2010年02月27日

投資戦略の発想法〈2010〉 木村 剛

まさに良書です。「他の投資本を100冊読むより、この本を100回読んで頂きたいのです。」というオビの言葉を信じてよろしいです。

著者の木村さんは東大経済学部卒業後、日銀勤務を経て金融コンサルティング会社を設立。

本書は2001年に初版が発行され、漸次改定を加えながら版を重ねつつ最新の経済情勢を織り込んで2010年版として出版されたもの。

株やFXで一攫千金を狙うような投資本の類を想像してはいけません。むしろ全く逆です。投資行動の中核は「仕事」である、と説きます。本業で一流になる事がもっとも重要な投資行動であり、株や為替の動向に一喜一憂して本業に差し障りが出るなど本末転倒、と論じます。

きわめて良心的な内容で、将来のために一定の資産を築きたいと願う平均的な市民は、本書の内容を学べば十分な知識が得られます。というより、最初にこの本を読むべきだと言えます。

・まず収入範囲内で生活する。借金に頼るような生活態度は改める。
・仕事で一流になる努力をする。最も重要で中核的な投資行動は仕事から発生する収入である。
・節約する。年利10%を投資で得るのは簡単ではないが、10%の節約はあなた次第で可能。

・・と、まず「仕事」と「節約」の両軸を確立する。そのうえで、

・家は買わない。
・あなたと、あなたの家族が2年間暮らせる生活防衛資金を貯める。
・生活防衛資金ができたら、リスクを許容できる範囲で投資を始める。

として、

5分割ポートフォリオ/株の長期保有/20銘柄選別投資・・

など具体論が紹介されます。

経済全般の基礎知識や資産形成の考え方と方法論、果ては日本がデフォルトする可能性までを見据えた資産防衛戦略まで網羅されています。

・資本主義経済が存在する限り、短期的変動はあっても長期的には株は上がり続ける。
・株式市場は、かなり先までの社会・経済状況を織り込んでいるので、プロの投資に先んじて個人投資家が「誰も知らない最新情報」で儲けられる可能性はまずない。
・年度ごとの成績を評価されるプロのファンドマネージャーと違い、個人投資家は時間に縛られることがない。ならばプロに出来ない「長期投資」で、「ゆっくり確実にお金持ちになる」べし。
・詐欺師の横行は断つ事ができない。「うまい話」はない。絶対にのってはダメ。
・多くの投資本が投資信託を薦めるが、継続して良い結果を出せる投資信託はきわめて少ない。
・シンプルな投資でいく。複雑な金融商品は必要ない。マネー誌の情報は無益有害。

などなど・・

内容が濃いので、今回は安易にまとめるのはやめておきます。
分厚い本ですが平易な語り口で判りやすく書かれ、難解な経済用語もあまり出てきません。投資に関する正しい知識を身に付けるための厳選された書籍群も紹介されています。ぜひ手元において何度も読み返したい一冊です。

全体として、規制強化が強まる日本の反資本主義的風潮に危機感を表明しており、小泉改革支持&小さな政府志向の上潮派とみえます。Wikipediaに「2002年には金融庁金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム(通称竹中チーム)のメンバーを務めた」とあり、納得します。
「政府紙幣の発行は禁断の木の実。かならず通貨堕落とインフレを引き起こす」「インフレこそは資産形成にとって最大の敵」と、元日銀マンらしい発言も随所に現れます。

経済の基本原理を学びたい方/働き始めた若い社会人/これからの社会に少なからぬ不安を抱いている方/安心して老後を迎えたい方/投資と資産形成に関するしっかりした知識を身に付けたい方に強くオススメします。

【2012年追記:著者の木村氏は、日本振興銀行の事件で有罪となってしまいましたが、本書の内容が優れている点は変わりなく評価できます。】

読むべし!読むべし!読むべし!!




posted by 武道JAPAN at 20:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月20日

無趣味のすすめ 村上龍

作家であり、「カンブリア宮殿」の司会者でもある村上龍のエッセイ。この人の小説にはキレイゴトを剥いだドライな目線があって好きなので、相当数を読んでいる。特に、北朝鮮のコマンドが福岡ドームを制圧するというフィクションを描いた「半島を出よ」は好きな小説ベストテンに入ると思う。日本政府の無為無策ぶりが「いかにもこんな対応に終始しそう」と思わせるリアリティがある。

