2009年03月25日

テロリズムの罠<左巻>新自由主義社会の行方 佐藤優

ベストセラーになった同著者の「国家の罠」を読んだ時に「外交官ってこんなに教養が必要なのかあ。それとも、この人が特殊なのかな?」と思ったが、これまた内容の濃い本で読み応えがあります。現下の社会・国際情勢がよく見えます。<右巻>と併せて、読むべし!

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2008年は2つの出来事により国際社会の秩序が悪化した。
1つはロシアvsグルジア戦争で、国家観の諍いに武力が安易に持ち込まれるようになった。
もう1つはリーマン破綻で、グローバル資本主義を放置すると深刻な危機が起こることを世界中が認識した。

これにより、新自由主義に基づくグローバル資本主義が終焉するかもしれないが、それは希望的観測で、もう歯止めが利かないところへきているのかもしれない。

グローバリズムは強国にとって有利な仕組みで、一部の経済エリートと、それに結びついた政治エリートのみが肥え、一般市民は冨を搾り出す原材料として使役される。
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ソ連崩壊により共産主義革命の心配がなくなると、先進諸国は労働者を酷使し強い経済主体がますます強大になる「新自由主義」グローバリズム路線に転換した。

日本でも小泉改革以降この路線が明確化し、グローバル企業が空前の利益を上げる傍らで格差社会が広がった。1960年代に克服したはずの「貧困」が復活し、年収200万円以下の貧困層が1000万人を超えるという異常事態が出現している。これは労働者が結婚して子供を持ち、教育を授けて家庭を再生産することが経済的に不可能な水準であり、このままいけば社会も国家も共倒れになるのは自明。

田中角栄型の日本式資本主義は、公共事業のバラマキで中央のお金を地方へ還元する仕組みだった。この方式は利権と腐敗を生むが、それは1億総中流の平和を維持するコストとして暗黙に認められてきた。グローバリズムを志向する小泉改革は、自民党のこの仕組みを破壊した。
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小泉改革の是非を問うても意味はない。新自由主義路線は、その時点での必然でありシンボルとしての保守ナショナリズムを靖国参拝などで巧に演出しつつ行った路線転換の結果、格差が出現した。新自由主義と保守は本来相容れず、安倍政権になって保守に軸足を移そうとしたものの、官僚との軋轢に負けて政府は瓦解した。
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リーマンブラザーズの破綻により、各国は行き過ぎた新自由主義からの反転を図り、国家機能を強化することで事態を乗り切ろうとしているが、人々を個々のアトム(原子)に分断する新自由主義の結果、バラバラになった国民を糾合することが出来ず困難に直面している。
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いかにグローバリゼーションが進んでも、現下の国際情勢の主体となるのは主権国家であり、国家なくして個人も企業も生存できない。新自由主義は小さな政府を求め究極は無政府状態を志向するが、最終的に経済主体は国家の庇護を必要とする。なぜなら、国家は常に他の国家や勢力を従属または支配しようと狙っており、国家の庇護のない経済主体は、その成果を容易に簒奪されるからである。

国家は、社会と分かちがたく結びついているが本質的に社会とは別の存在である。
歴史上、国家をもたない社会は存在するが、社会を持たない国家はない。なぜなら、国家とは概念ではなく、社会から租税を徴収する事によって生存する官僚機構によって運営される実体だからである。国家として考え、意思を持ち、行動するのは軍や警察を含む官僚機構であり、それは合法的な暴力を独占する機関であり、他の主体が暴力を保持することを許容しない。官僚機構は社会を支配しようとするが、支配が行き過ぎると社会の活力が失われ、国家も弱体化する。
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国家が存在するためには他の国家を必要とする。国家間には敵対と友好の関係が常に存在し、その中で生き延びていくためにインテリジェンス(諜報)は必須。日本には統合されたインテリジェンス機関がなく、国際スタンダードでは独立した機関が行う作業を、外務省・警察庁・公安調査庁・検察庁・国税庁・経済産業省・防衛省・海上保安庁が分散して行っており、これらを統合する仕組みがない。
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これからの世界をどうすべきか。権藤成卿(ごんどうせいきょう=西洋化を否定し東洋的自然社会を称揚した明治の思想家)の農本主義=交換よりも生産に重きを置く価値感を再考せし、まず最低限の食の安全確保をせよ。
日本は地域を基礎にする下からの共同体国家であり、複数の共同体を祭祀によって束ねる天皇の下で「君民共治」を行ってきた。このモデルに光を当て、地域共同体の相互扶助機能を回復する事が、これからの日本に必要。政府や官僚に頼るのではなく、市民自らが政治の主人という自覚を持つべし。




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2009年03月20日

テロリズムの罠<右巻>忍び寄るファシズムの魅力 佐藤優

グルジア戦争を機に見えたロシアの内在的論理を、ドイツの社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスの国家論を引き合いに出して考察する章などは特に面白い!読むべし!読むべし!

