2010年07月30日

日本人へ 国家と歴史篇 塩野七生

著者は、ローマ帝国の興亡を描いた「ローマ人の物語」が有名な作家。東京都立日比谷高等学校、学習院大学文学部哲学科を卒業してイタリアへ遊学。ローマ名誉市民。

著者の名前は知っていても著作を読んだ事がなかったのですが(何しろ代表作「ローマ人の物語」は全15巻ですから、取り組むのに覚悟が・・)、読んでみて文章の上手さに感心しました。
本書は、「文藝春秋」の巻頭エッセイを単行本化したもので、気軽に読める内容ながら折々の政治課題を取り上げて切れ味鋭い提言を綴っており、読み応えがあります。

2007年参院選における自民党の大敗時に「内外共に課題山積の現日本に首相をころころ変えて体力を浪費する余裕は無い」として安倍首相の続投を擁護し、歴史に鑑みれば武力によらない領土奪還がいかに難事かを説いて沖縄返還を勝ち取るために密約もやむをえなかったとする骨太な視点は、著者が女性である事を忘れさせるほど男性的で、惚れ惚れします。長く海外に暮らしているため、「外から見た日本」という視点があるのも魅力です。
時々、ローマでの出来事や、好きなお酒の話題が入って息抜きになります。以下メモ。

・・・

・ローマの衰亡は500年 日本の衰弱は20年 ならば、どうする?

・危機を打開するには、何をどうやるかよりも、何をどう一貫してやり続けるか、のほうが重要です

・亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起こるのではなく、人材はいてもそれを使いこなすメカニズムが機能しなくなるから起こる

・もしも外国人の誰かがこの日本の歴史を書くとしたら、個々の分野では才能ある人に恵まれながらそれらを全体として活かすことを知らなかった民族、と書くのではないだろうか

・改革とは所詮、腹を決めてルビコンを渡ることであり、しかもその後も、首相が代わったぐらいでは引き返せないところまで一気に突っ走ってはじめて、ヤッタ、と言えることではないか

・サミットは機能不全に陥っている。原因のひとつはロシアを入れたこと。サミットはもともと欧米的な国の集まりだった。ロシアは欧米的でない。日本も、欧米ではないけれど欧米的な国と思われている。欧米的とは、共生するために必要な国際ルール、つまり”法”を遵守するという意味。

・今になって移民を受け入れようとは馬鹿なこと。英独仏が現在どれほど苦労しているか見よ。移民が、移住先の国の法を遵守するのが当然と思われていた時代とは違う。いまや移住先の国に治外法権域を作ろうとする。日本はこれまで通り、静かに目立たないように移民の受け入れを拒絶すべき。
【独国営放送】ドイツ人だという理由でいじめられるドイツの子供

先進国でさえ、城壁のような塀をめぐらせガードマンを雇わないと安心して暮らせない状況になりつつある。労働力不足には女性や非正規労働者の活用で応え、世界一治安の良い環境をさらに磨いて世界から3K移民ではなく知識労働者を招聘せよ。

・憲法改正は必要。自分自身を守ろうとしない者を守る他人はいない。イラクで、数千人の犠牲でもう腰が引けた米国が、石油も無く民主化する必要もない日本のために自国の若者を犠牲にすると考えるのはどうかしている。

・歴史は結果次第で書きかわる。もし日本が戦争に勝って、大東亜共栄圏を樹立し100年うまくやれば侵略戦争とは言われなかっただろう。侵略であったかどうか議論しても無意味。明確なのは「負けた」事であり、負けたから侵略戦争になった。考えるべき事は、いかにして二度と負けないか。

・・・

などなど、ひとつひとつは短いエッセイの集合ですが、含蓄のある内容が上に書ききれないほどシッカリ詰まっています。

国益を優先して自民との大連立を当時民主党代表だった小沢一郎に訴えかける「拝啓 小沢一郎様」では、民主党の衆院選勝利と、その後に起こる連立内閣の行く末を見事に言い当てており、歴史と人間を深く学んだ著者の慧眼に感心させられます。

今日も書店で平積みになっているのを見ましたが、売れているのではないでしょうか。ものすごく面白いです。

読むべし!





posted by 武道JAPAN at 21:39 | Comment(1) | TrackBack(0) | 読書記録(社会歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月28日

