2009年09月29日

金融危機後の世界 ジャック・アタリ

2006年に出版された「21世紀の歴史」(日本語訳は2008年)で、サブプライムショックを予見したジャック・アタリが緊急出版。
現下の金融危機発生の原因を分析し、危機を繰り返さないための具体的な処方箋を示します。

「21世紀の歴史」もきわめて刺激的な内容でしたが(管理人の2008年ベスト1です)、本書も素晴らしい切れ味です。

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危機発生の経過は

1)主に米国で、中産階級を借金漬けにすることで経済成長を維持する仕組みが作られた
2)借金(債務)が増えるに従いリスクも増大した
3)増大したリスクを分散するため複雑な金融商品が編み出され、世界中にばら撒かれた
4)「毒入り」商品に人々が気づき始め、パニックが発生した
5)民間金融機関に公的資金が注入され、債務は政府(ひいては納税者)に移し変えられた

この結果、西側先進国が負った債務が返済されるまで2〜5年、長ければ10年は景気低迷が続き、最悪の場合には世界的な恐慌や紛争に発展、民主主義の危機にさえ直面する。

最悪の危機を避ける為に政治的決断によってインフレを引き起こし、インフレが年率5%を超えた段階で物価安定策に取り組む・・などという危険な賭けさえ必要となるかもしれない。

最大の問題は、グローバルな規制や監視の枠組みがないのに、金融市場だけがグローバル化してしまったこと。したがって、一時的に株価が回復し投資が戻っても、抜本的な対策がなされない限り危機は繰り返す。G20等の枠組みで金融資本主義の暴走を抑える仕組みづくりを構築すべし。

具体的には、インサイダー(金融・経済に関する情報を独占できる立場にいる人々)の活動を法の枠組みに押さえ込み、全ての人に同時かつ公平に(経済・金融に関する)情報が行き渡るようにすることや、銀行家という仕事を謙虚で退屈なものに戻すこと、など。

また、G20と「国連安全保障理事会」を合併し、「世界ガバナンス理事会」を発足、IMFや世界銀行を、この理事会の権限の下に置いて理事会メンバーや投票権を改革するなどの大胆な「世界統治機構」確立が必要。

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グローバル金融を野放しにすれば世界的な危機が起こる・今回の危機を市場からの「最終警告」と考えて必要な対策を講ずること、といった実際面だけでなく、他者の幸せは自らの利益でもあると考える利他主義や、労働だけが正統に富を得る方法である世界を目指す事など、心を打つ提言で締めくくられた本書は、単に経済の事象を扱ったものではなく、人類の未来を見据えた視点を持っています。

読むべしッ!!

本書について書いている他のブログ
【書評】 ジャック・アタリ、『金融危機後の世界』
途中書評:ジャック・アタリ著「金融危機後の世界」:




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2009年09月16日

ポスト・クライシスの世界‐新多極時代を動かすパワー原理 田中明彦

著者は東京大学大学院情報学環教授。東大教養学部卒業、マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了 (Ph.D.政治学)。専門は国際政治学、東アジアの国際政治。

本書は、「100年に一度の経済危機」を受けて口述で書き起こされ緊急出版された、との事。そのためか、とても平易な文体で現在の世界が直面する危機を判りやすく概観し、分析と対処法を論じています。

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まず序章で、冷戦終結から今日までの「新・危機の20年」を、アメリカの独善的な「単極主義」と、自由放任経済の「新自由主義」が登場し・退場した期間と位置づける。

その上で、第1章では、当面の危機と大破局をどう防ぐか?について、1930年代恐慌との比較を行い、保護主義の台頭を警戒する。
30年代に、危機が経済領域にとどまらず第2次大戦にまで拡大した原因を、「中心」「周縁」という国家理論にあてはめて考察し、安定した経済基盤を保有していた「持てる国」(米英)が保護主義に走った結果、懸命にキャッチアップしようとしていた「持たざる国」(日独)に致命的な打撃を与えたこと・その結果、軍事力に訴えてでも世界秩序を変革し状況を打破しなければならない「生存圏確保」の状況に、これらの国を追い詰めた点などを指摘する。
翻って、現在の危機において危険を誘発しそうな「持たざる国」はどこか?筆者は、未だ経済、社会基盤の脆弱な中国・ロシア・インド・イランの名を挙げる。