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●世界情勢の不安定要因
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ロシアでは磐石に見えるプーチン20年政権の影でシロビキ(KGB軍団)との暗闘が始まっているが、2020年まではプーチン/メドベージェフの二重権力体制が続き、この間に国家イデオロギーが構築されるであろう。
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中国では、党規約に「科学的発展観」が盛り込まれた。中国のような大国家を運営するには国家統合のイデオロギーが必要であり、21世紀中国の新しい神話を創造する試みと言える。この背後には、自国民は優秀であり、優秀な民族が適者生存の原理に則って発展するという社会ダーウィニズム的発想が見られる。
同様のイデオロギーは北朝鮮の主体思想にも、より強く現れている。これらの状況に対応して生き延びるためには日本も粗相戦の準備が必要。
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大統領選でヒラリーが当選していれば、ブッシュ(父)〜ビル・クリントン〜ブッシュ(子)〜ヒラリー・クリントンと、二つの家族による米国支配が出現した。これでは金正日の北朝鮮と大きく違わない。オバマの勝利でこれは阻止されたが、このような「王朝化現象」が世界最強国で出てきたことには注意が必要。
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イスラムテロ組織は、世界に唯一のカリフ帝国を作ろうと本気で考えている。
米軍の執拗な掃討作戦にも関わらず、タリバンは地下にもぐり、いまやアフガンからパキスタンにまたがる一大イスラム帝国の出現があたぶまれる。
各国はムシャラフ政権を支える事でこれを食い止めようとしたが、2008年8月に大統領は辞任し、自体は混迷を極めている。
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北朝鮮からのシリア・イランへの各技術供与は深刻な戦乱の種となる。
イスラエルは、ユダヤ国家がなかったために第2次大戦時に数百万のユダヤ人が殺された事により、「同情されながら死に絶えるよりは世界を敵に回してでも生き延びる」事を国是としており、周辺の反イスラエル国による核武装を絶対に許容しない。

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●国民国家に未来はあるか
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国家は、歴史上普遍の存在ではない。国家をもたない人間社会は存在するが、社会を持たない国家はない。
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国民国家の将来として予測されるひとつの道は、資本主義のダイナミズムに対応できず意味を失くしてゆく方向である。世界的に連結された金融・労働力市場において企業は国家の垣根を越えて投資し、移動する。第三世界における大量で安価な労働力の供給により、自立救済不能なほどの貧困が第一世界にも出現する。国家は徴税を課す対象を失えば存続できないため国際競争力を増す優遇措置を企業に与えるが、同時に弱者のための福祉を切り捨てれば政治の放棄となる。このジレンマに効果的な答えはない。

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●経済恐慌とファシズムの足音
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資本主義を成立させる「纂奪の思想」には、人間と人間の連帯性を破壊する暴力が潜んでいる。勝ち組/負け組みの出現〜貧困の発生はこのメカニズムによる。
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労働者が団結し異議申し立てをしない限り資本は自己増殖のための搾取を強化する。搾取には限界があり、労働者が生活し、結婚して子供を作り、世代を再生産できるだけの物資を与えられなければ資本主義を支える労働者が消滅し、資本主義の存続も不可能になる。
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年収100万円台の若者が1000万人も居り、「夢は年収300万円になって結婚すること」という状況は格差ではなく貧困であり世代の再生産が不可能な事態。
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絶対的貧困は不安を生み、富める者への敵愾心と外国人への排外主義と結びつきやすい。また不安は、国家を強化する運動に自らを埋没させることで、不安を解消しようとするファシズムへの道へと人を追い立てる。
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「資本主義への異議申し立てとしてのファシズム」を食い止めるには、政党・宗教団体・労働組合などの中間団体が影響力を保持し社会民主主義的な仕組みを成立させなくてはならないが、全ての個人がアトム(原子)に分断された現下の社会情勢では、求心力を持つ中間団体が力を持ちにくい。
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新自由主義は、日本型経営や終身雇用制を非合理として破壊したが、その結果として分断された人々は、個人で世界に対峙しなくてはならなくなった。その不安定さの隙間にファシズムの忍び込む余地がある。いま、企業が貧困に対処するための何らかのアプローチが求められる。


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2009年03月14日

幼児化する日本社会 ― 拝金主義と反知性主義 榊原英資

元大蔵官僚「ミスター円」こと榊原さんの本は判りやすく、なかなかうなずけるのだが、何となく物足りない。総花的に話題を拡げすぎたため、ひとつひとつを深く掘っていないのが惜しいのだろうと思う。