氏は、作家としては経済や社会システムへの洞察が鋭いので、本書にもなかなか示唆に富んだ一言があるし、淡々とした語り口調も良い。ただ、あくまでエッセイなので専門書を読むような水準は期待せず、読むほうも淡々と読んだほうがよい。図書館で借りて読んだ。以下メモ。

・グローバリズムは思想ではなく潮流なので、拒否したり乗ろうとしたりしてもダメ。適応するしかない。

・決断というものは最優先事項が明確になっておれば難しくない。

・企画力や発想力を磨くには、長期間集中して考え抜く(つまり筋肉と同じように脳を鍛える)というミもフタもない方法しかない。

・夢や目標を持とうという言説には違和感を感じる。目標は人生に必須のものであり、目標を達成するには努力が要る。目標を持つのは浮かれた事でなく、基本的に憂鬱なことである。

・我々は消費者であり労働者である。消費者としては安く品質の良いサービスや製品を提供されて王様扱いをされるが、労働者としてはそれを支える為に競争にさらされ消耗させられる。

・語学や資格の習得は、人生を「やや」有利にするだけである。我々は、終身雇用と右肩上がり経済の名残で、「一生安泰」という幻想を欲しがるが、そんなものはない。

・「失敗から学べ」というが、それが有効なのは成功者がつまづく場合だけである。一般の労働者が失敗すれば準備不足や無能さを曝け出して批判や叱責の的になるだけである。

・・などなど。

「部下は掌握すべきなのか」という一説に「やる気やモチベーションのない人間は辞めてもらえばいい。自分はそうしている」とあるが、一般の日本企業でそんな事できれば苦労はないよと言われてしまいそうです。あくまで作家という仕事から見た論としてさらっと読むには良いでしょう。





posted by 武道JAPAN at 18:55 | Comment(1) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月13日

フリー〜〈無料〉からお金を生みだす新戦略 クリス・アンダーソン

著者は「ワイアード」誌編集長。「ネイチャー」や「サイエンス」といった権威のある科学雑誌の編集者でもあった。「ロングテール」という言葉を世に送り出した張本人。以下メモ。

* 日本版「ワイアード」 http://wiredvision.jp/

・・・

●試供品を配って製品を買ってもらったり、食事を無料にしてビールで儲けたりといった従来あるモデルの他に、デジタルとネットの普及で様々なフリー(無料)ビジネスが出現している。
Googleの検索エンジンやGメールは無料で利用できる。Wikipedia、YoutubeやSNS、オープンソースのOSなど、無料で使えるものが我々の生活に深く食い込んでいる。
デジタル化された商品を複製するコストは無視できるほど小さいし、複製しても品質劣化しない。

●かつてビットは高価で希少なものであったがテクノロジーの発達で加速度的に安くなった。安くなったビットを「無駄遣いする」発想がコンピュータのGUIを生み、ゲームを生み、YoutubeやiPODを生んだ。希少なものを管理する従来型の発想を転換し、潤沢なものを無駄遣いしたものが勝利する。
タンポポは無数の種子を飛ばし、わずかな確率でアスファルトの隙間に着地して花を咲かす。これを「タンポポの戦略」という。コストが無視できるほど小さくなれば、これと同様の戦略が可能になる。
例えばメールを10万通送るコストは僅かだが10人引っかかれば大儲けできる。オンラインゲームでは通常のプレイヤーは無料で、特殊なアイテムが欲しい一部の人から料金を回収するが、1000人に一人しか料金を払わないとしても、1000人に配信するコストが無視できるほど安いなら十分にペイする。

●貨幣以外の無償経済も膨らんでいる。
無償で書評を書くブロガーや、フリーソフトを開発するプログラマは、評価や名誉という報酬を受けている。金銭以外の経済が存在する。
Webには評判と注目という価値があり、トラフィックやリンクとして計測できる。これらは、いまや金銭的価値にも換算できる。

●中国やブラジルではコピー商品が盛んに作られ、無料経済の実験場となっている。
中国では、高価なブランド品のコピーは、潜在的な顧客〜今はまだ本物を買えないが、いつか買えるようになりたいと願う人々〜を開発しているし、ブラジルでは、露天で売られる安い音楽CDが膨大なファンを作り出し、ライブへの集客を作り出している。ミュージシャンはCD販売から利益を得なくても、コンサートやTシャツの売上で収益を確保している。
ブランド品やCDが正規の価格でしか販売されなければ、この現象は起こらない。