官僚とメディア 魚住 昭

2007年出版の本ですが、現在ますます顕わとなっている官僚権力とマスゴミの胸の悪くなるような腐敗を告発しています。

著者は、元共同通信の記者で、現在はフリージャーナリスト。
1996年に共同通信社会部での共著「沈黙のファイル -『瀬島龍三』とは何だったのか- 」で日本推理作家協会賞受賞。
2004年、「野中広務 差別と権力」で講談社ノンフィクション賞受賞。
2006年、メディア勉強会「フォーラム神保町」を立ち上げる。

本書では、ここ数年、日本社会を震撼させた数々の事件と、その裏に存在するメディアと官僚の癒着と共犯関係をあぶり出しています。

●姉歯建築士の耐震データ偽造事件

ヒューザー/木村建設/経営コンサルタントの「悪のトライアングル」が姉歯建築士に強要した事件、と報道されたが、実は姉歯による単独犯行。他の関係者は冤罪。
本件で最も重要なのは、国土交通省大臣認定の建築ソフトが簡単にデータ改竄できてしまったという点であり、非難されるべきは対策をとらなかった国交省の官僚たち。なのに役人が責任回避するために仕組んだ「悪のトライアングル」というシナリオに、メディアはまんまと乗せられ(あるいは加担して?)、生贄としての罪人をつくりだし、国交省官僚は責任を問われずに無傷で生き延びた・・というのが真相。

●裁判員制度導入の為のタウンミーティング事件

最高裁+電通+共同通信+全国地方紙が「四位一体」でひそかに進めていた大規模な世論誘導プロジェクト。
最高裁は、反対意見の多い裁判員制度導入を図るため、メディアを利用して世論を誘導し、メディア側は広告と、一見すると記事に見える偽装広告を巧妙に織り交ぜて協力し莫大な利益を貪るという癒着の構図。動いたのは裁判員制度導入のための広報予算27億円。この予算も流れが不透明。

官僚組織とメディアが共謀して世論をコントロールする。これでは戦前の統制機構と同じ。
共同通信も電通も、ルーツは戦時中の国家総動員体制の中核を担っていた組織であり、悪い冗談ではすまされない。

●検察の暴走〜ライブドア・村上ファンド事件

村上ファンド・ライブドア事件共に、事件性はきわめて薄く、道義的問題はあったとしても大事件ではなかったと多くの専門家が指摘している。検察の描いたストーリーには相当な無理があったにも関わらず、事実のほうをストーリーに無理やり当てはめて捜査が組み立てられた。「現場の検事が作った冒頭陳述案を上司が書き換えたと聞いてます」(宮内・ライブドア前取締役の弁護人)
村上ファンドがインサイダーとされるなら、相当に広範囲の人々が罪に問われる危険がある事になってしまう。

著者は、このような検察の変容を、92年の東京佐川急便事件に見る。
当時、「政界のドン」金丸信が疑惑を受けながら検察がこれを見逃すと、国民から非難の大合唱が上がった。検察庁にはペンキが投げつけられ、「主人が検察に勤めていると人前で言えない」ほどの状況になった。翌年、検察が金丸を逮捕すると、一転して「正義の検察よくやった」の声があがり、検察OBが政府機関のトップに次々起用された。
このような経緯を経て、検察は「時代の象徴的な事件を作り出し、それを断罪する」事が自らの使命と位置づけていったのではないか。

法ではなく、司法官僚の判断が政治の方向や企業の動向まで左右するなら、「法治国家ではなく人治国家」と言われる中国と変わらない。

●メディアに自浄能力はない

記者の多くは情報を警察や霞が関から得る。いくら優秀な記者でも、関係官庁に集まる情報以上のネタを独自に取材することは難しい。当然、官庁とは「仲良くやる」事になる。関係がまずくなれば情報が得られない。
特に各省庁に存在する「記者クラブ」に出入りできなくなれば死活問題。畢竟、官僚には逆らえないし、やがては馴れ合って、官僚目線で大衆を見下ろす意識になってゆく。

・・・

・・と、この国の大きな病根を可視化していきます。
北朝鮮や中国を「言論の自由がない国」と避難するのは簡単ですが、我が日本には果たしてどの程度「本当に言論の自由」があるのでしょうか?言論の自由どころか、見えない形で巧妙に嘘を吹き込まれ、誘導され、操られているのが実体です。

生半可に「言論の自由がある」という虚構がまかり通っているために、「メディアが報道することは真実に違いない・・」と思い込まされているだけではないでしょうか?(中国のように、明確に「言論統制がある」と皆が知っているほうが対抗しやすいくらいです。)メディアの言う事を鵜呑みにせず、情報を見分ける目を養いましょう!