でも、間違った事は書いてないです。日本社会に警鐘を鳴らしています。後は具体的な処方箋が必要です。以下メモ

日本社会の幼児化
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何でも白黒・善悪・敵味方に判りやすく「ズバッと」やるテレビと、オール・オア・ナッシングで良いかダメと決め付ける満点主義が原因。現実の世界はグレーであり、物事には多様な見方がある。

日本は異質なものと出会う機会が少ない「箱庭社会」。異民族や宗教の違う者同士がダイナミックに交じり合う世界の中では特殊で脆弱。

家族形態
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農業社会(男女とも働く)→
戦後(よほど富裕な家庭の奥さま以外は女性も働く)→
高度成長期(専業主婦という形態が初めて出現)→
現代(ふたたび女性も働く)
・・というように「女性が社会で働かない専業主婦」というのは古い形態ではなく、比較的最近の数十年の現象。

ふたたび女性も働く時代が来たのだが、社会のシステムが専業主婦時代から変化できていないため、様々な弊害が出て家庭に於ける教育力が低下している。

事実婚の容認や、フィリピン等からナニー(ベビーシッター)を雇い入れる等の施策が有効では?

教育
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ゆとり教育は大失敗。日本の初頭・中等教育は先進諸外国からもお手本にされていたのに、壊してしまった。今は他国が、かつての日本のように充実した教育をしている。このままではポスト産業資本主義社会において日本の致命傷になる。

創造力を伸ばしたければ初等教育で暗記や詰込みが必要。新しいものを創造する力は、いかに多くのものを組合わせられるかで決まる。知識や経験がないと創造もない。

出来る子をどんどん伸ばす。悪平等で競争を否定してもダメ。

機会の平等を確保する事は必要だが、結果の平等はコントロールできない。出来る子、努力した子と、そうでない子に格差が出るのは当然。格差がなければ社会のダイナミズムも失われる。

世界史が必修で日本史が選択となっているのはおかしい。愛国心教育など画策する前に、そもそも自国の歴史をちゃんと教えよ。

企業倫理
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失われた10年は「再設計」の時期だった。なりふり構わず必死で生き延びたため、2000年代初頭から日本企業はタフになった。ただし、この間に企業倫理が失われてきたのではないか?社会に貢献するという企業本来の価値を作り出してゆくのはこれから。

企業はタフになったが、霞ヶ関は旧態依然。

マスメディア
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すごい影響力があるにも関わらず自制が足りない。抑制するカウンターパワーも存在しない。経団連は俗悪番組のスポンサーを止めよ。

専門家でもないコメンテーターやお笑い芸人が一言で「ズバッと」やれば爽快感はあるが事件や現象の背景や、本質的な問題を掘り下げて考える機会は失われる。

社会
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戦後、日本ではエリート潰しが行われ、知性や権威を否定して大衆化が進んだ。欧米、中韓ではエリート教育は大事にされている。
良い意味での「権威」は社会規範のために有効で、その頂点が天皇家。良質な権威が社会から失われると、おカネがすべての世の中になる。

規制緩和や地方分権は何でも良い事という風潮があるが、ただ現行システムを壊すだけで先にどんな仕組みを作るのか考えているか?開放して自由競争にさらせば貧しくなったり破綻する地方が出る。医療や教育を止めるわけにはいかない。その時のセーフティネットまで考えておかねばならない。

かつて地方財政は農業が支えていた。高度経済成長の時代に入り都市への一極集中が起こると、田中角栄の「列島改造論」で公共事業を与え農業から建設業へ転換して崩壊を防いだ。小泉改革で公共事業を止めたのは仕方がないが、地方の破綻をどう防ぐか。

農林水産業の活性化が鍵になるのではないか。農業の株式会社化・建設業を農業へ転換・農産物のブランド化など処方箋は考えられる。それを支える政策が必要。

今後のポスト産業資本主義社会では、おカネより知識や技術が産業の基になる。プロフェッショナルを育成する教育が重要で、社会人も学び続ける。

知の衰退を防ぐには
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1)解答は必ずしも「ない」と考える → 二分割思考に陥らない
  この世界に確実なものはない
  真実は立場や見方によって異なる
2)常識を疑え
3)部分的なもので全体を計るな

二分割思考と反知性主義によって大衆ポピュリズムが蔓延すると、簡単に操られ安易なファシズムに流れる危険が増す。

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と、いかにも官僚が書いたっぽい内容ですが、指摘は当たっています。むしろ正鵠を射ています。


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