第2章では、危機を克服できた後の長期の趨勢を観測する。
アンガス・マディソン(グローニンゲン大学教授)が過去の世界経済成長を推計したデータによると

・1820年ごろ 世界のGDPの48.9%を中国とインドで占める
・1970年ごろ 西欧とアメリカで47.7% 中国・インドは7.7% 
・2030年ごろ 西欧とアメリカで20.3% 中国・インドは34.1%

となっており、19世紀の大国であった中国・インドのシェアが21世紀に復活する。
GDPは「一人当たりの生産効率×人口」で総生産が決まるため、産業革命による技術革新が200年かかって世界に普及し終わると、欧米の先行者利益が消えて人口の多い国がGDPで勝る・・という結論を導き、これからの世界で中国とインドがふたたび大国となると予想する。
そして、21世紀の多極世界は、経済の相互依存性や軍事力の意味の変化により、過去の多極時代ほど不安定にはならないだろうとしつつも、国際的なテロ組織など「非国家主体」からの脅威も含め、「用心するに越したことはない世界」と結論付けている。

第3章では、新しい世界システムを動かすパワーとして、ジョセフ・ナイの「ソフトパワー」(政治力、文化的影響力などの魅力を通じて他を動かす力)を再考し、多極化する世界においては他を説得できる「陳述能力」が重要になるとする。

第4章では、以下のような観点から、覇権国の地位を手放した後も世界の中でリーダーシップを発揮できる国は、やはりアメリカしかないと論ずる。

・世界の41%を占める軍事費(中国は20%)と軍事行動の圧倒的な経験値の豊富さ
・ノーベル賞学者がもっとも多く活躍している
・世界ランキング上位の大学は全てアメリカにある(上位20校中13校)

第5章で冷戦後20年のアジアを見渡し、歴史的な平和と繁栄を達成した東アジアの成功と、いまだ不確定要素をはらむ南アジアを見た後に、アジアと日本のみならず世界にとっても、「中国を国際協調的で・安定した・繁栄国として軟着陸させること」が最重要課題であるとする。中国に対するアプローチは以下の通り。

・国際的な枠組みに入れ、大国としての責任を持ってもらう
・米中関係を良好なものとする
・日中関係を友好的なものとする
・中国の冒険心を抑えるため日米同盟を堅持する

また、今後かなり長い期間「核を保有した北朝鮮」という現実に対処しなければならない状況を踏まえ、「集団的自衛権の行使は可能」という解釈に変更すべきとする。

最後に、これからの世界で日本が果たしうる役割と、そのために必要な仕組みについて以下の通り。

・日本は中国と韓国以外ほとんどのアジア諸国から「世界に良い影響を与えている」と評価されている→陳述能力が高い(信頼感がある)
・先進的な科学技術があり、公害や省エネ・高齢化など、今後全ての国が直面する課題を最先端で克服してきたノウハウがある
・これらのリソースを一元化するために縦割りの制度を改革する必要がある
・長期に安定した政権が必要
・他国との渉外を政治家だけに任せるのではなく、各分野の専門家を積極的に登用すべし

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「東大の先生が書いた本」と言って敬遠する必要はありません。ものすごく読みやすいです。
特に、現下の経済危機を引き起こした近い過去の歴史をとても判りやすくまとめています。

読むべし!

◆この本について記述のある他のブログ
mm(ミリメートル) : 田中明彦『ポスト・クライシスの世界』
おきなわ正視眼 『ポスト・クライシスの世界 新多極時代を動かすパワー原理』




posted by 武道JAPAN at 09:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録(政治経済) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月09日

ダイアネティックス ― 明確な思考を取りもどせ!  L.ロン ハバード

本書は、米国の作家 L・ロン・ハバードが創始した心理療法の理論&カウンセリング技術の体系「ダイアネティックス」について解説したもので、1950年に米国で出版された後、50以上の言語に翻訳され合計2,000万部以上の大ベストセラーとなった。

まず最初に「存在の目的は生存である」とキッパリ割りきっているところが気持ちよい。人生の目的は「愛」だの「夢」だのとキレイゴトを言わない。(愛や夢を否定しているわけではありません)

