2011年12月18日

金融が乗っ取る世界経済 ロナルド・ドーア

著者は知日派として知られる英国の社会学者。
日独vs英米の、社会システム・資本主義の比較研究で有名。ロンドン大学名誉教授、同志社大学名誉文化博士。

本書では、経済の血液としての健全な働きから逸脱した金融業が、ギャンブルとしか言いようのない派生商品を生み出したり、貢献度合いに釣り合わない法外な儲けを強奪した結果、社会をゆがめている実態を批判します。

ほんらい構造が違っていたはずの日本やドイツの資本主義が、英米の「アングロサクソン型」資本主義に席巻されている危険性も指摘します。以下メモ。

・・・

●ステークホルダー論と株主主権論

日本やドイツなどと、英・米を中心とするアングロサクソン諸国の資本主義は同じものではなかった。日・独では企業を「社会の公器」と考え、事業の目的は利益の追求だけでなく社会への貢献をも含むとするいわゆる「ステークホルダー」型が中心だった。

それに対して、英米の「株主主権」型では、会社は株主のものであり、事業の目的は利益の最大化であるとする。米国でも、かつては「ステークホルダー」的な考え方が多かったが、いつしか株主主権論が主流となり、いまやその潮流は他国にも及び、日本も「アングロサクソン化」している。しかしこの考えには多くの欠陥があり社会を歪める。


●金融業の肥大化

現実の国際貿易に利用される為替取引の100倍にのぼる金額が為替市場で取引されている。

ある会社が債務不履行になるリスクをヘッジするための派生商品が、対象の会社となんの取引関係もない第3者に膨大に売られる(本来は保険であるが、第3者に売られれば単なるギャンブルである)。


●法外な報酬がもたらす弊害

金融業では、成果を挙げたディーラーなどに常識外の報酬を出す。
法外な報酬に釣られて優秀な人材が金融業に吸収されてしまう。その結果、法律・科学・行政・教育などにも配分されるべき人材が枯渇する。これは社会全体に歪みをもたらす。


●法外なボーナスは懐に 失敗のツケは庶民に

大きすぎる金融機関は、潰れると社会に与えるダメージが大きい。そのため金融危機が起きれば、国家が借金をしても救済するが、その借金は国民への増税や福祉のカットとなる。

つまり金融業者は、景気が良いときには法外なボーナスを手中にし、つまづいた場合のツケは一般市民にまわす。

これを是正するためには、金融業をある程度の大きさに規制する必要がある。
しかし、グローバル化する世界では自国の金融業を優位に導くため各国ともその規制を緩めがちである。
銀行業と証券業、投資銀行とリテールバンクは、かつて分離が命じられていたが、徐々に統合され巨大化している。そして巨大化すれば潰せなくなる。


●骨抜きにされる規制

2008年の金融危機後には、金融機関への規制や全世界的な監督組織についての議論が沸騰したが、2011年現在、それらの議論は下火であり、何も決定されず、決まった法律は骨抜きにされつつある。


●あるべき姿

「株式会社は、理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが、同時にそのような株式会社も、単独で営利追及活動ができるわけではなく、一個の社会的組織であり、対内的には従業員を抱え、対外的には取引先、消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であることは明らかであるから、従業員、取引先など多種多様な利害関係者(ステークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり、企業価値について、もっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界があり採用することはできない。」(ブルドックソース事件東京高裁判決)


●リスクが国家から個人へ移し替えられている

社会の金融化は、国家の社会保障能力の衰退とも関係している。
賦課方式による年金(現役世代が引退世代を支える)では、経済や人口の規模が拡大している場合は良くても、経済成長の停滞や少子化が進行すると行き詰まる。これを解決する方法は

・税(掛け金)を上げる
・足りない分を消費税などで埋める
・国家共同体での助け合いから個人の責任へと移行する

の3つで、日本ではこのところ3番目のいわゆる「自己責任論」が幅を利かせ、個人年金「日本版401K」などが普及している。すると年金基金、医療保険基金などが膨張し、これらが運用のため巨額な資金を投資するようになる。

・・・

「真に目指すべきは、競争力がある社会ではなく、よき社会」
筆者のこの言葉が胸に残ります。

近年、各地で巻き起こった「ウォール街を占拠せよ」運動も、一部はこういった「金融業だけが社会的に不公正な利益を独占する」あり方に対する抗議と見てよいでしょう。
しかし歯がゆいことに、たとえ市民がウォール街でデモをしても、それで事態が変わるとは思えません。金融業や銀行家の暴走を食い止めるには具体的な法的規制、すなわち政治的な決断が必要です。しかも、金融はいまや国家の枠を超えて広がり、国家よりもはるかに自在な活動をしています。ジャック・アタリなどが指摘するように、国際的な規制の枠組みが必要です。(→金融危機後の世界 ジャック・アタリ

しかし、本書でロナルド・ドーアが指摘している通り、リーマンショック後の危機で声高に叫ばれた様々な規制のアイデアは一向に実現する兆しを見せません。

それから、ドーアは「あとがき」に気になることを書いています。

「日本経済のアングロサクソン化は、米国が西太平洋における軍事的覇権国であり、日本と安全保障条約を結んでそこに基地を持ち、その基地を移設しようとする内閣(たとえば鳩山内閣)を倒すくらいの力がある、という事情と密接な関係がある」とし、しかし遠からず「西太平洋における覇権国家は中国になっているだろう」と予見します。

そして、きたるべき米中対決時代に「日本は依然として米国に密着しているのか。独立国家として、米中が何千万人を殺しかねない衝突に突き進まないよう、有効に立ち回れるのか」と結んでいます。

はたして人類は、金融の膨張に歯止めを掛けられるのか?それとも決定的な悲劇に遭遇しないと、自らの行動を改めることができないでしょうか?

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 10:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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