読むべし!

※本書で一つだけ賛同できない点を。
NHK番組改変問題を取り上げて、政治的な圧力でNHKの放送内容が変えられたのは遺憾・・としていますが、あの問題(→NHK番組改変問題)は、著しく偏向した主張を持つVAWW-NETジャパン(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)の活動をそのまま放送しようとしたNHK側が異常だと考えていますので、仮に圧力があったとしても、個人的には寧ろ必要な事だったと思います。


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2010年07月25日

ベルカ、吠えないのか? 古川日出男

「ベルカ」とは、ソ連の宇宙船スプートニクで地球軌道を周回して戻った犬の名前。本書は、4頭の軍用犬から始まる犬たちの系譜を、20世紀戦争の歴史に織り込んだ壮大な物語です。

第二次大戦中の1943年、日本軍が撤退したアリューシャン列島のキスカに4頭の軍用犬が残される。
ある犬の血統は米軍に収容され、軍用犬としてアジアに運ばれて朝鮮戦争・ベトナム戦争を戦い、他の犬の血統は北極圏でソリ犬として使役され、狼と交配し、生き延びるために南を目指す。
犬たちは、中国へ、アフガンへ、ソ連へと拡散し、海をわたり、あるものは麻薬取引を仕切るマフィアの一族に飼われ、あるものはソ連の特殊軍用犬部隊に編成されてゆく。

この物語に特定の主人公は居らず、登場する犬たちに固有の名前はあっても彼らが人間のように考え、話したりはしない。歴史という巨大な流れを、犬たちの血脈に沿わせて俯瞰した大きな流れと、その中で生きる様々な立場のイヌと人間たちがある。
一見すると、人間たちの都合に犬たちの運命は翻弄されているようであるが、人間たちも歴史と運命に翻弄されている。そして、犬も人間も、目の前に現れた所与の条件を最善に生き延びてゆくしかないのである。

読み手を選ぶかもしれませんが、他に類の見当たらない独特な構造、語り口と、読後感はとても印象的です。

ただし、ひどく世界史オンチな人は、読む前に第二次大戦〜朝鮮戦争・ベトナム・アフガンの事をさらっと理解しておきましょう。
本書を読んで、アメリカの泥沼がベトナム戦争なら、ソ連の泥沼がアフガン戦争であり、どちらも同じような泥沼化をたどった・・という視点にナルホドと思いました。

読むべし!


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2010年07月03日

小沢革命政権で日本を救え 副島隆彦 佐藤優 / さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白 高橋洋一

参院選直前となったので、今回は2冊を。

小沢・鳩山が辞任して、なんとなく民主党でいいかな・・と考えている向きには、もう少し長期の視点から日本を見て欲しい。

現下、日本最大の問題は何か?と言えば、経済・社会に元気と希望がない事でしょう。ではその原因は何か? 小泉改革のせい・・ではありません。
先回のブログ(日本経済の真実)にも書きましたが、世界の仕組みが変わったのに日本だけが乗り遅れているからです。

90年代に共産主義体制が崩壊し、1)膨大な労働力が資本市場に流れ込んだ 2)後進国に技術が普及し、中国やバングラデシュでもユニクロの服やDELLのコンピュータが作れるようになった。

この「世界的なゲームのルール変更」に対応して、中国は社会主義のまま経済を開放し、英米は産業の軸足を”ものづくり”から金融に移しました。しかし日本だけは、新しい産業の育成に失敗し、中央集権的な体制を変更できずに地方が衰退している。

日本が変われない原因は、既得権益にしがみつく勢力が変化を拒むからです。その最大勢力の一つが、ずばり役人(官僚機構)です。

実際、「霞が関改革」を唱えて官僚の統制機構に挑戦した政治家は、様々なトラブルに見舞われて潰されました。絶大な人気を誇った小泉政権の郵政民営化さえ、民主党政権で改革の逆行に晒されていますし、その小泉純一郎は格差社会を作った悪人にスリ替えられています。

小泉政権の後を継いで、本気で霞が関改革に踏み込もうとした安倍政権は、社保庁の自爆テロ的な「消えた年金問題」で潰されてしまいました。

福田政権以降、官僚は徐々に支配権を復活しつつあり、官直人政権になった途端に「消費税10%」を言い出したところを見ると、彼は財務省に操られているようです。財務相のくせに”乗数効果”の意味がわからず国会で大恥をかいて官僚に助けを求めた経緯を見れば無理もないでしょう。 → 国会中継 菅直人財務相、消費性向と乗数効果の違いを答えられず

