っているという意味であって、まったく読まないわけでも興味がないわけでもありません。それに、比率が減った割には「当たり」の確率は高くなっていると感じます。

本書も「当たり」の一冊。いや「大当たり」の一冊です。

著者は、以前UPした「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」(すごい本だった・・)の水村美苗氏。「日本語が・・」は評論だったわけですが、それ以前の著作はすべて小説で、「数年に一度、実に読み応えのある小説を発表する作家」との情報もあったので、試しに読んでみるか!と購入。

いや、試しに・・という気軽な調子には相応しくないかもしれません。なにしろ上下巻1000ページ。装丁も麗々しい。なによりタイトルが「本格小説」です。
このタイトルは冗談でつけるか、でなければ相当の内容が伴っていないとつけられないと思いますが、「日本語が亡びるとき」で知った著者の力量を考えれば、とても冗談とは思えない・・などと思いつつ読み始めたのですが、やはりその日は予定外の夜更かしをする羽目になり、翌日からは10分間だけ電車に乗る間も、昼飯を食う間も、待ち合わせの隙間も惜しんで読みふけりました。

本格的な小説でした。

どうせ読むならこういう本を読んだほうがよい。1000ページが全然長くない、どころか、残りページが少なくなるにつれ、終わるのが惜しくなってくる。著者の、日本語表現力の高さが読みやすさを後押ししています。

恋愛小説でした。

それも一途で、せつなくて、生涯を捧げた、大人の男が読んでも引き込まれる、大恋愛小説でした。

・・・

戦後、まだ日本に「階級」が厳然と残っていた社会で、裕福な家庭に生まれた娘・よう子と、中国から乞食同然に逃げ帰ってきた貧しい家の子・太郎が出会う。

階級があり、生まれつき持てるものと持たざるものの絶望的なまでの落差があり、だからこそ、その落差を攀じ登ろうとする飢餓感があった社会。

太郎はアメリカに渡り、実力で大富豪にのし上がり伝説の男となる。いっぽう、華やかだったよう子の一族は凋落の一途を辿ってゆく。

この二人の、運命や階級を乗り越えようとする大恋愛を核とし、彼らを取り巻く多彩な登場人物たち、その一族の物語を、多重構造の語り手たちが「軽井沢」という舞台を中心に紡いでゆく。

・・・

太郎の子供時代から青年期の運命にハラハラし、世代を経るに従って光と力を失って行くよう子の一族に、明治維新をピークとして小粒化して行くばかりの日本の近代を重ねてイメージし、最後に明かされる物語の主要な語り手である冨美子と太郎の関係にあっ!と驚き納得します。

「日本は軽薄、というより稀薄な国になってしまった」

太郎の言葉に、かつて階級・大家族というものが厳と存在していた重厚な社会が、なんだか拠り所のないフワフワした世界に変わってしまった虚無感を感じます。

自由と平等を無条件に「良きもの」として進んできた戦後日本ですが、フラットな水面が静かで美しくはあっても活力に欠けるように、落差がない社会には流れも勢いも生まれないでしょう。きれいごとを抜きにして言えば、階級というものは現実に存在しますし、悪平等で覆い隠すのではなく、むしろそれが目に見える必要があると思います。大事なのは、階級を固定させないこと、努力や才覚で格差にチャレンジできることであり、それこそが社会のダイナミズムを生む原動力となるはずです。特に、(偏差値エリートではなく)天下国家の行く末を我が事として考えられる、真の意味でのエリート階級が求められます。
見えにくい階級化がひそかに進み、若い世代に「チャンスがない。努力しても報われない」という無言の絶望感が広がるのは最もいけません。

日本に階級があったころを舞台にしてこそ描けた”本格小説”。

堪能してください。

読むべし!