●競争のある市場では価格は限界費用まで下がるし、テクノロジー(情報処理能力・記憶容量・通信帯域幅)の限界費用は限りなくゼロに近づいている。
無料経済の拡大に抵抗しても無益であり、むしろ積極的に利用して評判や注目を集め、それをお金に換える方法を創造的に見つけ出すべし。
・・・

と、現在進行形で起こっている新しいビジネスの形態を判りやすく解説しています。

著者の言うように「あなたがどの業界にいようとも、〈無料〉との競争が待っている」かは疑問ですが、コンテンツや商品を無料で提供する事から利益を生み出している様々なビジネスモデルが紹介され、新しいアイデアのヒントになります。

起業家精神旺盛な人・自分のビジネスを持っている人・経営的な立場にある人は是非読むべし!


posted by 武道JAPAN at 11:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月07日

日本銀行は信用できるか 岩田 規久男

著者は東京大学経済学部卒、同大学大学院博士課程修了。学習院大学経済学部教授。日本を代表する経済学者の一人。

タイトルから察せられる通り、日銀批判の書。なぜ日本銀行は「信用できない」のか? 以下メモ。

・・・
・ほとんどの日銀総裁は何故か東大「法学部」卒業者である。他国の中央銀行のように、経済の専門家ではない。日銀は、他の多くの中央銀行が採用している正統的な経済理論を用いず、独自の「日銀流理論」で動いている。

・日銀は、インフレを極端に恐れ、物価の上昇率をゼロに抑えようとしている。このため日本ではデフレ不況が起こり易くなり、過度の円高と産業の海外移転や空洞化、地方の疲弊をもたらしている。

・著者の考えでは、「良いデフレ」というものはない。1%のデフレは3%のインフレと同じくらいか、それ以上に悪い。2%程度のインフレが経済の成長にとって必要かつ適切。(つまりインフレターゲットを設定せよ、という)

・インフレターゲット採用国ではインフレの抑制とGDP成長率の両方を達成している。

・日本では、過去の統計からインフレ率を2%程度にすると、失業率を最も低く抑えられるが、1%程度のわずかなデフレでも、失業率は急激に上昇する。

・最近の経済学では、不況の理由は急激な通貨流通量の減少であるという意見が主流。リーマンショックのような危機に際して、有効な手を打てるのは政府と中央銀行しかないにも関わらず、危機後の各国の通貨増加量を比較すると、日銀は危機対応に最も消極的な中央銀行である。

・新日銀法は、@金融政策の目標設定 A目標達成の手法、の両方を政府のコントロールから切り離してしまった。他の主要先進国では、数値目標を伴った目標を政府が策定し中央銀行には手段のみを任せている。つまり日銀は、誰にも義務を負うことのない目標を勝手に策定し、その達成手法も自由裁量である。これはガバナンスの効かない状態であり、是正されるべきである。
・・・

著者は、クルーグマンやバーナンキと同じく、インフレターゲット支持の立場と見えます。

インフレターゲットとは、景気を良くし経済成長を持続させるため、中央銀行が2%程度のインフレ(物価上昇)を意図的に目指す政策です。
方法としては、金利を下げるなどして市中に出回るお金の量を増やしたり、「2%程度のインフレを目標とする」と言明する事で、人々が安心して経済活動に邁進するのを促す・・など。

ただ、インフレターゲットには反対論もあり、本書を読んだだけで是非が判断できるほど簡単ではありません(専門書をもっと読めばさらに判らなくなるかも・・なにしろ経済の専門家同士でも意見が分かれ、論争があるのですから)。

本書は、全体としてかなり判りやすく書かれているのですが、中央銀行がインフレ目標を明言すれば、人々は物価が下がらないような施策がなされるだろうと信頼して景気は悪化しない・・という点は何度読み直してもストンと得心は出来ませんでした。

しかし、本書で指摘されているように、日銀には官僚的な「責任回避の体質」が漂っているような気がします。その意味で、著者の指摘通り、「金融政策の目標設定」を政府の手に取り戻し、日銀に目標達成の責任を与えるべきではないかと思います。

読むべし!


posted by 武道JAPAN at 17:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。