東大卒がゴロゴロいる官僚をコントロールするには、小泉純一郎のような異能者か、小沢一郎のような豪腕が必要で、官直人程度の頭脳では難しいと思います。このまま民主党政権に参院も握らせれば、官僚機構だけが肥え太り、日本は沈むでしょう。

・・・

■「小沢革命政権で日本を救え」 副島隆彦 佐藤優

気鋭の論客二人が、現下日本の最重要政治課題を論じた本。

二人は、外国人参政権・女系天皇・靖国神社合祀については意見の違いがあるものの、鳩山政権(特に小沢一郎)に対する評価は高く、「親日保守」と見ています。

ネット内では「中国朝鮮に魂を売って民主党を裏から操る悪者」と評価される小沢一郎ですが、この対談では「対米従属からの脱却と、官僚機構との最終決戦を目指す者」という視点で捉え、現在の政治状況を「官僚が権力を握るのか、選挙によって選ばれた政治家がコントロールするのか」の闘いと見ます。

●世界的な潮流
国家間に、新しい帝国主義の時代が到来した。日本も立派な帝国主義国家である。
新しい帝国主義ではコストの掛かる植民地は保有しない。各々の国家は、資本・産業・軍事・文化など様々な影響力を行使しあって自国の権益を奪い合い、力による均衡を目指す。

●日米関係
米国はジャパンハンドラーズ(日本操り部隊)を使って日本を支配し、累計800兆円に上る資産を吸い上げ続けてきた。手先になっているのは、米国に洗脳された政治家や学者、官僚たち。

●民主党
鳩山由紀夫は馬鹿ではない。馬鹿にスタンフォード大学大学院の博士号は取れない。
小沢・鳩山という傑出した政治家が失脚したことは残念。民主党内部には米国に取り込まれている者(前原誠司・長島昭久など)や、官僚の権益を守るために潜り込んでいる元官僚(緒方林太郎など)が多数いる。小沢の抑えが利かなくなると危険。

●日本最大の問題 〜 国家の主人は誰か
霞が関オール官僚勢力+米国のジャパンハンドラーズ+国民に嘘ばかり教えるメディア連合軍が共謀して日本をコントロールしている。

官僚や特殊法人および関係者(200〜300万人)が、国民の税金に吸いついて既得権益をむさぼっており、この構図に楯突く者にはクーデターを仕掛ける。小沢vs検察はこの文脈で読める。構図は次の通り。

・明治憲法以来、官僚は政府ではなく天皇に忠誠を誓う組織であったが、敗戦後、天皇は権力中枢から降りてしまった。その後、官僚機構は漠然と「日本国」のために働き、彼らが集合意識的に志向する「正義」によって動いている。

・官僚達にとっての正義は、日本国&エリートとしての自分達であり、国民などは有象無象。「何も考えず手足として黙って働いて税を収め、国家の都合によっては簡単に打ち捨ててよい」存在でしかない。
※元官僚(外務省)の佐藤さんが言うと、空恐ろしいほどの真実味があります。

・国民の民意が反映されて政権交代が起こった事自体は素晴らしい成果。小沢一郎は、この国の支配権を「国民に選ばれた政治家」に奪還しようとしているが、官僚から見ればこれは(彼らが統治する)日本に対する挑戦であり、悪であるため、検察の攻撃がはじまった。

※小沢一郎の陸山会事件だけでなく、村木厚子厚労省元局長への冤罪事件など、最近は法の枠組みをはみ出した検察の暴走が目立ちます。
次に紹介する「さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白」の著者である高橋洋一さんも、サウナで財布と時計を盗んだとして書類送検されましたが、非常に不自然さを感じます。

・検察は、自身の内部にある定義不明な「正義」のために動いているが、米国にコントロールされている。「陸山会」事件が最終的に不起訴となった背景には、米国から検察トップに「撃ち方ヤメ」の指令があった。

●中国の習近平・天皇会見問題で、天皇を政治利用したのは小沢一郎でなく羽毛田宮内庁長官の側。
会見申し込みは最終的にキッシンジャーを通じて中曽根元総理に来た。「会見は1ヶ月前に申込み」というルールは、国民の総意たる国会によってではなく、宮内庁(官僚)が勝手に決めたもので、「天皇を動かせる権限は自分たちが握っている」という官僚の思いあがり。本気で天皇をお守りする気持ちなら職を賭して抗議すべき。
自分たちの権力強化のために天皇を利用しているのは羽毛田(官僚)の側なのに、世間には逆さまの印象が伝わっている。