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2012年01月08日

資産フライト 「増税日本」から脱出する方法 山田順

オビが煽った感じで興味をひきます。

「セレブもOLも高齢者も、せっせと預金を海外口座に移している。その驚くべき方法とは?」

いまや富裕層に限らず、資産数億円程度の小金持ちや、一般のOLまでがお金を日本から脱出させている。それは、破綻の近づく日本経済への危機感や、国内に有利な投資先の見当たらない現実を背景とし、サービスの悪い日本の金融機関や金持ちに懲罰的な日本の税制への無言の抗議行動だ・・という趣旨で、資産の「さよならニッポン」現象をレポートしています。

ただし、著者はジャーナリストなので、経済の専門家が著した本のような深みはありません。後半で、日本のガラパゴス状況や金融機関のサービスの悪さを批判し、グローバル資本主義に適応できない愚民化教育を国家が意図的に行っている・・等と糾弾していますが、まあまあそうかもしれませんが、論拠に説得力が足りなかったり、解決策やアイデアが提示されているわけでもなく「これについて我々はもっと考える必要がある」で終わっていたりで、あまり括目すべき点がないのは残念です。
それから、具体的な海外投資の方法を解説した本でもないので、そういう情報が読みたい人は、橘玲さんの著作などのほうが良いでしょう。

やはり面白いのはジャーナリストらしく取材に基づいた部分です。

いきなり第一章「成田発香港便」で、旅行鞄に500万円づつを詰めて香港に現金を運ぶ資産家夫婦に同行します。
空港のセキュリティチェックは、金属や液体は感知するが、手荷物の中に札束が入っていても気にしない。もちろん、100万円以上の現金を持ち出すのは違法ですが、なんなくスルーした二人は、現地に着くと香港上海銀行に直行して現金を預け入れる・・
こうして、この夫婦は、将来の香港在住も視野に入れ、せっせと日本からお金を脱出させています。「日本が元気で心配ないなら、こんなことはしない。日本にいるほうが幸せに決まっているんだから」と。

古くから富豪・大資産家は、海外にも資産を分散することを当然のように行っています。最近ではそれがもっと下層まで一般化しつつある・・というのが本書のレポートです。実際にどの程度までひろがっているのか本書には明確な数値や統計がないため判断できませんが、まあそうだとしても不思議はありません。
ややジャーナリスティックに過ぎる印象はありますが、共感できる部分もありますので以下メモ。

・所得5000万円超の人は全体の0.6%だが納税額では27%。対して年収300万円以下の人たちの納税額は3.1%。富裕層を大切にしないと、国家の税収は立ち行かなくなる。

・単純化して考えれば、日本の借金は国が借り手で国民が貸し手。借りた側が、経費節約も人員(政治家や公務員)削減も、資産売却もせずに、貸し手に対して増税をするというのは筋違い。

・自民党だろうと民主党だろうと、けっきょく政策をつくっているのは財務省であり、増税路線は変わらない。

・政治が混乱し、官僚たちが作る政策で日本が動かされている。改革は骨抜きになり鎖国状態のガラパゴス化が進んでいる。これで良いわけがない。

・資産逃避は政府に対する抗議。日本を愛することと、政府を愛することは別。

・日本人のDNAは、ほんらい海外に飛び出してゆく冒険心を持っているのではないか?戦前も戦後も、世界にチャレンジしつづけてきた。昨今の「内向き」志向のほうが不思議。外からも見ないと健全な愛国心は育たない。

全体的に、少々日本に対する批判ばかりが目立ちますが、まあ何くれと批判するのがジャーナリストの仕事と考えている人も多いので、そのように読んでおけばよいと思います。

ただ、個人的には本書で言われていることの多くがそうかもしれないとしても、それでもまだ相当に、日本は恵まれて住みやすい国だと思います。
願わくば日本から脱出を考えるのではなく、立て直して成長軌道にのせる方策を生み出したい。時間はあまり多くありませんが、大阪での選挙結果や、あいかわらず頑張っている日本企業を見れば、絶望するのは早いと信じています。

読むべし!



posted by 武道JAPAN at 17:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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