その上で、人間は「生存の可能性」が高まると心地よく・快感を感じ・元気になるが、可能性が低くなると元気を失い・イライラして攻撃的になり・鬱になり・死ぬ、とする。

●生存の可能性が高まる → 褒められたり、仕事がうまく行ったり、仲間に認められたりして、未来における安全や生存の見込みが向上する状態

●生存の可能性が低くなる → 上司に怒られたり、社会的な失態を演じたり、戦争が起こったりして、先行きに希望が持てない状態

人間の生命力は、この「最高・無敵(ほぼ永遠に生きられる)」〜「生存の可能性ゼロ(死)」までの間を上下する、と説く。

また、人間には、無意識状態で知覚した出来事の記憶「エングラム」が多数存在し、心理の深層から影響を及ぼして非理性的で逸脱した行為を引き起こす。このエングラムを「オーディティング」と呼ばれるカウンセリング手法で探し出して消去する事で心身のパフォーマンスが向上する、という。全てのエングラムを取り去った人間は「クリアー」となり、健康で生産的で高い知性(最低でもIQ.135を超える)を発揮する。

「エングラム」は次のようなメカニズムによって発生する。

・人間は生涯において知覚する全てを「標準記憶バンク」に保存しており、この記憶は(普段は意識していなくても静思すれば)呼び出すことが出来る
・事故などで意識不明の状態にある間も知覚は働いており、音や会話、周囲に放出された感情などを記録するが、この記憶は「エングラムバンク」と呼ばれる場所に格納され「標準記憶バンク」の中に見つけられない(記憶がない)
・エングラムバンクに保存された無意識時の記憶が「エングラム」であり、そのままでは何も問題はないが、何かの刺激によって「キーイン」すると、人間に様々な逸脱をもたらす

【例】交通事故にあって昏倒した人間に「動かすな!」と言う声が聞こえる。その言葉がエングラムバンクに保存され、何かのきっかけでキーインすると、本来の意味である「救急車が来るまで動かすな」とは全く無関係な心理的拘束となる。例えば部屋が散らかっていても物を片付けられない(動かすな!)といった逸脱を引き起こしたりする。本人は、片付けができない理由がわからず、色々と見当違いな理由を考え出す。
※したがって、無意識状態にある人間の近くで、不用意な言葉を発してはならない。

・事故や精神的ショックなどの他、人間は、胎児の時代にちょっとした要因で「無意識」に陥る。エングラムは「細胞に刻み付けられた記憶」であるため、感覚器官が未発達な胎児でもエングラムを受け取る。普通の人間でも数百のエングラムは珍しくない。
・最も初期のエングラム(「ベーシックベーシック」と呼ばれる)を探し出し、消去することがオーディター(オーディティングを行うカウンセラー)の目標である。

・・・

まだ視覚も聴覚もない胎児の段階で聴いた「言葉」がエングラムとなって後の人生に影響を及ぼす・・という件は簡単に信じ難いですが、本全体は非常に面白い視点で人間を分析していると思います。

しかし残念ながら、本書を読んでも「セルフ・オーディティング」はできません。「クリアー」になるためには必ずオーディターからオーディティングを受けねばならないが、どのくらいの時間が必要かは見積もれない、としており(平均300時間くらいらしい)本書が発売されてから60年ほど経過しているわりに、ダイアネティックスが広く普及していないのも無理はないと思われます。

また、オーディティングの技術はサイエントロジー教会というところが提供しているが、この協会は一部の国でカルトと認定されたりもしているようなので気軽に飛び込んでみるのは躊躇われます。(発明された技術は素晴らしいと思うのですが)

・・というわけで、とても興味深くまた有用性がありそうな内容ですが、本を読んだだけでは何ら役に立たず、かといって少々危険な風評もあるサイエントロジー教会に出向き300時間(その間に相当の費用も発生するであろう)掛けて「クリアー」を目指すというのも「・・・」なので、心理分野に強い興味のある方や、知的好奇心を満たすために読むという余裕のある方にお勧めします。
600ページを超える分量で、人間の心理構造に関する理論が独自の用語を伴って論じられるため読了には少々時間が掛かかります。

【追記】読了後に知ったのですが、ダイアネティックス理論と実践法を紹介したDVDがあるので、こちらも良いかもしれません。自分も近々入手してみようと思います。


posted by 武道JAPAN at 23:05 | Comment(3) | TrackBack(0) | 読書記録(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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