●外国人参政権は国家の輪郭をどう設定するかという点で考えるべき。あいまいに参政権を与えるのではなく、国籍取得の要件を緩和して帰化への道を開き、どこの出身であろうと日本人となって「日本に忠誠を尽くす」者には権利を与えるという道が正しい。
参政権反対論の中には他民族を排斥しようとする排外主義が見えるが、これは危険な兆候。異なる血を入れない閉鎖的な傾向に進めば、最終的に日本は弱体化する。

・・・

本書で言われるほどに小沢一郎が日本の事を考えているとは思えませんが、このままの民主党が参院で過半数を取れば、国家の支配権は官僚に奪還されるでしょう。

・・・

■「さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白」

著者は、東大数学課を卒業して財務省に入り、「小泉・竹中改革」のスタッフとして郵政民営化や公務員制度改革に力を尽くし、いわゆる「霞ヶ関埋蔵金」を発掘した挙句に裏切り者扱いされて財務省を去ったという異色の元官僚。
本書は、2008年の山本七平賞を受賞した快作。このたび文庫化されたので、まさに今のタイミングで読むべき一冊です。


●政治家と官僚:政治家は選挙によって国民からの審判を受けている。政策がまずければ次の選挙で落とされる。しかし官僚はクビにならない。したがって、政治家が主導して国の方針をコントロールしなければ国民の意思が反映されない。なのに官僚は徹底的に自分達の利益を優先し、国家や国民の利益を後回しにする。

●大きな政府:「社会主義が最も成功したのは日本」と云われるほど、70〜80年代日本は政・官・業一体の護送船団方式で成功したが、90年代に入ると(社会主義的な)このモデルは限界に達し、中国さえ自由資本主義を取り入れた。
日本も制度の変更が必要で、中央集権で霞ヶ関がコントロールする仕組みから、政府を小さくし地方への権限委譲を進めるべき。

●官僚:日本最高の頭脳集団も、大卒後に一般社会とはあまりにも常識が違う官僚組織の中で純粋培養されると劣化する。しかも、どの省庁も(日銀さえ)東大法学部卒が牛耳っているが彼らは計数に弱い。

●日銀:世界中の学者や専門家から日銀の金融政策は非難されている。海外の会議などで、日銀マンはそういった専門家と決して議論せず黙っている。日銀は常に目標を曖昧にし、結果責任を追及されないように立ち回る。日本はずっとデフレが続くが、日銀は通貨供給量を増やさない。これは世界の常識に反する。(→ 日本銀行は信用できるか

●審議会:政策は各種の審議会を通じて練られるが、ここに参加する学識経験者や有識者は役所が選ぶ。当然、役所の意向に沿わない人は呼ばない。あるいは無知な人を呼んで、役所に都合の良いデータで洗脳する。

●役所の論理:国庫に入ったカネは自分達のもの。使い道を決めるのは役人の特権。(役人にそんな権利はない)

●埋蔵金:特別会計で生まれた剰余金を、上の理屈で役人が勝手に運用している。(役人にそんな権利はない)

●日本の財政:「増税ありき」で発表される財務省のトリックを信じてはダメ。楽観はできないが、財務省が言うほど危機的状況ではない。
国の借金1000兆円というが、日本ほど政府が資産を持っている国はなく、借金から資産を引いた「純債務」はずっと小さい。
それは財務省本人が知っており、外国に向かって「日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債のほとんどが国内で消化されている。経常収支黒字も世界最大で、外貨準備も世界最高」と言っている。国民向けの宣伝とは使い分けている。

●増税:需給ギャップを放置したままで増税など狂気の沙汰。大きな政府や官僚の天下り先を確保したいため。財務省と財政タカ派(与謝野、谷垣など)が手を組んで誘導している。増税の前にやるべき事は山ほどある。

・・・

と、元官僚だけに官僚機構の論理や内幕をしっかり書いています。

財務省を追い出された著者ですが、古巣への意趣返しや恨みつらみなどは全く語っておらず、政治の役割・役人のわきまえるべき本分について、極めて「まっとうな」論が並びます。

参院選では、本当に官僚と戦い、既得権益に切り込んで、耐用年数を過ぎた日本のシステムを改革できる政党や候補者を選びましょう。官僚の巻き返しが起こって日本が沈めば、苦しむのは我々普通の国民です。

読むべし!


posted by 武道JAPAN at 15:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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